モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
23冊目は「うるしと社会人の学び方②」。22冊目のラストで涙をこぼした鷺沼桃さん。TOEICは会社のため――と言っていたその本当の理由と、しをりさんとの関係が明らかになります。そして福山は、忙しい社会人のための勉強法を語ります。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 23冊目「うるしと社会人の学び方②」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
21冊目で涙目の「もう知らない!」を見せたしをりさん。週末、うるしと福山をイタリアンに誘い、鷺沼桃さんを紹介します。桃さんは、会社で管理職候補になるためにTOEIC600点が必要でした。
しをりさんが選んだ単語帳と問題集では勉強がはかどらない桃さんに、福山はまずはTOEIC対策本を使わないこと、中学英語から始めること、とアドバイス。しをりさんは、自分の尺度を押しつけていたと謝り、お手洗いに立ちます。すると、残された桃さんの目から涙がこぼれました。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 22話ネタバレ】22冊目|うるしと社会人の学び方①。昇進にTOEIC600点、福山「まずはTOEIC対策本を使わないことです」――大人の英語の学び直しを解説
「TOEICは会社のため」は嘘だった
戻ってきたしをりさんは、泣いている桃さんに驚きます。桃さんは、できない自分が情けない、と顔をおおい、こんなに泣いたらカッコつけていても仕方ない、と打ち明け始めました。(うるしは、不機嫌なだけだと思っていたので、カッコつけてたの!?とびっくり)
TOEICは会社のために受けるだけ、というのは嘘だった。本当は前から英語を勉強して、しをりさんと同じ目線に立ちたかった。英語が得意で海外経験もあるしをりさんに、見合う自分になりたかった。
でも、しをりさんとの時間も欲しい。仕事は忙しい。勉強の時間も必要。そもそも自分がダメだから勉強しなければならないだけなのに――。
「もう知らない!」の真相
21冊目の電話の真相も明らかになります。勉強があるから今週末は会えないかも、と連絡した桃さんに、しをりさんは、またドタキャン?時間を作れると言っていたのに、勉強を責めているわけじゃないけど、そんなに時間がないの?会いたくないの?――と電話で問いつめ、「もう知らない!」と切ってしまったのでした。
渡された本を見ても点がとれる気がしないのに、しをりさんは簡単だと言う。桃さんの気持ちは、どんどん卑屈になっていきました。
そして、しをりさんから届いたのが、ごめんね、勉強の悩みを解決するのがうまい人が会社にいるから会ってみない?ちょっと怖い人だけど――というメッセージ。それが今日の食事会だったのです。この場でも気をつかわせてしまった自分が情けない、と桃さんは泣きました。
「建設的に改善策を検討します」
しをりさんは、そんなふうに思ってくれていたのに一方的なことを言ってごめんね、と謝ります。悪いのもダメなのも自分なのに、と桃さん。
そこへ、いつのまにかデザートを食べ終えていた福山が口をはさみます。
「建設的に改善策を検討します」
福山は、会社のためというのは建て前で、実際は劣等感を埋めるために勉強している、それを隠したかったのにうまくいかず、人を呼び出して泣くはめになった――と、さらっとまとめてしまいます。うるしは、空気を読んでください!と悲鳴(笑)。桃さんも、まとめられると余計に情けない……とがっくり。
でも福山の本題はここから。単語しか手をつけられていないのは、時間の使い方に問題があるからではないか、と。
社会人の勉強に「理想」はいらない
桃さんは、そもそも使える時間がない、と言います。毎日帰宅は21時ごろ。家のことをすませたら、あっという間に寝る時間。平日に机に向かう時間なんて全然とれないから、週末に――。
福山は、その考え方を変えるべきだ、と言い切ります。
「社会人の勉強において『理想』は求めるだけ無駄です」
定時のあとに毎日2時間、机に向かって勉強する。会社勤めをしながら、そんな理想を実現するのはとても無理。でもTOEICは、ある程度までは勉強時間に比例して点数が上がる試験。だからこそ理想は捨てる、と。
福山の具体的なアドバイスはこうです。
- まとまった時間ができるのを待たない。テレビのCM中やゴロゴロしている時間など、どうでもいい時間に気づいて、そこを勉強にあてる
- 勉強は机でするものと決めつけない。日本では学習机での勉強をイメージしがちだが、海外にはリラックスしながら勉強する文化もある
- 週末だけにまとめてやろうとすると、できなかったときに1週間何もしていない自分に落ちこみ、勉強への抵抗感がたまっていく
最近の私だ……と、うるしもドキッ。
そして福山は、楽しい趣味の時間は削らなくていい、と付け加えます。代わりに少し工夫をする。例えば、家で映画を見るときに英語にする。最初は字幕ありでいいから、聞き取ることを意識すれば、英語に慣れていける。
「しをりさんの見てる世界を一緒に見たい」
頑張ってみます、と桃さん。そして、ぽつりと本音を口にします。自分には胸を張れるものが何もない。でも、しをりさんに出会ってからは毎日が楽しい。
「しをりさんの見てる世界を一緒に見たいんです」
その言葉に、うるしが思わず、わかります、と身を乗り出します。自分にも胸を張れるものがない。でも、編集の人たちといると、みんなが熱意を注いでいる参考書のことを理解したくなる。同じ地平に立って、同じものが見られたらと思うから――。言い終えてから、共感しすぎてすみません、とあわてるうるし。それを、福山が黙って見ていました。
「付き合ってる、ってことでいいんですよね?」
店の外で、桃さんはお礼を言うと、自分は別の駅だから、と先に帰っていきます。
胸を張れるものなんてなくても、桃さんらしくいてくれればいいのに、とつぶやくしをりさん。そこでうるしが、今さらながらたずねます。お二人って、付き合ってるってことでいいんですよね?
しをりさんの答えは、バレた?。(むしろ、これで気づかないほうが……というのは心の中のうるし)
最初は、バーで出会った年の離れた映画友達だった。ふたりとも女性と付き合うのは初めてで、相手にも心の準備があると思うと、勝手には人に言えなかった。でも、ささいなことでこんなふうになってしまって、愛想をつかされてしまうかな、としをりさん。
「ホントにもうっ!」
うるしは、しをりさんがお手洗いに立っていたときのことを話します。実はあのとき、桃さんは、自分がこんなだから、ちゃんと紹介もしてもらえなかった、嫌われたかも、と大泣きしていたのです。「そうしたら、しをりさんも……」と言いかけた言葉の続きは、胸を張れる自分になれたら、ちゃんと紹介してもらえるかも、だったのでしょう。
それを聞いたしをりさんは、
「ホントにもうっ!」
と、桃さんを追いかけて駆け出します。また会社でね!と手をふって。
恋愛の悩みまで解決しちゃいましたね、と得意げにふり返るうるし(自分は何もしていないけど)。ところが福山は、とっくに姿を消していました。せめてひと言言ってから帰ってください!(笑)
「茅野が最近妙な気がする」
週明け。山崎さんに昼食に誘われた福山は、本を読みながら、うるしの「同じ地平に立って、同じものが見られたら」という言葉を思い出していました。
そして桃三郎でラーメンをすすりながら、山崎さんにひと言。
「茅野が最近妙な気がする」
山崎さんの心の声は「あちゃ~……」。24冊目へ続きます。
【ガクサン流・社会人のすきま時間勉強法】「理想」を捨てて、細かく続ける
23冊目で福山が語ったのは、忙しい社会人のための勉強の続け方でした。TOEICに限らず、資格の勉強などにもそのまま使えます。研究の裏づけとあわせて整理してみましょう。
1. 週末にまとめるより、毎日少しずつ
福山の「細かい時間を柔軟に使う」には、記憶の研究からの裏づけがあります。
同じ時間勉強するなら、一度にまとめてやるより、間をあけて何回かに分けたほうが記憶に残りやすい。これは分散学習(分散効果)と呼ばれ、数百の実験をまとめた分析でも、くり返し確かめられています。(Cepeda ほか, 2006)
週末に3時間まとめてやるより、平日に20分ずつ。福山のアドバイスは、続けやすさの面だけでなく、覚えやすさの面でも理にかなっているんですね。
2. 「できなかった自分」に落ちこまない仕組み
福山は、週末だけにまとめると、できなかったときに1週間何もしていない自分に落ちこみ、抵抗感がたまっていく、と言いました。
16冊目で福山が言った、やる気は出すものではない、「やる気がなくてもやる」状況を作る、という話ともつながります。新しい行動が習慣になるまでには平均で2か月あまりかかったものの、ときどき1回休んでも、習慣づくりにはほとんど影響しなかった、という研究があります。(Lally ほか, 2010)
1日できなくても、また次の日に少しやればいい。「毎日少し」は、1回の失敗でくずれにくい計画でもあるのです。
3. 映画は字幕つきで――「楽しみ」を英語にする
福山の「趣味の時間を削らず、映画を英語にする。最初は字幕ありでいい」も、研究で支持されています。
外国語の動画学習の研究をまとめた分析では、外国語の字幕(音声と同じ言語の字幕)をつけて見ると、字幕なしより聞き取りや語彙の学習に効果がある、という結果が出ています。(Montero Perez ほか, 2013)
まずは英語音声+英語字幕、慣れてきたら字幕を外していく。聞き取りを意識するのがポイントです。
4. 机にこだわらない
「勉強は机でするもの」と決めつけない、というのも福山の大事な助言です(ここは作中の福山の助言です)。通勤電車で単語帳、寝る前にソファで音声を聞く、休日はカフェで問題を1セット。机を片づけないと始められない、という人ほど、場所の縛りを外すと始めやすくなります。
ぱっと見まとめ:社会人のすきま時間勉強法
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 理想を捨てる | 「毎日2時間机で」はやめる。できる量から |
| 2 | すきまを見つける | CM中・ゴロゴロタイム・通勤など「どうでもいい時間」を探す |
| 3 | 分けてやる | 週末にまとめず、毎日少しずつ |
| 4 | 場所を選ばない | 机でなくていい。ソファでも電車でも |
| 5 | 趣味を英語に | 映画は英語音声+英語字幕から |
社会人の勉強チェックリスト(23冊目から)
[ ]平日に使える「すきま時間」を3つ書き出した[ ]1回5〜15分でできる勉強メニューを決めた[ ]机以外で勉強できる場所を決めた[ ]できなかった日があっても、次の日に少しやればいいと決めた[ ]好きな映画やドラマを英語音声・英語字幕で見てみた
参考文献
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.
- Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009.
- Montero Perez, M., Van Den Noortgate, W., & Desmet, P. (2013). Captioned video for L2 listening and vocabulary learning: A meta-analysis. System, 41(3), 720–739.
ガクサン 23冊目 感想・考察
【今回の一番】「しをりさんの見てる世界を一緒に見たいんです」
23冊目でいちばん胸に来たのは、桃さんのこの言葉です。
「しをりさんの見てる世界を一緒に見たいんです」
22冊目の桃さんは、仕事で必要だからやるだけ、意味があるかは気にしていない、とクールにふるまっていました。でも本当は、大好きな人と同じものを見たくて英語を勉強していた。勉強の理由が「昇進」から「好きな人」に変わった瞬間、桃さんの印象ががらりと変わりました。
12冊目の葵さんも、理転の理由は「初恋」でした。誰かを好きになる気持ちは、勉強のいちばん強い原動力になる。『ガクサン』は、そういう動機をちゃかさずに、まっすぐ描いてくれる作品なんですね。
しをりさんと桃さん――ふたりの関係
ふたりが付き合っていることも、この回ではっきりしました。
最初はバーで出会った年の離れた映画友達で、ふたりとも女性と付き合うのは初めて。しをりさんが「ご友人」と紹介したのは、桃さんの心の準備を思って、勝手に人に言えなかったから。一方の桃さんは、自分が胸を張れないから紹介してもらえないのだ、と思いこんでいた。
相手を思うからこその遠慮が、すれ違いを生んでいたわけです。21冊目の「もう知らない!」と、23冊目の「ホントにもうっ!」。同じ「もう」でも、まったく違う意味に聞こえるのがすてきでした。
うるしの「付き合ってるってことでいいんですよね?」に、しをりさんが「バレた?」と笑って答える場面も好きです。特別なことではなく、ふつうの恋人どうしのけんかと仲直りとして描かれているのが、この作品らしいところだと思いました。
福山の「空気を読まない」まとめと、本題
桃さんの涙のあとに、福山がまとめた「建前で、本当は劣等感を埋めるため、人を呼び出して泣くはめに」。うるしの、空気を読んでください!に、おじさんも全力で同意です(笑)。
でも福山は、泣いている理由をはっきりさせたうえで、すぐに「時間の使い方」という解決できる問題に話を移しています。気持ちの問題をいつまでもこねくり回さず、手を打てるところから手を打つ。12冊目の理転の相談で「そぎ落とす」戦略を立てたときと同じで、福山の相談対応はいつも具体的です。
22冊目の「過去の成功体験は忘れてください」に続いて、23冊目は「理想は捨ててください」。どちらも、今の自分にできることから始めるという同じ考え方なんですね。
うるしの「同じ地平に立って」
この回でもうひとつ大事なのが、うるしの言葉です。
「同じ地平に立って同じものが見れたらって思うから…っ」
胸を張れるものがない、でも編集の人たちが熱意を注ぐ参考書を理解したい。桃さんへの共感から、うるしの本音がこぼれました。16冊目の「私自身は何者でもないまま」、20冊目の社内公募と、うるしはずっと「自分も編集の側に行きたい」と思ってきました。
それを、福山が黙って聞いていた。そして週明けに、茅野が最近妙な気がする、と山崎さんに言う。17冊目で山崎さんは、福山は編集者にトラウマがあるから、うるしの編集者志望は言わないほうがいい、と忠告していました。福山は、うるしの本気に気づき始めたのでしょうか。山崎さんの「あちゃ~」が、24冊目への不安をかき立てます。
まとめ
- 桃さんの涙のわけ:TOEICは会社のためは建前。本当は、しをりさんと同じ目線に立ちたかった
- 21冊目の「もう知らない!」は、勉強で会えない桃さんへの電話のけんかだった
- 福山「建設的に改善策を検討します」。問題は時間の使い方
- 「社会人の勉強において『理想』は求めるだけ無駄です」。すきま時間を使う、机にこだわらない、趣味の映画を英語に
- 桃さん「しをりさんの見てる世界を一緒に見たいんです」。うるしも「同じ地平に立って」と共感
- しをりさんと桃さんは付き合っていた。しをりさん「ホントにもうっ!」と桃さんを追いかける
- 週明け、福山「茅野が最近妙な気がする」。山崎さん「あちゃ~」
23冊目は、勉強の理由と恋がまっすぐに重なる、あたたかい回でした。福山はうるしの何に気づいたのか。24冊目が待ちきれません!

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