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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
舞台は学習参考書の出版社。「ガクサン」は業界で使われる「学参(がくさん)=学習参考書」のことです。
連載はすでに完結しているので、このブログでは1話ずつ、じっくり読んでいきます。
そして『ガクサン』は、読むと勉強のやり方そのものが身につくのが大きな魅力。作中に出てくる勉強法については、このおじさんが研究などの裏づけを調べて、ぱっと見て使えるまとめも付けていきます。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。
ガクサン 1冊目 の登場人物
- 茅野うるし(かやの・26歳):主人公。学習参考書の出版社「いぶき社」に中途採用で入社。前職はIT企業の事務派遣、その前は雑貨店と喫茶店のアルバイト。
- 福山(ふくやま):いぶき社・営業部お客様ご相談係。眼鏡の参考書オタク。口は最悪、知識は圧倒的。
- 聖暁中の中1男子:名門中高一貫の私立に通う男の子。英語が苦手。
- いぶき社:東京・神保町にある中堅の学習参考書出版社。レトロな社屋。
ガクサン 1冊目「うるし、ヤバめの参考書オタクと出会う」あらすじ(ネタバレ注意!)
「私のなかには空欄があって」
物語は、参考書の穴埋め問題のような一文から始まります。
「私のなかには空欄があって いつまでたっても答えが見当たらない」
憧れの出版業界に転がり込んだ茅野うるし、26歳。配属は営業部お客様ご相談係の内勤事務――のはずでした。
ところが新学期前の繁忙期で、営業部は出払っていて誰もいない。人事部長に紹介されたのは、大柄で眼鏡の男・福山。第一声は「荷物持ってそのまま来い」。
連れて行かれたのは、書店で開かれている「いぶき社の学習参考書フェア」の売り場でした。営業に欠員が出たため、昼まで相談係が代わりに立つというのです。
履歴書で丸裸にされる
「何か質問とか…」と話しかけたうるしに、福山は履歴書の中身をすらすらと並べます。
仕事を転々としているのは「よほどの飽き性かミーハーか」。趣味はカフェめぐりとレトロ雑貨店めぐりの「にわかクソサブカル」。出版社も「ちょっと洒落てそう」だから来たんだろう――。
図星でした。うるしは心の中で、参考書に興味なんてない、どうせ売るなら漫画や小説のほうがいい、とつぶやきます。
そして、いつもこうだ、と。
ロックフェスでも、推し活でも、周りの人は「これが好き」と胸を張れるものを持っている。自分にはそれがない。この空欄は一生埋まらないのかな――。
思い出すのは、子どもの頃の父の言葉でした。
「選択肢がたくさん得られるように今勉強するんだ」「うるしが将来好きなことを身につけられるように」
「ガキが使って頭のよくなる参考書はない」
そこへやって来たのが、学ランの中学生。「ここの本はどこがいいんですか?」「YouTuberも紹介してなかったし、レビューも★少ないし」。
答えに詰まるうるし。代わりに福山が口を開きます。
「ガキが使って頭のよくなる参考書はない」
制服と襟章から、名門中高一貫の私立・聖暁(せいぎょう)の中1だと見抜き、そこから男の子の事情を当てていきます。
- 小学校では「頭のいい奴」キャラで、プライドだけは一丁前
- 親は私立に入れて安心し、勉強は学校任せに
- 他の教科は中学受験の貯金でなんとかなるが、受験科目になかった英語だけはそうはいかない
- 期末テストの点に焦って、お小遣いを握りしめて来た
全部当たっていて、男の子は涙目に。「じゃあもう取り戻せないってことかよ」。
福山の答えは、「だからお前が大人になれ」でした。
参考書での勉強の基礎は「3つ」
福山いわく、参考書は読めばいいわけではない。基礎は次の3つです。
- STEP1 解説を読む
- STEP2 問題演習をする
- STEP3 潰す
いちばん大事なのはSTEP3。間違えた問題に付箋を貼り、翌日〜数日後に解き直す。即答できなければ付箋は外さない。日をおいてまた解き直し、付箋をゼロに近づけていく――。
それでも「次の範囲を先取りしたいだけ」とゴネる男の子に、今度はうるしが口を開きます。
「英語は積み上げてく教科だと思うので…」
社会ならテスト範囲だけ勉強すれば点が取れる。でも英語は、疑問詞をやっても代名詞がわからないと結局ダメ。自分がそうだったから、とうるしは言います。
福山の返事は「わかってるじゃないか」。男の子は「じゃあやるよ、丸一冊…」とうなずきました。
スケジューリングの基礎は「割る」
さらに福山は、これからの勉強の進め方を教えます。
中学受験のときは、親や塾が知らないうちに道を作ってくれていた。これからは自分で決めて、自分で実行する。それが「大人になれ」の意味でした。
そして、スケジュールの基礎は「割る」。
聖暁中の英語の教科書は『NEW CROWN』。中2の1学期中間テストの範囲がLesson1〜2なら、いぶき社の参考書で24ページ分。テスト2週間前までに終えるなら使えるのは4週間。24ページ÷4週間=1週間で6ページ、週2日なら1日3ページ。
「これならできそうだろ」。
男の子がゲーム好きだと見抜くと、福山はこう続けます。上達するために毎日練習しているだろう、それと同じで、失敗に構わず繰り返すのが大事なんだと。
「体系的に何かを理解していく その方法をものにしろ」「そうすりゃ年を食っても勉強以外でも 好きなことをなんだって身につけられる人間になれる」
その言葉に、うるしの耳の奥で父の声が重なります。「うるしが将来好きなことを身につけられるように」。
他社の本をすすめる相談係
「じゃあウチのこれ…」と自社の『ちゃんとわかる』を差し出すうるし。ところが福山が選んだのは、旺文社『とってもやさしい中1英語』でした。
「他社のすすめんかい!!」
勉強の苦手意識をなくすことがコンセプトで、教科書についていけない生徒向け。「好きな見た目のものを比べて買え」(弊社にはないが)。男の子は礼を言って帰っていきます。
ところがその後、福山は高校生カップルや親子客にも毒舌を連発。「一番売れているもんが一番いい参考書というわけではない」「そんな意識で買われたら参考書が泣く」。
いぶき社の本は一冊も売れず、うるしの頭には「クレーム大殺到」の文字が浮かびます。
「ただ参考書が好きなだけだ」
「いったい何考えてるんですか お客様ご相談係なんですよね…!?」と詰め寄るうるしに、福山はこう答えます。
「他社だろうと自社だろうと いいもんはいい ダメなもんはダメと言う」
参考書を使う人間が一番よい学びを得られるように。「ご相談係」として、そして「参考書オタク」として。
「…ただ参考書が好きなだけだ」
だからあの目なのか、とうるしは思います。いいな。すごく、うらやましい。
「うちの本も他社のも正直全部同じに見える」「違いを教えてもらえませんか」と頼むうるしに、福山がひとこと。
「『はじめに』から始めろ」――次回へ続きます。
【ガクサン流・参考書の使い方】「潰す」と「割る」は本当に効く?
1冊目で福山が教えたのは、「解説を読む→問題演習→潰す」と「作業量÷時間で割る」の2つ。これは漫画の中だけの話ではなく、学習の研究でも効果が確かめられているやり方に近いものです。
「潰す」=思い出す練習と、日をあけた復習
福山の「潰す」には、研究で効果が大きいとされる2つの要素が入っています。
- 思い出す練習(テスト効果):読み返すより、答えを思い出そうとするほうが記憶に残る。
文章を読んだあと「もう一度読む」グループと「思い出して書く」グループを比べた実験では、5分後は読み返しのほうが成績が良かったのに、2日後・1週間後では思い出す練習をしたグループが上回りました。(Roediger & Karpicke, 2006) - 日をあけた復習(分散学習):同じ時間を使うなら、1日に詰めこむより間隔をあけて繰り返すほうが長く覚えていられる。たくさんの実験をまとめた分析(メタ分析)で確かめられています。(Cepeda et al., 2006)
さらに福山の「ついでに正答箇所も見返すと効果的だ」にも裏づけがあります。
外国語の単語を覚える実験で、一度正解できた単語をテストから外してしまうと、1週間後の成績が大きく下がりました。正解した問題も、ときどき解き直すほうがいいということです。(Karpicke & Roediger, 2008)
10種類の勉強法を比べた有名なレビューでも、効果が「高い」と評価されたのは「練習テスト」と「分散学習」の2つ。逆に「読み返し」や「蛍光ペンで線を引く」は効果が「低い」とされています。(Dunlosky et al., 2013)
福山の「参考書は読めばいいわけではない」は、まさにこのことなんですね。
「割る」=計画を小さく具体的にする
「24ページ÷4週間=週6ページ」のように割ると、毎回やる量が小さく具体的になります。これにも2つの裏づけがあります。
- 人は作業時間を少なく見積もりがち:自分の課題がいつ終わるかを予想させると、多くの人が予想より遅れる(計画錯誤)。(Buehler, Griffin & Ross, 1994)福山が「テスト2週間前まで」と余裕を取っているのは理にかなっています。
- 「いつ・何を・どれだけ」まで決めると実行しやすい:「週2日、3ページずつ」のように条件を決めておく計画(実行意図)は、目標を達成しやすくすることが多くの研究で示されています。(Gollwitzer, 1999)
ぱっと見まとめ:ガクサン流・参考書の使い方
| ステップ | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 解説を読む | わからないところは解説で理解する |
| 2 | 問題演習 | 1冊通して解き、間違えた問題に付箋を貼る |
| 3 | 潰す | 翌日〜数日後に付箋の問題を解き直す。即答できたら付箋を外す |
| 3’ | 見返す | 正解した問題もときどき解き直す |
| 計画 | 割る | 範囲のページ数 ÷ 使える週数 = 1週間の量 |
チェックリスト
[ ]参考書は「読む」だけで終わっていないか[ ]間違えた問題に印(付箋)をつけたか[ ]翌日〜数日後に、その問題を解き直したか[ ]正解した問題も、ときどき見返しているか[ ]テストの2週間前に終わるように、ページ数を週で割ったか[ ]基礎が抜けているなら、プライドを捨てて一番簡単な本から始めたか
福山がすすめた「一番簡単なやつ」=超基礎タイプの参考書は、すぐ下の【今回のガクサン】で紹介しています。
参考文献
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning. Psychological Science, 17(3), 249–255.
- Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968.
- Cepeda, N. J., et al. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.
- Dunlosky, J., et al. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.
- Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994). Exploring the “planning fallacy”. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366–381.
- Gollwitzer, P. M. (1999). Implementation intentions. American Psychologist, 54(7), 493–503.
【今回のガクサン】作中に出てきた実在の参考書
1冊目の最後には、作中で紹介された実在の参考書が載っています。
どれも「超基礎タイプ」。福山いわく「好きな見た目のものを比べて買え」です。英語でつまずいたお子さんや、大人の学び直しにも使えます。
※作中で紹介されたのは『とってもやさしい中1英語 これさえあれば授業がわかる 改訂版』(旺文社)、『中1英語をひとつひとつわかりやすく。改訂版』(学研プラス)、『ぐーんっとやさしく 中1英語』(文英堂)。改訂で版が新しくなっていることがあるので、購入時は最新版を確かめてください。
ガクサン 1冊目 感想・考察
「空欄」から始まる物語
まず目を引くのは、1ページ目の仕掛けです。
参考書の穴埋め問題と、うるしの「私のなかには空欄があって」が重ねられている。そして途中にも「問2 空欄Aに当てはまる言葉を答えなさい」という問題文がはさまれる。
この漫画は、うるしが自分の「空欄A」を埋めていく物語なんだと、1話目ではっきり宣言しているんですね。学習参考書の漫画らしい、うまい見せ方だと思います。
父の言葉と、福山の言葉が重なる
もうひとつの仕掛けが、父と福山の言葉の重なりです。
子どもの頃の父は「勉強していけばいつかわかる」と言った。うるしは「『いつか』はいつ来るの?」と思いながら、26歳になってしまった。
そこで福山が中学生に言ったのが、「好きなことをなんだって身につけられる人間になれる」。
父が言いたかったのも、きっとこれなんですよね。勉強は、好きなものを見つけたときに、それを身につけるための「方法の練習」。
中学生に向けた言葉が、隣で聞いていたうるしにも刺さっている。この構図がとても上手いと思いました。
福山は「口の悪いシャーロック・ホームズ」
制服と襟章から学校名を当て、表情から成績と家庭の事情まで見抜く。福山の推理はまるでホームズです。
ただ、ホームズと違うのは、見抜いた先にちゃんと「どうすればいいか」を出すところ。
「取り戻せない」と泣きそうな子に、「だから大人になれ」。そして「3つのステップ」「割る」「一番簡単なやつを買え」と、今日からできることを具体的に渡しています。
口は悪い。でも言っていることは、子どもを一人の「学ぶ人」として扱っている。だからこそ男の子も最後に「ありがとうございました」と言えたんだと思います。
自社より他社をすすめる理由
営業の代打なのに、他社の本をすすめて自社の本は一冊も売らない。会社員としてはたしかに問題です(笑)。
でも福山の基準は「参考書を使う人間が一番よい学びを得られるか」だけ。売上より、読者が合う一冊に出会えるかどうか。
これは「お客様ご相談係」という仕事の本来の姿でもあるのかもしれません。この「読者のため」と「会社のため」のずれが、今後の物語のタネになりそうな気がします。
うるしの「英語は積み上げ」が光った
福山ばかりが目立つ1冊目ですが、このおじさんはうるしの一言が好きです。
「英語は積み上げてく教科だと思うので…」
参考書の知識はゼロでも、自分が英語で苦労した経験から出た言葉。だから中学生にも届いたし、福山も「わかってるじゃないか」と認めた。
「薄く広い知識」とバカにされたうるしの経験も、ちゃんと人の役に立つ。うるしの「空欄」を埋めるヒントは、案外こういうところにあるのかもしれません。
まとめ
- うるしは学参出版社「いぶき社」に入社。初日から書店フェアの代打に
- 相棒は、口は悪いが知識は圧倒的な参考書オタク・福山
- 英語が苦手な中1に、福山は「大人になれ」。勉強の基礎は「解説を読む→問題演習→潰す」、スケジュールは「割る」
- 他社の本をすすめる福山の基準は「ただ参考書が好きなだけだ」
- 「違いを教えてほしい」と頼むうるしに、福山は「『はじめに』から始めろ」
福山の「潰す」と「割る」は、研究の裏づけもあるしっかりした勉強法。学生さんはもちろん、資格試験の勉強をしている大人にもそのまま使えます。
次回、2冊目は「うるし、『はじめに』から始める」。参考書の選び方の話です。
福山の毒舌と名セリフは、ぜひ漫画で。

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