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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
11冊目から新しいお話。数学が苦手な文系の高校3年生が、「理系に変わりたい」と相談にやってきます。福山がすすめたのは、またしても他社の本。そしてラストには、とんでもない事実が明かされます。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。11冊目は2巻に入っています。
ガクサン 11冊目「うるし、理転について考える①」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
ロングセラー参考書は「老舗のラーメンスープ」。昔からの内容に、新しい要素が継ぎ足されて熟成されている――。しをり会で、うるしはチャート式を例に、ロングセラーの秘密を教わりました。
そして山崎の口から、福山の過去が語られます。福山は元・高校国語編集部の「ヒットメーカー」。
「福山はわからない人がわかるようにできる編集者だったんだ」
「新しいロングセラーを生み出したい」と語るしをり会のメンバーに、うるしは「参考書のこともっとわかりたいです」。こうして、しをり会の一員になりました。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 10冊目】うるしとロングセラーの秘密②。チャート式は「老舗のラーメンスープ」? 福山は「ヒットメーカー」だった
▶ 次の話(12話)はこちら → 【ガクサン 12話ネタバレ】12冊目|うるし、理転について考える②。理転の理由はまさかの「初恋なの!!」――福山の「そぎ落とす」戦略と、谷津パパの涙
福山が作った参考書
休日のうるしが部屋で読んでいるのは、福山が作った参考書『リーチ現代文 指針と演習』(いぶき社)。山崎に「一番売れてるのはこれかなー」と教えてもらい、資料室からこっそり借りてきた一冊です。
※『リーチ現代文』は作中の架空の本です。
「このすごさは私にはまだわかんない」。でも、2冊目で教わったとおり「はじめに」を読むと、なんだかわくわくする。
「勉強頑張ったらどんな自分にだってなれそうな気がする」
目標①②、壁に貼る
しをり会のみんなは「空欄が埋まってる」。でも私は……。そう思いかけたうるしの頭に浮かぶのは、5冊目の相談者の「希望が持てました」、そして花山の「期待してるよ!」。
「だれかが必要としてくれるならそれでいいのかな…」
うるしはマーカーを手に取り、紙に大きく書きます。
- 目標① 福山さんを研究会につれてくる!!
- 目標② ご相談係をがんばる!!(参考書にくわしくなる!)
「紙に書くのいいな やる気出る」「高校生の時も貼ってたな~」。……でも、そのうち風景になって、貼ったことさえ忘れちゃうんだけど。「ってそれじゃダメやないかーい!!」(笑)
「業務が滞るから事前に言え」
週明けのご相談室。福山がいきなり聞きます。「先週金曜の午前どこ行ってた」
冷や汗をかきながら「人事から…呼びだしで…」と答えるうるし。福山は「…業務が滞るから事前に言え」とだけ。
福山さんがそんなことを気にするなんて。「こんな調子じゃしをり会に誘えるわけないよ~っ」
「今、会社の近くまで来ているので」
そこへ、ご相談係のSNSにDMが届きます。
「高3です。どうしても数学が苦手です。独学でなんとかしないといけないんです。今、会社の近くまで来ているので相談に乗ってください。」
福山は「断れ」「直接対面はさすがにありえん」。でもDMは「来てます」「近くの喫茶店にいます」「助けてほしいんです!!」と続きます。
花山の「期待してるよ!」を思い出したうるしは、ある作戦に出ます。福山の机に、雑誌の「神保町で今食べたいパンケーキ!」のページをそっと置く。福山「…昼メシ行ってくる」。甘党の福山、まんまと釣られました(笑)。
「なんだこの状況は」
喫茶店。パンケーキを前にした福山の向かいには、そばかすの女子高生。「なんだこの状況は」
うるしは「今回のご相談者さんです!」。なぜか山崎まで「です!!」。「面白そうだったから…」だそうです。
相談者の名前は葵(あおい)。高3になったばかり。制服を見た福山は「円美学園か」。いいところの中高一貫校です。
「どうせ受験まであと1年を切って焦り出したとかだろ」。いつもの毒舌に、葵は「そうじゃないんです」。
「理転したいんです!」
「…理転したいんです!」
理転とは、文系から理系に変えること。高2のとき、学校のみんなや親に流されて文系クラスを選んでしまった。でも、やりたいことができた。
英語と日本史は得意で、先生には難関大も目指せると言われている。でも数学は、高2の数II・Bのテストで平均よりかなり下。「苦手なんです」「…でもどうしてもやらなくちゃ…」
前のめりなうるし
「学校で理系クラスに編入は無理なのか?」と話を進めようとする福山。そこでうるしが、ガタッと立ち上がります。
「理転したい理由って何…かなって…」
理由を聞かないと、志望学部もわからない。お客様ご相談係として、丁寧に対応したい。福山は「間違ってはないが」と言いつつ、「…しかし妙に前のめりじゃないか?」。しをり会のこと、目標①②のこと。うるしにも、隠していることがあるのです。
ところが葵は、「言えません…」。
福山の見立て「難関大は無謀だ」
志望は決まっている。行けるなら情報系か工学系。
でも高3からの理系クラスへの変更は、先生にダメだと言われた。進学校は、文系と理系で授業の進み具合がまったく違うからです。塾は? と聞く山崎に、葵は「……だめです 親が…」。
福山の見立ては、きびしいものでした。
「今からの参考書独学では難関大は無謀だ」
ただし、それ以外なら志望の学部に行ける可能性は充分ある。そのために、数IIIはやらないと決める。理科もなめてはいけない。
「それじゃ納得してもらえない…」。カバンをぎゅっと握る葵。それでも、「でもっ やるしかない…!」「…とにかく数学が苦手じゃなくなる方法 教えてください!」
「教科書すらわからない人も『読めばわかる』本」
「だったらうちにも初歩用の本が」と言いかけたうるしをさえぎって、福山が取り出したのは――。
「マセマ出版社の『初めから始める数学』シリーズ」
また他社の本。せっかくのPRチャンスが……とうなだれるうるし。しかも福山、朝買ったばかりの新課程版を持ち歩いていました。
「うちのよりずっと易しい」「教科書すらわからない人も『読めばわかる』本」。17日間の講義という形だけれど、集中すれば数学Iの全体像を1~2週間でつかめる。練習問題は全部で39問だけだから、繰り返しやすい。
それができたら、次は『元気が出る数学』シリーズへ。「これが完璧になるころには数学が苦手だとは思わなくなるだろう」。
ただし福山は、甘いことは言いません。これらを完璧にして、ようやく全国模試の平均点あたり。発展的な内容は、また別の参考書で学ぶことになる。
「君次第だ」
「学びたいことを教えてくれる参考書はいくらだってある」「だがきちんと学べるかどうかは…」「君次第だ」
これからの1年弱は、険しい道のりになる。
そこでうるしが切りこみます。「本当に独学受験じゃなきゃいけないんですか?」「なんか…いろんなこと隠してないですか…?」
「…親御さんはなんて言ってるの?」と山崎。びくっとした葵が口にしたのは、聞き覚えのある名前でした。
「谷津司…」「…父です」
しをり会の、あの谷津さん!?
「父を説得してくれませんか…!」。山崎の「…まじ?」で、12冊目へ続きます。
【ガクサン流・数学の苦手克服】文系から「数学が苦手じゃなくなる」には
葵の「数学が苦手じゃなくなる方法」に、福山が出した答え。作中の助言を、研究とあわせて整理してみます。
1. やらない範囲を決める
福山がまず言ったのは、「数IIIはやらないことにしたほうがいい」。残りの時間で全部はできないから、やることをしぼる。これは作中の福山の助言です。
実際に必要な科目は、大学・学部・入試方式によって違います。※志望校の募集要項で、数学の出題範囲と理科の科目を必ず確認してください。
2. 一番易しい本から始める
福山がすすめたのは「うちのよりずっと易しい」本。山崎も「この問題だけでも完璧にできたらちょっと自信がつくかも」。
人が「自分にもできる」と思えるようになる一番の材料は、実際に自分でできたという経験だとされています。心理学者バンデューラは、これを「自己効力感」の一番強い源と考えました。(Bandura\, 1977)
苦手な人ほど、背伸びせず、確実に「できた」を積める本から。1冊目の「とってもやさしい中1英語」と同じ考え方です。
3. 「3回○がつくまで」時間をおいて繰り返す
マセマの本の練習問題には、CHECK1・2・3の欄があります。「3回○がつくまで時間をおいて繰り返そう!」
これは、研究でも効果が確かめられている方法にそっくりです。
- 同じ量を勉強するなら、一気にやるより間をあけて分けたほうが、よく覚えていられる(分散学習。Cepeda et al.\, 2006)
- 一度正解して終わりにせず、日をあけて、また正解できるまで解き直すと、長く忘れにくくなる(Rawson & Dunlosky\, 2011)
39問という「少なさ」も、繰り返しやすさのためには大事なポイントです。
4. 完璧にしてから、次の本へ
『初めから始める数学』で数II・Bまでわかるようになったら、『元気が出る数学』へ。1冊を完璧にしてから、少しずつレベルを上げる。これも作中の福山の助言です。
1冊目の「潰す」、8冊目の「愛し続けた結果として、その一冊が運命になる」ともつながります。
5. 「苦手」の気持ちも、やっかいな敵
数学への不安が強いと、頭の中の「作業スペース(ワーキングメモリ)」が不安に使われて、本来の力が出にくくなることがわかっています(Ashcraft\, 2002)。
試験の直前に10分ほど、不安な気持ちを紙に書き出すと、成績が上がったという実験もあります(Ramirez & Beilock\, 2011)。葵のように「苦手なんです」と思いこんでいる人は、試してみる価値がありそうです。
ぱっと見まとめ:数学の苦手克服
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 範囲をしぼる | 志望校に必要な範囲を確かめ、やらない範囲を決める |
| 2 | 易しい本から | 「読めばわかる」レベルの本で、できた経験を積む |
| 3 | 3回○まで | 練習問題を、日をあけて3回正解するまで解き直す |
| 4 | 1冊を完璧に | 1冊が終わってから、次のレベルの本へ進む |
| 5 | 不安を書き出す | 試験の前に、不安な気持ちを紙に書き出す |
チェックリスト
[ ]志望校の募集要項で、必要な数学の範囲を確かめたか[ ]今の自分が「読めばわかる」レベルの本を選んでいるか[ ]練習問題に、日付とチェック欄(3回分)をつけているか[ ]一度正解した問題も、日をあけて解き直しているか[ ]1冊を完璧にする前に、次の本に手を出していないか
参考文献
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.
- Rawson, K. A., & Dunlosky, J. (2011). Optimizing schedules of retrieval practice for durable and efficient learning: How much is enough? Journal of Experimental Psychology: General, 140(3), 283–302.
- Ashcraft, M. H. (2002). Math anxiety: Personal, educational, and cognitive consequences. Current Directions in Psychological Science, 11(5), 181–185.
- Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing about testing worries boosts exam performance in the classroom. Science, 331(6014), 211–213.
ガクサン 11冊目 感想・考察
【今回の一番】葵の父は、谷津司
まさかの展開でした。相談者・葵の父は、しをり会の谷津司。
9冊目で「あんなヤバい態度の奴と1対1で大丈夫なの?」、10冊目で「自業自得だ」。福山に一番きびしかった谷津さんの娘が、よりによって福山のところへ相談に来たのです。
葵の言葉を思い返すと、ヒントはたくさんありました。「親に流されて」文系を選んだ。塾は「親が」だめ。「それじゃ納得してもらえない」。理転の一番の壁は、数学よりも、お父さんなのかもしれません。
しかも谷津さんは、書店営業になる前は高校社会の編集者。葵が日本史を得意なのは、偶然でしょうか。
「君次第だ」――福山の厳しさと優しさ
「難関大は無謀だ」「これらを完璧にしてようやく全国模試平均点」。福山は、高校生相手でも甘いことを言いません。
でも、ちゃんと「それ以外なら可能性は充分ある」と道も示しています。数IIIを捨てる、理科をなめない、易しい本から始める。できないことをはっきり言うのは、6冊目の「『最終的』では駄目だ」と同じ、福山なりの誠実さだと思います。
そして、「学びたいことを教えてくれる参考書はいくらだってある」「だがきちんと学べるかどうかは…君次第だ」。6冊目の「希望はあった それが参考書だ」と並べると、福山が参考書に何を託しているのかが見えてきます。参考書は希望。でも、歩くのは自分。
うるしの「前のめり」が、葵の本音を引き出した
今回、話を動かしたのはうるしでした。理由を聞こうとして立ち上がり、最後には「なんか…いろんなこと隠してないですか…?」。
福山なら「必要な情報」だけ聞いて、参考書をすすめて終わっていたかもしれません。7冊目で福山に言われた「もう少し情報を聞き取れ」を、うるしは自分のやり方で実践しています。
もっとも、うるしが前のめりなのは、しをり会のことを福山に隠している後ろめたさと、目標①②のせいでもありそう。福山に「妙に前のめりじゃないか?」と引かれる場面は笑いました。
【考察】貼った目標を「風景」にしないコツ
うるしの「そのうち風景になっちゃうんだけど…」。壁に貼った目標が、いつの間にか目に入らなくなる。おじさんにも覚えがあります(笑)。
心理学では、「○○する」という目標だけでなく、「いつ・どこで・何をするか」まで決めておくと、実際に行動しやすくなることが知られています。「実行意図(implementation intentions)」と呼ばれる方法です。(Gollwitzer\, 1999)
たとえばうるしの目標①なら、「次のしをり会の前の日に、屋上で福山さんに声をかける」。ここまで書けば、風景になりにくいはずです。
参考文献:Gollwitzer, P. M. (1999). Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist, 54(7), 493–503.
パンケーキで釣られる福山
7冊目の「週1の甘いモン」から、福山の甘党はすっかりおなじみ。今回はパンケーキの記事を机に置かれて、まんまと喫茶店へ。
「対面は断れと言っただろ!」と怒りながら、しっかりパンケーキは食べている。なのに、朝買ったばかりのマセマの新課程版を持っている。口は悪いのに、準備はいい。福山らしさがつまった回でした。
ちなみに喫茶店の看板は「珈琲 トルツメ」。「トルツメ」は、編集の校正で「文字を取って詰める」という意味の言葉です。出版社の町・神保町らしい小ネタですね。
「勉強頑張ったら、どんな自分にだってなれそう」
冒頭のうるしの言葉も、印象に残りました。
1冊目で、子どものころ父に言われた「うるしが将来好きなことを身につけられるように」。自分には何もないと思っていたうるしが、福山の参考書の「はじめに」を読んで、勉強にわくわくしている。
そして同じ回に、「やりたいことができた」から理転したいという葵が現れる。勉強は、なりたい自分になるためのもの。11冊目は、その思いがうるしと葵の両方に重なる回でした。
まとめ
- うるしは福山の作った参考書『リーチ現代文』を読み、目標①「福山さんを研究会につれてくる」②「ご相談係をがんばる」を壁に貼る
- 高3の葵からDM。パンケーキで福山を喫茶店へ連れ出し、対面で相談に
- 葵は「理転したい」。親に流されて文系を選んだが、やりたいことができた。志望は情報系か工学系。でも数学が苦手で、理由は「言えません」
- 福山「今からの参考書独学では難関大は無謀だ」。ただし、それ以外なら可能性は充分ある。数IIIはやらない、理科も重要
- すすめた本はマセマ『初めから始める数学』→『元気が出る数学』。39問を3回○がつくまで繰り返す
- 「きちんと学べるかどうかは…君次第だ」
- 葵の父は、しをり会の谷津司。「父を説得してくれませんか…!」
福山に「自業自得だ」と言った谷津さんを、福山とうるしは説得できるのか。そして、葵が理転したい本当の理由とは。12冊目が楽しみです。
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。

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