モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
41冊目は「うるし、もう一度『はじめに』から始める①」。しをり会の飲み会の翌週、ご相談係は誤植さわぎで大混乱。そこへかかってきた1本の電話は、「勉強ってなんでしなきゃいけないんでしょうか」という、いちばん根っこの相談でした。福山が答えに選んだのは、2冊の参考書の「はじめに」。1冊目のあの言葉が、ここで帰ってきます。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 41冊目「うるし、もう一度『はじめに』から始める①」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
うるしの作った夜パフェのチラシにつられて、福山はしをり会のメンバーとの飲み会に来てしまいました。谷津さんの心配から始まった共通テストの話は、思考力を育てる機会の地域差、そして教育格差の話へ。
暗い顔の福山に、花山さんは「ますます我々の出番じゃない!!」と叫び、山崎さんは、もっと信用してよ、と笑います。帰り道、嫌でしたかと聞くうるしに、福山は、悪くはなかった、パフェがな、と答えたのでした。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 40話ネタバレ】40冊目|うるしと共通テスト。夜パフェの罠で福山が飲み会へ――「スタートは高校受験よりずっと前」思考力の格差に、花山「ますます我々の出番じゃない!!」
誤植でプチ炎上――ご相談係は大混乱
楽しかった飲み会の余韻にひたる間もなく、ご相談係は大混乱です。
原因は、いぶき社の英語の本のささやかな誤植。会話文の pen が Ken になっていたのが、SNSやテレビで「まさかの面白誤植」として話題になり、プチ炎上してしまったのです。電話とメールが次々に届き、うるしはWEBサイトでの訂正とお詫びを説明し続けます。
こんなことで電話やメールをしてくるなんて、とこぼすうるしに、福山はケーキを食べながら、こんなことなんて言うな、と返します。読者は参考書を心から信頼してくれているのだから、と。自分の作業はもう終わった、読者と直接やり取りするのは君の仕事だ、とも。
作中には、おなじみの「この係のしくみ」の図がリバイバル。福山と社内の各所は険悪、福山と読者が直接話すのも「やめたがよい」。あいだに立つのがうるし、というわけです。
「今は後回しで…ゴメン!!」
電話の合間に、ご相談係のTwitterに「やっこ」さんから、相談がありまして、とメッセージが届きます。でも、うるしは電話に追われて、今は後回し。
ようやく一段落して休憩室へ行くと、赤城さんに会います。実は誤植は、赤城さんの編集部の本でした。すみません、と謝る赤城さんですが、話題になったおかげで重版するらしい、とのこと。話題になればなんでもありなんですかね、と苦笑いです。
そのころ、やっこさんからは、何度もすみません、こんなこと聞かれても困りますよね、とメッセージが続き、ついに、ご迷惑をおかけしてすみません、消します、と消えてしまいます。
再炎上かと青ざめたうるしは、急いでもう一度送ってくださいとメッセージを送ります。そこへ電話。うるしは、またやらかしたかも、と福山のもとへ駆け戻ります。
「勉強ってなんでしなきゃいけないんでしょうか…?」
電話の主は、さっきTwitterでメッセージを送ったという女性でした。福山がスピーカーにして、いっしょに話を聞きます。
彼女の質問は、勉強ってなんでしなきゃいけないんでしょうか、というもの。
声から察した福山が、お子さんの教育でお困りですか、とたずねると、彼女は話し始めます。シングルマザーで、子どもは小学4年生。フルタイムで働いているけれど、養育費がもらえず、塾に通わせるお金はない。参考書と思ったけれど、何を選べばいいかわからない。
彼女自身、ちゃんと勉強してこなかった。勉強なんて損だ、数学も歴史も大人になったら使わない、と言っていた。でも大人になってみると、資格の勉強もうまくいかないし、英語も読めない。世の中のはみだし者のような、何かが足りない感じがする。
そして最近、小4の娘が、昔の自分と同じことを言うのだそうです。勉強なんて意味ない、お母さんだって勉強しなくても平気じゃん、と。
将来、自分のように困ってほしくない。でも、どう言えばいいのかわからない――。
『?に答える! 小学算数』の「はじめに」
勉強する意味か、とつぶやく福山。うるしは、2月にいぶき社に来てから、ご相談を通して勉強する意味をなんとなく感じてきたことを思い返し、はっとします。
福山さん、「はじめに」じゃないですか?
1冊目で福山がうるしに言った、「はじめに」から始めろ、という言葉です。福山は棚から『?に答える! 小学算数』(Gakken)を取り出します。
この本の「はじめに」には、人生では自分で疑問を持って解き方を考える場面がたくさんあること、そしてそれに向き合う力を勉強を通して身につけてほしいということが、小学生にもわかる言葉で書かれている、と福山は説明します。
ネットで調べればすぐ答えが出る時代。でも、それがすべてではない。新しい理論を発見しろという話でもない。たとえば人間関係ひとつとっても、何が問題かを自分で考え、マニュアルのない中で壁を乗り越えなければならないことがある、と。
そして福山は、勉強する目的をこうまとめます(このセリフは感想で)。
『英文読解の透視図』の「はじめに」
勉強って大変ですね、自分にできないことを子どもにさせるのはかわいそう、でも頑張ってもらわなきゃ、と母親。うるしが、もう一つお伝えしたいことがあります、と言いかけると、福山が続けます。
たしかに勉強は大変。でも同時に、勉強は楽しい。それも勉強をする意味の一つだ、と。
福山が次に手に取ったのは、高校生向けに英語の長文を読むコツを解説した名著『英文読解の透視図』(研究社)。その「はじめに」で著者たちは、英文を読む楽しさを分かち合いたい気持ちをあえて抑え、そこへたどり着くための地道な練習を差し出している、と福山は紹介します。
わかりにくいですよ、ゆっくり、とうるしに止められて、福山は言い直します。わかることが増えると、わかりあえる仲間が増える。周りに実際にいなくても、本の向こうに同じことを考えている仲間がいるとわかる、と。
勉強の先にはそんな楽しさが待っていることが伝わってくる「はじめに」なんです、とうるしも続けます。
「今からでも仲間になれるんでしょうか」
それって子どももそうですけど、私も――。母親は、勉強を始めたら今からでも仲間になれるのか、とたずねます。もちろんです、と福山。
福山はさらに、『英文読解の透視図』の「はじめに」にある、もう一つの思いを伝えます。この本は面白くない練習の連続かもしれない。それでも著者は最後まで読者と一緒に走るつもりでいるし、読者の熱意に支えられてもいる。
つまり――と福山が言った言葉は、感想で紹介します。お母さん自身も今からでも遅くない、参考書がいつでも力を貸してくれますよ、と。
よくわからないけれど、すごく安心した、電話してよかった、と母親。参考書、私も買ってみます、と言って電話を切りました。
「…どゆこと??」
電話を終えて、うるしは考えます。福山さんも、仲間が欲しいと思ったりするのかな。40冊目の、悪くはなかった、という声と、しをり会のみんなの顔が浮かびます。
だったらなおさら――。涙をぬぐって、福山さん、と言いかけたうるし。ところが福山は固まり、なぜか棚に頭をぶつけ、別に、コンビニ行ってくる、と出て行ってしまいます。
ええ、どういうこと? と取り残されたうるしで、41冊目は終わります。続きは42冊目(②)へ。
【ガクサン流・勉強する意味】子どもに「なんで勉強するの?」と聞かれたら
41冊目の福山の答えは、①より生きやすくなるために壁を乗り越える力をつける、②わかる楽しさと、わかりあえる仲間が増える、の2つでした。これを、学ぶ意欲の研究とあわせて見てみます。
1. 「役に立つ」と「楽しい」は、どちらも意欲のもと
学ぶ意欲の研究では、人が勉強に向かうかどうかは「できそうか」という見込みと、その勉強に「価値があるか」で決まると考えます。価値には、楽しい・おもしろいという価値と、将来の役に立つという価値などがあります(Eccles & Wigfield, 2002)。
福山の①は「役に立つ」、②は「楽しい」。2冊の「はじめに」で、両方の価値を伝えたことになります。
2. 「自分の生活とのつながり」に自分で気づくと効く
高校の理科の授業で、習った内容が自分の生活にどう役立つかを生徒自身に書かせたところ、とくに自信のなかった生徒で、興味と成績が上がったという実験があります(Hulleman & Harackiewicz, 2009)。
ただし、大人が「役に立つんだから」と言い聞かせるだけでは、自信のない子にはかえって逆効果になることもあるとわかっています(Canning & Harackiewicz, 2015)。教えこむより、自分で気づかせるのがポイントです。
3. 親が「なぜ大事か」を話すことには効果がある
親に、数学や理科が将来どう役立つかをまとめたパンフレットを渡し、子どもと話してもらった実験では、子どもが高校の後半で数学・理科の授業を多く取るようになりました(Harackiewicz ほか, 2012)。
中学生の親の関わりをまとめた分析でも、宿題を手伝うことより、勉強と将来の目標を結びつけて話すことのほうが、成績とのつながりが強かったと報告されています(Hill & Tyson, 2009)。
やっこさんのように「どう言ったらいいかわからない」ときは、正解を言おうとするより、一緒に「これって何に使えるんだろう」と考えることから始めればよさそうです。
4. 「誰かのため」も勉強の力になる
退屈だけど大事な勉強を続ける力について調べた研究では、「人の役に立ちたい」「社会に貢献したい」という目的をもつ生徒ほど、退屈な課題にも粘り強く取り組めたと報告されています(Yeager ほか, 2014)。
福山の「わかりあえる仲間が増える」も、自分のためだけではない勉強の意味と言えそうです。
5. 親が学ぶ姿も、子どもに伝わる
作中の福山は、お母さん自身も今からでも遅くない、と言いました。研究で直接確かめられたわけではありませんが、親が参考書を開く姿は、「勉強は大人になってからも続くもの」という何よりのメッセージになるはずです(作中の福山の助言)。
ぱっと見まとめ:「なんで勉強するの?」への答え方
| 番号 | 名前 | やること | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 2つの価値を伝える | 「役に立つ」と「楽しい」の両方を話す | 41冊目の2冊の「はじめに」がお手本 |
| 2 | 自分で気づかせる | 「これ何に使えると思う?」と一緒に考える | 言い聞かせると逆効果のことも |
| 3 | 将来と結びつける | 勉強と、その子のやりたいことをつなげて話す | 宿題を手伝うより効果が大きい |
| 4 | 誰かのためを入れる | 人の役に立つ・わかりあえる、という目的も話す | 退屈な勉強の粘り強さにつながる |
| 5 | 親も学ぶ | 親自身が本や参考書を開く | 今からでも遅くない(作中の福山) |
「なんで勉強するの?」チェックリスト(41冊目から)
[ ]「役に立つ」だけでなく「楽しい」も伝えた[ ]答えを言い聞かせず、子どもと一緒に考えた[ ]その子の好きなこと・なりたいものと勉強をつなげて話した[ ]親の自分も、何か一つ学びはじめた
参考文献
- Eccles, J. S., & Wigfield, A. (2002). Motivational beliefs, values, and goals. Annual Review of Psychology, 53, 109–132.
- Hulleman, C. S., & Harackiewicz, J. M. (2009). Promoting interest and performance in high school science classes. Science, 326(5958), 1410–1412.
- Canning, E. A., & Harackiewicz, J. M. (2015). Teach it, don’t preach it: The differential effects of directly-communicated and self-generated utility-value information. Motivation Science, 1(1), 47–71.
- Harackiewicz, J. M., Rozek, C. S., Hulleman, C. S., & Hyde, J. S. (2012). Helping parents to motivate adolescents in mathematics and science: An experimental test of a utility-value intervention. Psychological Science, 23(8), 899–906.
- Hill, N. E., & Tyson, D. F. (2009). Parental involvement in middle school: A meta-analytic assessment of the strategies that promote achievement. Developmental Psychology, 45(3), 740–763.
- Yeager, D. S., Henderson, M. D., Paunesku, D., Walton, G. M., D’Mello, S., Spitzer, B. J., & Duckworth, A. L. (2014). Boring but important: A self-transcendent purpose for learning fosters academic self-regulation. Journal of Personality and Social Psychology, 107(4), 559–580.
ガクサン 41冊目 感想・考察
【今回の一番】「最後まで参考書はあなたの味方」
41冊目でいちばん心に残ったのは、電話の最後に福山が言ったこの言葉でした。
「最後まで参考書はあなたの味方」
塾に行かせるお金がない。自分も勉強してこなかった。子どもにどう言えばいいかもわからない。そんな相談者に、福山は「参考書を買え」とだけ言ったのではありません。あなたはひとりじゃない、本の向こうに一緒に走ってくれる人がいると伝えたのです。
6冊目で福山は、教育格差の話のあとに、それでも希望はあった、それが参考書だ、と言いました。40冊目では、思考力を育てる機会の差が語られました。お金がない家庭、勉強してこなかった親。41冊目の相談は、まさにその「差」の中にいる人からの声です。
そこへ福山が差し出したのが、参考書という味方。いつもは口の悪い福山の、いちばんやさしい言葉だったと思います。
「より生きやすくなるために壁を乗り越える力を身につけること」
勉強する目的を、福山はこう言いました。
「より生きやすくなるために壁を乗り越える力を身につけること」
19冊目で福山は、あかねさんに、勉強は受験のためにするものではない、この社会で自信をもって生きていくために大事なのだ、と話していました。41冊目は、その考えをもっとやさしく言いかえたように聞こえます。
「受験のため」でも「いい大学のため」でもない。生きやすくなるため。小4の子にも、勉強してこなかったお母さんにも届く言葉です。
「わかることが増えると、わかりあえる仲間が増える」
もう一つの答え、勉強は楽しい、も福山らしいものでした。
わかることが増えると、わかりあえる仲間が増える。周りにいなくても、本の向こうに同じことを考えている仲間がいる。
30冊目で語られた福山の過去を思い出しました。北関東の町で、塾にも行けず、周りに同じ道を目指す仲間もいなかった高校生。その福山にとって、参考書の向こうの著者こそが「仲間」だったのではないでしょうか。
だからこそ、うるしは考えます。福山さんも、仲間が欲しいと思ったりするのかな、と。
もう一度「はじめに」から
タイトルの「もう一度『はじめに』から始める」は、1冊目と2冊目の「はじめに」から始めろ、を受けたものです。
2冊目で福山は、「はじめに」にはその本の意図が書いてある、と教えました。41冊目では、うるしがその言葉を思い出して福山に返します。教わったことを、今度はうるしが使う番。2月に入社してからの、うるしの成長が感じられる場面でした。
そしてもう一つ。勉強の意味を伝えるのに、福山は自分の言葉ではなく、著者たちの言葉を借りました。参考書を作る人の思いがいちばんよく表れているのが「はじめに」。参考書オタクで元編集者の福山らしい答え方です。
ラストの福山は何を思ったのか
最後の場面、うるしが言いかけた言葉に、福山は固まり、棚に頭をぶつけて出て行きました。
うるしが何を言おうとしたのかは描かれていません。でも、仲間が欲しいなら、なおさら――しをり会に、でしょうか。それとも、もっと別の言葉だと受け取ったのか。
涙ぐんだ顔で名前を呼ばれて、さすがの福山も平静ではいられなかったのかもしれません。続きは42冊目、②で描かれます。
まとめ
- 英語の本の誤植(pen→Ken)でプチ炎上。福山「こんなことなんて言うな」
- 小4の子をもつシングルマザーから「勉強ってなんでしなきゃいけないんでしょうか」
- 『?に答える! 小学算数』の「はじめに」:壁を乗り越える力をつけるため
- 『英文読解の透視図』の「はじめに」:わかる楽しさと、わかりあえる仲間
- 福山「最後まで参考書はあなたの味方」、お母さんも今からでも遅くない
- うるし「福山さんも仲間が欲しいのかな」→福山はなぜかコンビニへ
41冊目は、勉強する意味という、いちばん根っこの問いに、福山が2冊の「はじめに」で答えた回でした。参考書は、塾に行けない子にも、勉強してこなかった大人にも、最後まで味方でいてくれる。42冊目が待ちきれません!

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