【ガクサン 2冊目】ネタバレ|「はじめに」から始めろ。親世代の名著『数完』は「時代遅れ」?――参考書の選び方(ネタバレ注意!)

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ガクサン

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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。

2冊目のテーマは参考書の選び方。「自分が使ってよかった本を子どもにも」という父親に、福山が放ったのは「時代遅れですね」の一言でした。

作中の「選び方」については、研究の裏づけとぱっと見て使えるチェックリストも付けています。

以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。

原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。

漫画『ガクサン』1巻(佐原実波/講談社)

参考書オタク福山と新人うるしの出会い。1冊目〜を収録。

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ガクサン 2冊目「うるし、『はじめに』から始める」あらすじ(ネタバレ注意!)

前回までのあらすじ

学習参考書の出版社「いぶき社」に中途入社した茅野うるし(26)。初日から、口の悪い参考書オタク・福山と書店フェアの代打に立つことになります。

英語が苦手な中1の男の子に、福山は「だからお前が大人になれ」。勉強の基礎は「解説を読む→問題演習→潰す」、スケジュールは「割る」と教え、他社の本をすすめて送り出しました。

「ただ参考書が好きなだけだ」という福山に、うるしは「参考書の違いを教えてほしい」と頼みます。答えは「『はじめに』から始めろ」。

前回の記事はこちら → 【ガクサン 1冊目】参考書オタク福山「大人になれ」――勉強の基礎は「潰す」と「割る」

「はじめに」には全部書いてある

「はじめにから読むのはわかりますけど」と戸惑ううるしに、福山は言います。俺が説明するより、ここを読めと。

「はじめに」には、どういう意図でこの本を作ったのか、どういう学習者に向いていて、どのように使うべきかが書いてある。著者の教育理念や、社会への問題提起まで書いてあることもある。

そして、同じ中学英語でも違いはたくさんあります。

  • 書き込み式か、問題集が別売か
  • 1色刷り・2色刷り・フルカラー
  • 3年分で1冊か、学年ごとの分冊か
  • CD付きか、音声ダウンロードか
  • 入試対応か

この細かな違いには、すべて意図がある。「お…奥深いかも…?」「そうだ、奥深い」。

「正直、見た目くらいしか区別できない」といううるしに、福山は「それも重要な要素だ」と答えます。印刷の色、フォント、解説の文体――「自分に合う合わないが絶対ある」。

書店で同じテーマの参考書が横に並んでいるのも、比べて選んでもらうための工夫。見本誌におすすめポイントの付箋を貼るのは、営業や編集担当の「努力の結晶」なのだとか。

「実際に手にとって『自分に合うもの』を選んでもらうのが一番大切だと俺は思う」

「数完みたいな骨太なやつがいい」

そこへ、高1の子を持つ父親がやって来ます。

さっき「はじめに」を読んだばかりのうるしが、「基礎+αならこちら、発展演習ならこちら」とすすめますが、父親は不満顔。

「こんな易しそうな見た目のやつじゃなくてさ」「コレどっちもレベル低い子向けじゃない?」

欲しいのは、『数完』=『数学完全解説集』のような骨太な本。自分はあれで大学に受かった。「こんな問題もわからないようでは受かるわけがない」という痛快な叱咤激励が響いたんだ、と。

ちなみにこの数学完全解説集は、架空の参考書で調べても出版された形跡はありませんでした。

福山は「良書を使われていたんですね」とニタァと微笑む。うるしは「福山さんのスイッチ入る流れでは…!?」と身構えます。

父親が「やっぱり俺が使ってよかったものを、そのまま子どもにも使わせたい」と言ったとき、スイッチが入りました。

「時代遅れですね」「それに子供がかわいそうだ」

参考書は「簡単になった」のではなく「とっつきやすくなった」

福山が差し出したのは、改訂を重ねた今の『数完』。表紙も中身も、父親の記憶とはまるで違います。「こっちの会社のと同じような雰囲気じゃないか…」。

ゆとり世代を経て、文字のぎっしりした参考書は敬遠されるようになった。そこでレイアウト、字体、イラストと試行錯誤を重ねた結果、今の参考書は、昔と内容は変わらなくても「とっつきやすく」「簡単」に見えるようになったのだと福山は説明します。

うるしも、最近の子の学力が下がったから参考書が簡単になったのだと思っていました。福山は、子どもの学力が下がっているという明確なデータはない、むしろ授業時間や教科書の内容は増えている(特に英語)と続けます。

「最終的に役立った本」と「今その子に合う本」

「今でも改訂されて売られてるなら、いい本なんだろ?」と食い下がる父親に、福山は問いかけます。

「お客さまはお子さんの学力を正確に把握できていますか?」

テストの点や評価は把握している。でも、今どこまで学んでいるかは――答えられません。

親は自分の成功体験をもとに、自分の「バイブル」を子どもにもやらせたくなる。でもそれは「最終的に役立った本」であって、親だってそこに至るまでに、教科書や塾などいくつものステップを踏んで学力をつけてきたはず。

高3の受験で役立つ本でも、高2では理解できないかもしれない――。

今は昔と違い、子どもの習熟度に合わせて参考書が細かく分かれている。同じ出版社から似たような参考書が何冊も出ているのは、そのためでした。段階的に学ぶほうが混乱が少なく、挫折のリスクも小さい。

「参考書は昔よりずっと 学ぶ人間に優しくなってるんですよ」

そう言って、福山はふっと笑いました。

「元塾の講師とか?」と聞く父親に、福山は「いえ、俺は今も昔もただの参考書オタクです」。ただし、近年国内で出版された参考書は「すべて」読破し、過去の参考書も収集している。父親は「もっと子供と話して、また買いに来ます」と帰っていきました。

「生きがいとかクサすぎ」

「福山さんは参考書が生きがいなんですね。うらやましいです」と言ううるしに、福山は「生きがいとかクサすぎ」。

好きなものがなくても楽しく生きている人間が大多数だ、「なきゃないで問題ない」。そして、こうつぶやきます。

「好きになるほど いいことばかりじゃない」「ただ苦しくなるだけ…ってこともある」

意味はわからないけれど、うるしは思います。私はずっと、この人みたいに空欄を埋めてみたかった。

「福山お守り係さん」

遅れてやって来た営業部員は、福山を見るなり顔をひきつらせます。福山は「代打はすべてこの新人が担当した」「不手際は上長に報告書を回す」と言い放ち、うるしを連れて帰社。

社内で待っていたのは、福山の同期で国語編集部の山崎でした。福山は能力はあるし「歩く資料室」だけど、あんなだから嫌われている、と山崎。

そして「他のご相談係の方といっしょにがんばります」と言ったうるしに、山崎は衝撃の事実を告げます。

ご相談係は、福山とうるしの2人だけ。うるしの仕事は、問い合わせ対応やSNS、改訂の告知、そしてコミュ力ゼロの参考書クソオタク「歩く資料室」と関係各所との潤滑油役。

「もとい 福山お守り係さん」――次回へ続きます。

【ガクサン流・参考書の選び方】福山の言うことは正しい?

2冊目で福山が言っていたことを整理すると、選び方のポイントは「はじめにを読む」「今の自分に合う難しさを選ぶ」「実際に見比べる」の3つです。研究ではどう言われているのか、調べてみました。

「はじめに」を読む=先に全体像と目的をつかむ

学ぶ前に「これから何を、何のために学ぶのか」の全体像を示しておくと理解を助ける、という考え方を先行オーガナイザーと呼びます。(Ausubel, 1960)

多くの研究をまとめた分析では、効果は小さいながらもプラスとされています。(Luiten, Ames & Ackerson, 1980)

「はじめに」は、まさにその本の全体像と使い方の説明書。読むだけで損はない、というのは言えそうです。

「今の自分に合う難しさ」を選ぶ=熟達化反転効果

難しすぎる本は、頭の処理が追いつかず学びにくい。これは認知負荷理論で説明されています。(Sweller, 1988)

おもしろいのは逆も起きること。初心者には役立つ丁寧な解説が、力がついた人にはかえって邪魔になることがわかっていて、「熟達化反転効果」と呼ばれています。(Kalyuga, Ayres, Chandler & Sweller, 2003)

つまり「いい本」かどうかは、本そのものではなく、読む人の今の力で決まる。福山の「『今』その子に合うものかどうかはわかりません」は、この研究結果とぴったり重なります。

「子どもの学力は下がっていない」の出典

作中で福山が言った「子どもの学力が低下しているという明確なデータはない」には、作中に出典が書かれています。松岡亮二『教育格差――階層・地域・学歴』(ちくま新書)です。気になる方は読んでみてください。

『教育格差――階層・地域・学歴』(松岡亮二/ちくま新書)

2冊目で福山の「学力低下の明確なデータはない」の出典として紹介された本。

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ぱっと見まとめ:ガクサン流・参考書の選び方

ポイントやること
「はじめに」を読む対象の学習者・使い方・本の意図を確認する
今の位置を知る教科書のどこまで進んだか、どこでつまずいているかを確認する
難しさを合わせる解説を読んで理解できるレベルから始め、段階的に上げる
見比べる同じテーマの本を並べ、色・フォント・文体・書き込み式かを比べる
親の「バイブル」は最終目標いきなり渡さず、そこに至るステップを用意する

チェックリスト

  • [ ] 「はじめに」で、誰向けの本か確かめたか
  • [ ] 今の自分(子ども)が、教科書のどこまで理解しているか分かっているか
  • [ ] 解説を1〜2ページ読んで、理解できるレベルか
  • [ ] 同じテーマの本を2〜3冊並べて見比べたか
  • [ ] 「自分が昔使ってよかった本」を、そのまま押しつけていないか
  • [ ] 毎日使うものとして、見た目や読みやすさも気に入ったか

参考文献

  • Ausubel, D. P. (1960). The use of advance organizers in the learning and retention of meaningful verbal material. Journal of Educational Psychology, 51(5), 267–272.
  • Luiten, J., Ames, W., & Ackerson, G. (1980). A meta-analysis of the effects of advance organizers on learning and retention. American Educational Research Journal, 17(2), 211–218.
  • Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving. Cognitive Science, 12(2), 257–285.
  • Kalyuga, S., Ayres, P., Chandler, P., & Sweller, J. (2003). The expertise reversal effect. Educational Psychologist, 38(1), 23–31.
  • 松岡亮二(2019)『教育格差――階層・地域・学歴』ちくま新書

ガクサン 2冊目 感想・考察

【今回の一番】「参考書は昔よりずっと 学ぶ人間に優しくなってる」

2冊目で一番グッときたのは、福山が笑ったこのセリフです。

おじさん世代にも、父親の気持ちはよくわかります。文字がぎっしりの分厚い参考書を、歯を食いしばってやり切った。あの苦労があったから今がある――そう思いたいんですよね。

でも福山は、それを否定はしていません。『数完』は「良書」「名著」だと認めたうえで、「それは最終的に役立った本であって、そこに至るまでのステップがあったはずだ」と言う。

昔は今ほど情報がなかったので、本屋に行って自分で手にとって「これいいじゃん」って、買って最初だけやる。そして、そこからは飽きてしまい、名著と呼ばれる参考書を手にして悦に浸る。

ここでは少し話の流れとは違いますが、今で言う積読。おじさんはここで早くも鉛筆を床に置いて、引退となりました。

苦労を美化するのではなく、「今の子は、苦労しなくていいところで苦労しなくていい」。参考書オタクらしい、参考書への愛情がこもった言葉だと思いました。

「時代遅れ」は、本ではなく「選び方」のこと

「時代遅れですね」はかなりキツい一言ですが(うるしも「言い方~~!」)、よく読むと福山が時代遅れと言ったのは『数完』という本ではありません。

『数完』は改訂を重ねて、今も売られている。時代遅れなのは、「自分が使ってよかった本をそのまま子どもに」という選び方のほうなんですね。

そして「子どもがかわいそうだ」。福山はいつも、目の前の客より、その先で参考書を使う子どものほうを見ています。1冊目の中学生のときと、同じ姿勢です。

【考察】福山の「選択肢を並べると売れる」は本当?

もうひとつ気になったのが、福山のこの説明です。

「人は選択肢を提示されるとひとつ選ばなければならない気がしてしまう」「結果として全体の販売冊数は増える」。

実は心理学には、逆の結果を示した有名な実験があります。スーパーの試食で、ジャムを24種類並べたときより、6種類のときのほうが購入率が高かったというもの。選択肢が多すぎると選べなくなる「選択のパラドックス」です。(Iyengar & Lepper, 2000)

ただ、その後たくさんの研究をまとめた分析では、選択肢が多いと売れなくなる効果は、平均するとほぼゼロで、条件によって出たり出なかったりすることがわかっています。(Scheibehenne, Greifeneder & Todd, 2010)

つまり、書店の参考書コーナーのように、目的がはっきりした人が、比べて選ぶ場所では、福山の言うとおり「並べる」ことが効いているのかもしれません。

参考文献

  • Iyengar, S. S., & Lepper, M. R. (2000). When choice is demotivating. Journal of Personality and Social Psychology, 79(6), 995–1006.
  • Scheibehenne, B., Greifeneder, R., & Todd, P. M. (2010). Can there ever be too many options? Journal of Consumer Research, 37(3), 409–425.

「好きになるほど いいことばかりじゃない」の意味

2冊目の最後に残された、福山の意味深な一言。

「好きになるほど いいことばかりじゃない」「ただ苦しくなるだけ…ってこともある」

参考書が好きで、全部読破して、誰よりも詳しい。なのに、社内では嫌われ者で「歩く資料室」と呼ばれている。営業部員の「何か言える立場じゃねーだろ」という言葉も引っかかります。

福山には、参考書が好きだからこそ苦しんだ過去がある――このおじさんはそう読みました。今後明かされるのを待ちたいと思います。

うるしは「福山お守り係」

ラストの「福山お守り係さん」には笑いました。

ご相談係はたった2人。しかも相方は、社内で嫌われている参考書オタク。うるしの「空欄」を埋める場所は、どうやらここになりそうです。

1冊目では福山に「にわか」とバカにされ、2冊目では「はじめに」を読んで父親に説明しようとがんばった。まだ空振りですが、うるしは確実に一歩ずつ前に進んでいます。

まとめ

  • 福山の教え:参考書の違いは「はじめに」に全部書いてある。色・フォント・文体まで「合う合わない」がある
  • 「自分が使った『数完』を子どもに」という父親に、福山は「時代遅れですね」
  • 親の「バイブル」は「最終的に役立った本」。今の子には、習熟度に合わせた段階的な参考書がある
  • 「参考書は昔よりずっと学ぶ人間に優しくなってる」と福山が笑う
  • ご相談係は福山とうるしの2人だけ。うるしの役目は「福山お守り係」

参考書選びで迷ったら、まず「はじめに」を読んで、今の自分に合う難しさを選ぶ。福山の助言は、研究の結果とも重なっていました。

次回、3冊目は「うるし、『ご相談係』の洗礼」です。

「時代遅れですね」の場面の迫力は、ぜひ漫画で。

漫画『ガクサン』1巻(佐原実波/講談社)

参考書オタク福山と新人うるしの出会い。1冊目〜を収録。

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