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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
6冊目は、5冊目「独学受験を考える①」の続き。屋上で福山が明かす、参考書だけで大学受験を乗り切るための「ただひとつのこと」。そして、福山自身の過去が少しだけ見えてくる回です。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。
ガクサン 6冊目「うるし、独学受験を考える②」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
ご相談係に届いた最初の本格的な相談は、「お金がないので参考書で難関大を受けたい。塾と同じだけの勉強はできますか?」というもの。
うるしの「参考書ってサポートですしね!」で、福山は無言で退室。山崎から、福山自身が参考書だけで一橋大学に合格したと聞かされます。
姉あかねの「うるしにとっての参考書みたいな人だね」に背中を押され、うるしはフルーツサンドを手にお詫び。屋上で福山は「参考書での独学受験は誰にでも可能だ」と言い切りました。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 5冊目】うるし、独学受験を考える①。「参考書での独学受験は誰にでも可能だ」
屋上は、福山の昼ごはんの場所
福山はいつも、この屋上で昼を食べているそうです。あの狭い部屋にずっといたら、気分転換も必要だろう、と。
「福山さんにもそういうのあるんですか」と思わず聞いてしまううるし。本に埋もれていても平気そうなのに……という心の声が正直です(笑)。
「不可能ではない」のに、なぜ選ばれないのか
福山はまず、参考書の独学で難関大に受かった人は決して少なくないと話します。統計はないが、体感では東大・京大にもいるだろう、と。
では、なぜ多くの人はその道を選ばないのか。うるしの「何を信じたらいいかわからないから?」に、福山は「まぁ及第点だな」。
福山の答えは、独学の最大の弱点は「正解がわからない」こと。問題の答えではなく、「受験勉強のやり方」の正解です。
「参考書ルート」と、ネット情報のかたより
ここで出てくるのが「参考書ルート」。英文法→英語長文→難しい長文のように、志望校の対策になる参考書の流れのことです。
情報が足りないと、出る分野をやらず、出ない分野に時間を使う「対策不足」が起きてしまう。塾に通っていれば、ルートどおりの授業を受けるだけでいいのですが……。
ネットで検索すれば「〇〇大はこの参考書で!」という記事は見つかります。ただし書く人によって中身はバラバラ。しかも受験生の多い首都圏の私大の情報にかたよりがちです。
うるしははっとします。相談者のプロフィールには「四国」の文字。※地方に住んでいる受験生ほど、ネットの情報が合わないかもしれません。
「とりあえずなんでもいい」
「じゃあ合格した人はどうしてたんですか?」と迷ううるしに、福山の答えは意外なものでした。
「とりあえずなんでもいい 信じろ」
「今までの話何!?」とツッコむうるし。YouTuberでもブロガーでも学校の先生でもいいから、ひとりの言うルートを信じて進め、と福山は言います。
「そんな賭けみたいな回答はできません」と困ったうるしに、福山は続けます。ただし、ひとつだけ必要なものがある、と。
志望校が決まったら、即「赤本」
「志望校が決まったら即『赤本』を買え」
過去問を解いて出題の傾向がわかれば、信じていた情報がまちがっていても自分で直せる。だから最初は誰を信じても同じ、というわけです。
「受験生は最終的にはみんな買いますよね」と言ううるしに、福山は「『最終的』では駄目だ」。
赤本には、過去問のほかに大学の基本情報、合格者のおすすめ参考書や勉強の進め方、在学生の声、教科ごとの傾向と対策まで載っています。入試の直前に知っても意味のない情報も多いから、「即」なのです。
さらに、赤本は解説が足りないこともあるけれど、答えを見ても理解できない=そこが苦手な分野という目印になる。苦手を洗い出し、参考書でつぶし、また過去問へ。点数が悪くても落ち込む必要はない。
受験生のころ、赤本を「最終関門みたいで怖くて」あまり開かなかったうるしに、福山は言います。
「優しい『ガイド役』なんだ」
「これが教育格差というものだ」
「でも、高校生の自分がこのやり方に気づけたかは微妙かも」と言ううるし。
福山は認めます。この方法に自力でたどり着けるのは、そもそも自分に足りないものを見きわめる姿勢が身についた子。そしてその姿勢は、親の教育や周りの環境に左右される。
親や周りが教育に熱心ではない。地域に進学塾がない。塾に行くお金がない。そんな場所で育っても、リソースをたっぷり与えられた子と同じ土俵で戦わなければならない。
「これが教育格差というものだ」
小中学生のうちは見えない。でも大学受験で全国に目を向けたとき、気づいてしまう――自分よりも「持ってる」人たちがいることに。そう語る福山の横顔には、台所のテーブルでひとり勉強する少年の姿が重なります。
「希望はあった」
「それでもだ 希望はあった」
それが参考書だった、と福山。有名な講師が自分だけに語りかけてくれるような参考書がある。手の届かなかった世界に、誰でも招き入れてくれる。
うるしは思わず言います。誰にでも希望があると、これからご相談室で伝えていきませんか。「私いっしょに頑張りますから!」
「今の話まとめて提出しろ」
でしゃばりすぎたかな……と焦るうるしに、福山の返事は「今の話をまとめて提出しろ。そのあと回答として送れ」。
そう言い残して、福山はさっさと屋上から消えてしまいます。ひとり残されたうるしの「…福山さん…?」で、6冊目は幕です。
【ガクサン流・赤本の使い方】過去問は「最後」ではなく「最初」に
6冊目の福山の助言は、ひとことで言えば「志望校が決まったらすぐ過去問を見て、やり方を自分で直していけ」。これが研究から見ても理にかなっているか、調べてみました。
本番と同じ形で練習すると、本番に強くなる
心理学には「転移適切処理」という考え方があります。覚えたときのやり方と、テストで求められるやり方が近いほど、成績がよくなるというものです。(Morris\, Bransford\, & Franks\, 1977)
つまり、志望校の問題の「形」を早く知るほど、毎日の勉強を本番に寄せられる。福山の「最終的では駄目だ」は、この点でも正しいんですね。
「解いてみる」こと自体が、いちばんの勉強になる
テキストを読み返すより、テスト形式で思い出す練習をしたほうが、1週間後によく覚えていたという有名な実験があります。(Roediger & Karpicke\, 2006)
過去問は「実力を測るもの」であると同時に、それ自体が強力な練習。怖がって最後までとっておくのは、もったいない使い方です。
まちがいは「苦手の地図」
福山の「答えを見てもわからないところが苦手な分野」という考えも、研究と重なります。
まちがいを避けるより、まちがえて、すぐに正しい答えと理由を確かめるほうが学びにつながることが、多くの研究で示されています。(Metcalfe\, 2017)
点数が低くても落ち込まなくていい。赤点は、次にやることのリストなんです。
「とりあえず信じろ」の意味
福山の「とりあえずなんでもいい」は乱暴に聞こえますが、ポイントは「信じて進む」→「過去問で確かめる」→「直す」をくり返すこと。
5冊目の記事で紹介した「計画→実行→ふり返り」のサイクルを、赤本という物差しで回す方法だと言えます。※「どのルートを選んでも同じ」という部分は、作中の福山の助言です。研究で確かめられたものではありません。
今回のガクサン
ぱっと見まとめ:赤本の使い方
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 即買う | 志望校が決まったら、その日に赤本を手に入れる |
| 2 | 前半を読む | 過去問の前に、大学情報・傾向と対策・おすすめ参考書を読む |
| 3 | 一度解く | 点数を気にせず、まず1年分を解いてみる |
| 4 | 苦手を洗い出す | 答えを見てもわからないところに印をつける |
| 5 | 参考書でつぶす | 印をつけた分野を、参考書で集中してやる |
| 6 | ルートを直す | 出ない分野・足りない分野に合わせて計画を変える |
| 7 | また解く | 間をあけて別の年度を解き、1に戻ってくり返す |
チェックリスト
[ ]志望校の赤本を、受験の直前ではなく今の時点で持っているか[ ]「傾向と対策」のページを読んだか[ ]過去問を少なくとも1年分、解いてみたか[ ]答えを見てもわからなかった分野を書き出したか[ ]その分野をつぶす参考書を決めたか[ ]いま使っている「参考書ルート」に、出題されるのに対策していない分野はないか[ ]点数が低くても「苦手の地図ができた」と考えられているか
参考文献
- Morris, C. D., Bransford, J. D., & Franks, J. J. (1977). Levels of processing versus transfer appropriate processing. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 16(5), 519–533.
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
- Metcalfe, J. (2017). Learning from errors. Annual Review of Psychology, 68, 465–489.
ガクサン 6冊目 感想・考察
【今回の一番】「希望はあった」
このおじさんが6冊目で一番ぐっときたのは、やっぱりここです。
教育格差の話をしているときの福山は、どこまでも冷めています。「結局、生まれつきの…」と言いかけたうるしに「そうだ」と即答するくらいに。
でも、そこから「それでもだ」で、ぐっと声の温度が変わる。参考書の向こうに講師が立っている見開きは、福山にとって参考書が「先生」だったことを、どんなセリフよりも伝えてきます。
1冊目の「ただ参考書が好きなだけだ」。あの「好き」の中身は、こういうことだったんですね。
福山は「持ってない」側だった
「俺よりも『持ってる』奴らがいる」。さらっと出た「俺」のひとことで、福山の過去が一気に見えてきます。
回想に出てくる、台所のテーブルでひとり勉強する少年。本棚のある部屋で親に見守られる子との対比。あの少年は、たぶん若いころの福山でしょう。※作中で名言はされていません。
5冊目、ずっと相談を無視していた福山が「お金がないので」の相談にだけ「…見せてみろ」と反応した理由。5冊目の記事で「自分と同じ境遇の誰かを見たのかも」と書きましたが、その答え合わせのような回でした。
2冊目の『教育格差』が、ここでつながる
「とりあえず信じろ」は、福山らしい優しさ
一見、乱暴な「とりあえずなんでもいい 信じろ」。でもこれ、迷って動けなくなっている人へのいちばんの処方箋だと思うんです。
5冊目のうるしは、ネットの「情報の渦」で「結局できるのできないの!?」と立ちつくしていました。正解の情報を探しつづけるより、まず進んで、赤本で確かめて、直せばいい。
まちがっても取り返せると知っていれば、人は一歩目を踏み出せる。口は悪いけれど、福山の答えは「迷っていい、止まるな」なんですよね。
赤本は「最終関門」ではなく「ガイド役」
うるしの「最終関門って感じがして怖くてあんまりやらなかった」に、うなずいた元受験生は多いはず。このおじさんもそうでした……。
勉強した先にある最後の模試みないな感じでとらえていました。
福山のイメージ図で、赤本がうるしの手を引いて「いっしょにがんばろう!」と大学へ向かう絵がかわいい。怖い試験官が、道案内の先輩に変わる。たったそれだけで、過去問への向き合い方が変わりそうです。
そしてこれは、2冊目の「『はじめに』から始めろ」とも同じ考え方。本は、作り手の意図を知ってから使うと味方になる。赤本の前半の情報ページは、言ってみれば赤本の「はじめに」です。
うるしの「いっしょに頑張りますから!」と、福山の「提出しろ」
「誰にでも希望があるって伝えていきませんか」。うるしのこの言葉は、3冊目の「不要な業務」への、いちばんまっすぐな反論でした。
そして福山の返事は、「今の話まとめて提出しろ」。つまり、うるしの手で回答を書かせるということ。4冊目で「言うこと聞いてもらいます」と啖呵を切ったうるしに、仕事を任せた形です。
さっさと消えてしまったのは照れ隠し……と読みたいところ。山崎の「黙り込んだり拗ねたり、ガキなんだよな」を思い出すと、ますますそう見えてきます(笑)。
福山は甘党?
細かいところですが、福山の手にはいちごみるくの缶。うるしのフルーツサンドも「いちごオンリーか」と言いつつしっかり受け取っています。
5冊目では、お姉ちゃんの「おいしいものを買っていけば態度が変わるかも」が見事に的中しました。福山攻略の鍵は、甘いものなのかもしれません。
まとめ
- 屋上で福山は、独学受験の最大の弱点を「勉強のやり方の正解がわからないこと」と説明
- ネットの「参考書ルート」は書く人によってバラバラで、首都圏の私大の情報にかたよりがち
- 福山の答えは「とりあえず信じろ。ただし志望校が決まったら即、赤本を買え」
- 赤本は「最終関門」ではなく「優しいガイド役」。過去問で傾向と苦手を知り、ルートを自分で直す
- 「これが教育格差というものだ」。それでも福山には「希望はあった」――それが参考書
- うるしの「いっしょに頑張りますから!」に、福山は「今の話まとめて提出しろ」
5冊目からの「独学受験を考える」は、ここでひと区切り。うるしが書く、初めての「回答」はどうなるのか。そして福山が編集部を離れた「いろいろ」も気になります。7冊目が楽しみです。
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。

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