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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
9冊目は、5冊目から引っぱってきた山崎の「お願い」がついに明かされる回。うるしが連れていかれたのは、社内の編集者たちがこっそり開いている勉強会でした。参考書が売れるしくみの話もたっぷり出てきます。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。9冊目は2巻に入っています。
ガクサン 9冊目「うるしとロングセラーの秘密①」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
「古文がわからない」と相談してきた高校生は、名著を持っているのに読めていない「積読」タイプでした。福山の答えは「参考書との付き合い方は恋愛と同じだ」。
店頭で中身を確かめ、文具やデコで愛着を持ち、1冊を愛し続ける。うるしの中学時代のデコも「立派な愛し方」と認められ、相談者はマドンナ古文常識をかわいくデコって「がんばってみます」。
そして屋上で、山崎が切り出します。「RTした代わりのお願い 今頼んでもいい?」
前回の記事はこちら → 【ガクサン 8冊目】うるしと参考書の愛し方②。「運命の一冊なんてない」――書店は「デートの場」、文具で参考書を愛する方法
「秘密組織に来てほしいんだよね」
お願いの中身を、うるしはすっかり忘れていました。山崎は笑って、ひとこと。
「秘密組織に来てほしいんだよね」
……というのは冗談で、正体は問題意識のある編集者たちが月に一度ひらいている、ゆるい勉強会。いぶき社は保守的で、新しいことには抵抗があり、担当教科がちがう部署とはほとんど連携しない。だから、こっそり集まって気になる話題を話しているのだそうです。
そしてみんなでずっと考えていたのが、この会に福山も呼べたらということ。同期の山崎さんが誘えば……と言いかけたうるしに、山崎は「あいつすねてるから」。まずは、うるしが来てみて、というわけです。
会議室の「しをり会」
数日後のお昼、会議室のホワイトボードには「しをり会」の文字。
最初に声をかけてきた書店営業の谷津は、開口一番「あんなヤバい態度の奴と1対1で大丈夫なの?」。福山に新人をつけるなんて上は何を考えてるんだか、何かあったら言ってね、と心配してくれます。
でも、うるしには報告できることがありました。「わからないなら自分で見当つけろ」と言う福山に、「超基礎モノ参考書くらい丁寧に教えてください!!」と言い返したら、福山は「なるほど」とメールで説明を送ってくるようになった、と。
「…すごい…」と目を丸くした谷津は、「茅野さんならホントに上手くやれるのかも…?」。期待されるほど、うるしは不安になります。そもそも福山の社内での立ち位置が謎。倉庫のような部屋でご相談係をしているのも、あの嫌われっぷりも、尋常じゃない。
福山を誘いたい理由をたずねるうるしに、山崎は逆に聞き返します。「福山の担当した本って読んだことある?」
メンバーと、「しをり」の由来
集まったのは、こんな顔ぶれでした。
- 川口吾郎:高校数学・理科編集。ボソボソ話す
- 谷津司:書店営業。元は高校社会の編集
- 赤城みお:小中英語編集
- 山崎翔:高校国語編集
- 花山:主宰。高校英語編集部
「しをり」って……とたずねるうるしに、花山は少し照れて「恥ずかしながら主宰の私の名前です」。自分でつけたわけではないのに、いつのまにかそう呼ばれていたのだとか。
当面は聞いているだけでいいから、とやさしい花山に、うるしは「すてきな人だな…」。ところが赤城の「観測報告」が始まると、「…何言ってるか全然わかんない」。ゆるい集まりとは……。
他社の『イエローロード』が売れている
今月の話題は、昨年他社から出た英文法の参考書『イエローロード』の売れ行き。難関私立高校に採用されたのをきっかけに、学校での採用が増え、店頭でも売れているそうです。
理由は、類書にはあまりない「作問ROM」。学校で採用したときにつく先生向けのシステムで、本の内容に合わせたテストを簡単に作れるのだとか。
有名な進学校で使われていれば、塾でもすすめる。うちの定番書にも影響が出そうと、メンバーの顔がくもります。
参考書は「限られたパイの奪い合い」
ちんぷんかんぷんのうるしのために、山崎の提案で花山が市場のしくみを説明してくれます。
大前提は、参考書の販売は「限られたパイの奪い合い」。全国の高校生約300万人が全員1冊ずつ持てばシェア100%。それ以上、市場は広がりません。だから新刊を出すなら、そのパイを奪える見込みが必要です。
それが難しいのは、参考書の定番タイトルが長い間変わらないから。作中では『英文標準問題精講』が1933年初版、『新・英文法頻出問題演習』が1972年刊行と紹介され、うるしは「長…っ!!」。
さらに「英単語ターゲット」シリーズは、1984年の初版から累計2100万部。単純に割っても年に50万部以上。赤城いわく、近年ヒットした芥川賞受賞作と同じくらいの部数が、毎年続いているのです。人気の本は書店で目立つからさらに売れる、という好循環もあります。
「クチコミの力がすべてよ」
じゃあ、新しい本はどうやってパイを奪うのか。花山の答えは、きっぱりしていました。
「クチコミの力がすべてよ」
谷津によれば、有名な進学校に採用されると、ほかの学校もならう。ずっと黙っていた川口がボソッと、学校でも使われる市販の参考書は、部数の半分が学校での売り上げだと補足します。だから学校まわりのクチコミが大事なのだと。
赤城の「今日川口さんの声初めて聞きました」には、思わず笑ってしまいました。
「どうして今でも人気なんですか?」
話を聞いていたうるしは、素朴な疑問を口にします。
古い本は、ふつう少しずつ売れなくなるもの。名作と呼ばれる小説だって、クチコミはあってもたくさんは売れていない。なのに参考書だと、どうして今でも人気なんですか?
一同、きょとん。変なことを聞いたかとあわてるうるしに、花山は「言われてみればそうだなって!!」。
そして谷津が、自信満々に答えます。
「ロングセラー参考書は老舗のラーメンスープだからだよ!」
「ラーメン!?」と目を丸くするうるし。赤城の「今日は桃三郎のラーメンにしましょうか」で、9冊目は幕です。
【ガクサン流・参考書業界のしくみ】なぜロングセラーは強いのか
9冊目はハウツーの回ではなく、参考書が売れるしくみの回でした。作中の話を、データや研究とあわせて整理してみます。
高校生の数=「パイ」の大きさ
作中の「全国の高校生約300万人」。文部科学省の学校基本調査では、2023年度の高校生(高等学校の在学者)は約292万人です。作中の数字は、ほぼそのとおりですね。(文部科学省\, 2023)
しかも、子どもの数は年々減っています。パイは広がらないどころか、少しずつ小さくなっている。花山の「新刊はパイを奪える目論見がないとダメ」は、それだけ重い言葉です。
売れている本が、さらに売れる
花山の言う「好循環」には、有名な実験があります。
1万人以上が参加したネット上の音楽サイトの実験で、ほかの人のダウンロード数が見えるようにすると、人気の曲がさらに人気になり、人気の差が大きくなった。しかも、どの曲がヒットするかは予想しにくくなりました。(Salganik\, Dodds\, & Watts\, 2006)
書店で平積みになる、学校で採用される、塾ですすめられる。「みんなが使っている」が、次の読者を連れてくる。ロングセラーが強いのは、こうしたしくみのせいでもありそうです。
「学校採用」という売り場
川口の「部数の半分が学校での売り上げ」は、作中のセリフです。※公式の統計として確かめられた数字ではありません。
ただ、学校で採用された参考書を、高校の副教材としてまとめて買った経験がある人は多いはず。先生に選ばれることが、読者に選ばれることにつながる。だからこそ『イエローロード』の「作問ROM」のような、先生向けのしかけが効くわけです。
ぱっと見まとめ:ロングセラー参考書が強い理由
| 番号 | 名前 | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | 限られたパイ | 読者は高校生の数まで。市場は広がらない |
| 2 | 定番は変わらない | 何十年も前に出た本が、今も現役 |
| 3 | 好循環 | 売れる本ほど書店で目立ち、さらに売れる |
| 4 | 学校採用 | 学校で採用されると、まとまった部数が出る |
| 5 | クチコミ | 進学校・塾・先生のすすめが、次の読者を呼ぶ |
チェックリスト:読者として、ロングセラーとどう付き合う?
[ ]「みんなが使っているから」だけで選んでいないか[ ]学校で配られた参考書を、まず1周したか[ ]定番の本と新しい本を、店頭で見比べたか[ ]新しい本は「ロングセラーにないもの」があるかを見たか
参考文献
- 文部科学省 (2023). 令和5年度学校基本調査.
- Salganik, M. J., Dodds, P. S., & Watts, D. J. (2006). Experimental study of inequality and unpredictability in an artificial cultural market. Science, 311(5762), 854–856.
ガクサン 9冊目 感想・考察
【今回の一番】「どうして今でも人気なんですか?」
このおじさんが9冊目で一番ぐっときたのは、うるしの素朴な疑問です。
業界のプロたちがあたりまえだと思っていたことを、外から来たうるしが「なんで?」と聞く。花山の「言われてみればそうだなって!!」は、うるしがこの会に来た意味そのものでした。
4冊目のSNS作戦、7冊目の積読、8冊目のデコ。うるしの武器は、いつも「ふつうの人の感覚」です。それがプロの集まりでも通用した。うるしにとっても、大きな一歩だったと思います。
山崎の「お願い」は、福山を呼ぶため
5冊目から引っぱってきた「お願い」。その正体は、福山をしをり会に呼ぶための橋渡しでした。
5冊目で山崎は「いぶき社は保守的すぎる」とぼやき、7冊目の雑誌では「編集はクリエイターでありたい」と語っていました。しをり会は、そんな山崎たちの保守的な会社の中の、小さな反乱なのでしょう。
ただ、「あいつすねてるから」と同期の自分では誘えないのが、ちょっと切ない。福山と山崎のあいだにも、何かありそうです。
福山は社内でどう見られているのか
谷津の「あんなヤバい態度の奴」「上も何を考えてんだか」。9冊目では、社内での福山の評判の悪さがはっきり描かれました。
一方で、うるしの「超基礎モノ参考書くらい丁寧に教えてください!!」に「なるほど」とメールを送る福山。相手が「読者」の立場で頼めば、ちゃんと応えるのが福山らしいところです。7冊目の「参考書をよりよく使ってもらうため」とも重なります。
そして山崎の「福山の担当した本って読んだことある?」。3冊目の「元々は編集者」「いろいろあって異動」が、いよいよ動き出しそうです。
「クチコミの力がすべてよ」と、ご相談係のSNS
花山の「クチコミの力がすべて」を聞いて、思い出すのはうるしのSNS作戦です。
4冊目で始めたご相談係のTwitterは、5冊目で山崎の人脈により拡散され、8冊目では相談者が「デコってみました!」と返してくれました。あれは、まさに参考書のクチコミ。
しをり会がうるしを呼んだのは、福山の橋渡しだけが理由ではないのかもしれません。
しをり会の面々が楽しい
9冊目は新キャラが一気に5人。とくに、ずっと黙っていて急にボソッと核心を言う川口と、「今日川口さんの声初めて聞きました」とツッコむ赤城のコンビがいい味を出しています。
主宰の花山は、やさしいのに「クチコミの力がすべてよ」で急に圧が出る人。うるしの「この人福山さんみたいな圧あるな…」に笑いました。
そして「ラーメンスープ」でオチをつける谷津。続きは桃三郎で、というのも5冊目の町中華とつながっていて楽しいところです。
まとめ
- 山崎のお願いは「秘密組織」=社内の有志の勉強会「しをり会」に来てほしい。目的は福山を呼ぶこと
- 谷津は福山の評判の悪さを心配。うるしの「丁寧に教えてください!!」で福山が少し変わったと知って驚く
- 山崎「福山の担当した本って読んだことある?」
- 他社の『イエローロード』が、作問ROMで学校採用を増やして売れている
- 参考書は「限られたパイの奪い合い」。定番書は何十年も変わらず、毎年売れ続ける
- 花山「クチコミの力がすべてよ」
- うるし「どうして今でも人気なんですか?」→谷津「老舗のラーメンスープだからだよ!」
ロングセラーが「ラーメンスープ」とは、どういうことなのか。そして、福山が担当した本とは。10冊目が楽しみです。
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。

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