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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
10冊目は、「ロングセラー参考書は老舗のラーメンスープ」の答え合わせ。そして、山崎の口から福山が編集者だったころの姿がついに語られます。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。10冊目は2巻に入っています。
ガクサン 10冊目「うるしとロングセラーの秘密②」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
山崎の「お願い」は、社内の編集者たちがこっそり開いている勉強会「しをり会」に来てほしい、というもの。本当の目的は、この会に福山を呼ぶことでした。
会で語られたのは、参考書は「限られたパイの奪い合い」で、定番書は何十年も売れ続けるということ。うるしの「どうして古い参考書が今でも人気なんですか?」に、書店営業の谷津は答えます。
「ロングセラー参考書は老舗のラーメンスープだからだよ!」
前回の記事はこちら → 【ガクサン 9冊目】うるしとロングセラーの秘密①。社内の勉強会「しをり会」へ――参考書は「限られたパイの奪い合い」
▶ 次の話(11話)はこちら → 【ガクサン 11話ネタバレ】11冊目|うるし、理転について考える①。数学が苦手な文系の高3が「理転したいんです!」――マセマで苦手を克服、そして相談者の父はまさかの…
継ぎ足しで、うまみが熟成
しをり会の面々がやってきたのは、5冊目にも出てきた町中華「桃三郎」。ラーメンをすすったうるしは、はっとします。
「継ぎ足しでうまみが熟成されている…!?」
山崎の「急な食レポ」というツッコミをよそに、谷津は「その通り」。昔からの内容に、新しい要素が継ぎ足されて熟成されている。それが、古い参考書がロングセラーであり続ける理由だというのです。
「チャート式」の100年
例に挙がったのは、数学の『チャート式』。うるしも持っていたけれど、分厚くて使いこなせなかった一冊です。
川口がボソッと解説します。チャート式は、大正末期の京都で教育事業をしていた星野華水が考えた数学教育のしくみがもとで、1929年の『チャート式代数学』『幾何学』が源流。もう100年近い歴史があります。チャートとは「海図」、数学の航路と難所を示してくれる本、という意味だそうです。
長い歴史の中で選び抜かれた良問が載っている、という信頼感。それが「熟成」された部分です。
継ぎ足されてきた「新しい要素」
では、継ぎ足されてきたものは何か。
- 解答のページに問題文が載っている。これを初めてやったのがチャート式だと谷津。本文に戻らなくていいから、解答編だけ持ち歩いて復習できる
- 本文のQRコードを読みこむと、例題の解説動画が見られる(赤城)
- 共通テストで増えた「実生活を題材にした問題」より前から、日常の数学をコラムで載せていた(山崎)
花山は「柔軟だよね~」「うちの数少ない定番書も見習わないと…」。赤城は「編集者たちがよりよくしたいと思っているから、慢心せず継ぎ足していけるんだろうな」。
……ちなみに桃三郎のおかみさんいわく、「うちのスープは継ぎ足しとかじゃないの~」(笑)。
新刊パトロールと、川口の15年
帰りに寄った書店「山星堂」で、うるしは気づきます。参考書の棚には、学生のころに見たことのある本が多い。
花山によると、学習参考書は年に5000冊以上も出ているのに、新しい本は「ロングセラーを持っている人に、プラスアルファでおすすめ」という立場になりがち。書店も新刊は様子見で、2冊だけ棚に差しておく、ということも多いそうです。
そして川口がぽつり。「僕ももういぶき社で15年間いろんな本を作ってきましたけど」「定番ラインナップに割りこめてる本は全然作れてないですね」
「ロングセラー自体をこれから作るのは難しいんですか?」
店の外で、うるしは山崎に聞きます。新しい本がなかなか売れないなら、参考書の編集者はやる気がなくならないのか。「ド直球なこと聞くなぁ」と苦笑する山崎に、うるしは言い直します。
「ロングセラー自体をこれから作るというのは難しいんですか?」
山崎は、まだ話していなかった福山をしをり会に呼びたい理由を語りはじめます。
「福山はわからない人がわかるようにできる編集者だったんだ」
福山は以前、高校国語編集部にいた。作った本は今でも売れていて、当時は「ヒットメーカー」と呼ばれていた。
「福山はわからない人がわかるようにできる編集者だったんだ」
それが仕事じゃ……と首をかしげるうるしに、山崎は説明します。編集者は、担当科目がもともと得意な人ばかり。英語なら入社前に英検1級、TOEIC満点がゴロゴロいる。子どものころから勉強が苦じゃない人に、読者の「苦手」「わからない」をつかむのは簡単じゃない。
でも福山は、参考書オタク一本槍で入社してきた人。参考書に出会って、初めて勉強が好きになれたらしい。だから読者の気持ちに寄りそえる。
「読者以外の気持ちは全然わかんなさそうなのに…」と言ううるしに、山崎は「言うね~」(笑)。
「参考書を作って売る才能の塊」
さらに福山は、地域の学校がどの教科書や参考書を使っているかを把握していて、どこの誰に営業をかければ何が売れるかまでわかっている。
1冊目で、聖暁中の男子に「教科書は『NEW CROWN』だったな」と言い当てた場面がここで回収されます。態度は悪くても参考書への姿勢はまっすぐだから、書店や学校の先生には好かれている。
「参考書を作って売る才能の塊だったんだよ」
だからこそ会社は福山を切らずにおいている、と山崎。そして小さく、「ちょっと嫉妬しちゃうけどね」。
「自業自得だ」
じゃあ、なぜ福山はあんな処遇なのか。うるしの質問に、山崎は「いろいろあったからな」とだけ。
そこへ谷津が「俺らがフォローしてやる必要もないだろ」「自業自得だ」。山崎は「それもそうなんですけど…賛否両論っていうか…」と言葉を探しますが、そこで赤城たちが戻ってきて、話は途切れてしまいます。
「ようこそしをり会へ!」
帰り道の神保町。山崎は打ち明けます。会社の方針は、既存の人気参考書を長く売り、新刊は短期的なものでいい。でも――。
「少なくとも俺たちは新しいロングセラーを生み出したいと思ってるんだよ」
そのために福山の力を借りたい。「もったいない」から。そして、茅野さん自身の力も。
花山は「ご相談係のSNS見てるよ~」。ロングセラーを作るには何よりクチコミが大切だから、どんどん勉強して盛り上げてほしい、と。
知識もないし、SNSも勢いで始めたこと。この会で何ができるんだろうと思っていたうるしは、まっすぐに言います。「参考書のこともっとわかりたいです」「この会にまたぜひ呼んでください!」
山崎の「ようこそしをり会へ!」。そのころご相談室では、福山が「へっくちっ」とくしゃみをしていました。
【ガクサン流・チャート式の使い方】分厚い参考書を使いこなすには
うるしは「分厚くて使いこなせなかった」と言っていたチャート式。作中に出てきた工夫は、実は勉強のしかたとして理にかなっているものばかりです。研究とあわせて見てみます。
「例題と解答」を読むのは、立派な勉強
チャート式の中心は、例題とその解き方。解く前に「解き方の例」を読むのは、ズルではありません。
代数の問題で、問題をたくさん解かせるより、解き方の例(例題と解答)を読ませたほうが、早く正確に解けるようになったという実験があります。「例題効果(worked example effect)」と呼ばれています。(Sweller & Cooper\, 1985)
とくにその分野を学びはじめたばかりの人ほど、例題から入るのが効果的です。
解答を読むときは「なぜ?」を自分に説明する
ただし、ただ眺めるだけではもったいない。
例題を学ぶ学生を調べた研究では、解答の一行ごとに「なぜこうなるのか」を自分で説明しながら読んだ人ほど、よく問題が解けるようになったことがわかっています。「自己説明」と呼ばれる方法です。(Chi et al.\, 1989)
解答ページに問題文が載っていれば、問題と解答を見比べながら「なぜ?」を考えやすい。チャート式の「継ぎ足し」は、この読み方を助けてくれます。
分厚い本は「全部」やらなくていい
うるしのように分厚さで挫折しないためには、1冊を全部やろうとしないことも大切です。
- 学校の授業で今やっている単元だけ開く
- まず例題だけを1周する(練習問題は2周目から)
- 解答編を外して持ち歩き、すき間時間に「問題→解き方」を思い出す
最後の「思い出す」は、6冊目の記事で紹介したテスト効果の使い方です。※使う範囲や順番は一例です。学校や志望校に合わせて変えてください。
ぱっと見まとめ:チャート式の使い方
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 範囲をしぼる | 授業で今やっている単元だけ開く |
| 2 | 例題を読む | 解く前に、例題と解き方を読む |
| 3 | なぜ?を説明する | 解答の一行ごとに理由を自分に説明する |
| 4 | 例題を解き直す | 解答を隠して、例題を自力で解く |
| 5 | 練習問題に進む | 例題ができたら、練習問題を解く |
| 6 | 解答編を持ち歩く | すき間時間に問題を見て解き方を思い出す |
チェックリスト
[ ]最初から全部やろうとしていないか[ ]今の授業の単元だけを開いているか[ ]例題の解答を「なぜ?」と考えながら読んでいるか[ ]解答を隠して、例題を自分で解けるか[ ]解答編や解説動画など、本についている工夫を使っているか
参考文献
- Sweller, J., & Cooper, G. A. (1985). The use of worked examples as a substitute for problem solving in learning algebra. Cognition and Instruction, 2(1), 59–89.
- Chi, M. T. H., Bassok, M., Lewis, M. W., Reimann, P., & Glaser, R. (1989). Self-explanations: How students study and use examples in learning to solve problems. Cognitive Science, 13(2), 145–182.
ガクサン 10冊目 感想・考察
【今回の一番】「福山はわからない人がわかるようにできる編集者だったんだ」
このおじさんが10冊目で一番ぐっときたのは、山崎のこの言葉です。
勉強が得意な人ばかりの編集部で、参考書に出会って初めて勉強が好きになれた人。だから「わからない」の気持ちがわかる。
6冊目で福山は、台所のテーブルでひとり勉強した過去と、「それでもだ 希望はあった」「それが参考書だ」を語りました。10冊目の山崎の話は、その答え合わせのようです。
福山にとって参考書は「希望」で、その希望を作る側にいた。だからこそ、今の福山が倉庫のような部屋にいることが、よけいに重く感じられます。
1冊目の「NEW CROWN」がここで回収
「聖暁中の英語の教科書は『NEW CROWN』だったな」。1冊目の書店フェアで福山がさらっと言った一言が、10冊目で「営業の才能」として回収されました。
あのとき、うるしは「なんでわかるんですか!?」と驚くだけでした。でも、地域の学校の採用教科書まで頭に入っているというのは、編集と営業の両方を知る人ならでは。2冊目の山崎の「歩く資料室」も、ここでつながります。
山崎の「ちょっと嫉妬しちゃうけどね」
山崎はいつもさわやかで、人当たりのいい人として描かれてきました。その山崎が、さらっと「ちょっと嫉妬しちゃうけどね」。
同期で、同じ高校国語の編集。才能の塊だった福山を、山崎はずっと近くで見てきたのでしょう。9冊目の「あいつすねてるから」と合わせると、二人のあいだには、まだ語られていない関係がありそうです。
「自業自得だ」――賛否両論の「いろいろ」
谷津の「自業自得だ」と、山崎の「賛否両論っていうか…」。3冊目から続く福山の異動の「いろいろ」は、10冊目でも明かされませんでした。
ただ、わかったこともあります。会社は福山を「切らずにおいている」。つまり、何か大きなことがあって、編集部を外された。そして社内には、福山に厳しい人と、同情的な人がいる。
ヒットメーカーが倉庫の部屋へ。その理由が明かされる日が、待ち遠しいです。
川口の15年と、新しいロングセラー
10冊目で静かに胸にきたのが、川口の「15年間作ってきたけど、定番に割りこめた本は作れていない」。
会社の方針は「定番を長く売る、新刊は短期でいい」。それでもしをり会のメンバーは、「新しいロングセラーを生み出したい」。うるしの「ド直球」な質問は、彼らが一番言いたかったことを引き出したのかもしれません。
チャート式も最初は新刊でした。ロングセラーは、誰かが「よりよくしたい」と継ぎ足し続けた結果。8冊目の「愛し続けた結果として、その一冊が運命になる」とも重なる、きれいな構成です。
うるし、しをり会へ
「知識もないし、SNSも勢いで始めたこと」。うるしはずっと、自分には何もないと思ってきました。1冊目の「何をしても胸を張れる答えが見つからない」からずっと。
そんなうるしに、花山の「ご相談係のSNS見てるよ~」「期待してるよ!」。勢いで始めたことを、ちゃんと見てくれている人がいた。
「まだこれが答えなのかはわからないけど」。うるしが自分から「もっとわかりたい」と言えたのが、10冊目のいちばんの成長だと思います。そして最後に、何も知らない福山のくしゃみ。うまいオチでした(笑)。
まとめ
- 「老舗のラーメンスープ」の意味は、昔からの内容に新しい要素が「継ぎ足し」で熟成されていること
- 例はチャート式。1929年が源流の100年近い歴史。解答ページの問題文、解説動画、日常の数学のコラムなどを継ぎ足してきた
- 新刊は年5000冊以上出るのに、定番に割りこむのは難しい。川口は15年で一冊も作れていないと語る
- 福山は元・高校国語編集部の「ヒットメーカー」。「わからない人がわかるようにできる編集者」で「参考書を作って売る才能の塊」
- 異動の理由は「いろいろあった」。谷津は「自業自得だ」、山崎は「賛否両論」
- しをり会は「新しいロングセラーを生み出したい」。そのために福山とうるしの力を借りたい
- うるし「参考書のこともっとわかりたいです」→「ようこそしをり会へ!」
ヒットメーカーだった福山に、何があったのか。うるしは、福山をしをり会に連れてこられるのか。11冊目が楽しみです。
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。

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