モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
40冊目は「うるしと共通テスト」。39冊目のラスト、夜パフェのチラシにつられて居酒屋に来てしまった福山の続きです。谷津さんの娘の話から、共通テストと「思考力」の話へ。そこで見えてきたのは、地方と都市の、子どものころから始まっている差でした。そして、しをり会のメンバーが福山に向けた言葉とは。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 40冊目「うるしと共通テスト」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
花山さんがうるしたちを連れて行ったのは、いぶき社の制作部。参考書の紙選びは、書きやすさ・軽さ・薄さ・丈夫さがぶつかりあう「群雄割拠」で、制作部と一緒に決めていることがわかりました。赤シートで消えるインクにも、出版社のこだわりがありました。
うるしは、福山は「みんな」になると失敗するのが怖いのかも、と花山さんに打ち明けます。失敗なんて慣れっこ、少しずつブラッシュアップするしかない、と笑う花山さん。そして、いいこと思いついた、と――。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 39話ネタバレ】39冊目|うるしと本作りの工夫②。紙選びは「群雄割拠」、制作部が天下を統一――赤シートで消えるインクの秘密と、花山の「失敗なんて慣れっこ」
夜パフェの罠
金曜日の居酒屋の座敷。福山、うるし、花山さん、山崎さん、赤城さん、川口さん、そして谷津さん。うるしはお酒は普通に飲めます、と言い、川口さんは山登りが趣味だとわかって、みんなが盛り上がっています。
でも福山は、手にしたチラシを見て、なんだこれは、と立ち上がります。帰る。
待てい、と花山さん。罠にはめてすみません、とうるし。花山さんの「いいこと」は、久しぶりにみんなで飲みに行こう、という計画。福山を連れ出すために、うるしが夜パフェのチラシを作って机に置いていたのです。普通に声をかけても絶対来ないじゃないですか、とうるし。考えたら、パンケーキで釣った11冊目に続いて二度目です。
断固帰る、と言う福山の前に、特製パフェが運ばれてきます。食べたら帰るからな、と福山はスプーンを手に取るのでした。
谷津の心配――センター試験の過去問
しをり会の前のお試し親睦会だ、ここは俺がおごる、と谷津さん。高3の娘・葵ちゃんの理転の相談でお世話になったからだ、と(11・12冊目)。
福山のおかげで、葵ちゃんは夏にかなりレベルが上がった。塾に行きたいか聞いたら、独学が調子いいから要らない、と言われたそうです。しっかりした娘さん、と言われ、妻に似たんでしょう、と照れる谷津さん。
でも心配もある、と谷津さん。独学で受験の情報をちゃんと得られているのか。共通テスト対策と言って、前のセンター試験の過去問を解いていた。もう使えないのに、と。
福山の答えは、センター試験の過去問も共通テスト対策に役立つ、というものでした。共通テストに変わる前から、センター試験自体が思考力を重視する方向に変わってきていた。ただし問題の形式の違いには、共通テストの問題集で慣れる必要がある、と。
営業としてもっと勉強します、と谷津さん。私もよくわかりません、とうるし。ご相談係の指導不足だと思われる、とぼやきながら、福山の共通テスト講座が始まります。
共通テストは「知識+α」
2020年度を起点に、大学入試改革が行われた。知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性という「学力の3要素」を、大学入試でも評価するため、センター試験に代わって共通テストが始まった。さらに新しい学習指導要領をもとに、2024年度からは追加の改革も行われています。
教科書の内容から出題される、という前提は変わらない。けれど、丸暗記や解き方のパターンで解ける問題が減り、資料を読んでじっくり考える問題がぐんと増えた、と福山。
いわゆる思考力問題は、教科書にない初めて見る資料や図表、会話文などの長い文章から出題される。読み取った情報と、授業で学んだ知識を頭の中で結びつけて答えを選ぶ。知識の力に「+α」が必要なのです。理系の科目でも同じだ、と。
センター試験は、覚えたことを正しく選べばいいイメージだった、といううるしに、福山は、イメージではなく実際そうだったな、と返します。
誰にとっての「問題」なのか
難関大を目指して中高と勉強してきたトップ層の子には、思考力重視はいまさら問題にならない、と谷津さん。福山は、理系科目以外はね、と言いつつ、しかしだ、と続けます。
これまで、センター試験の知識問題で点が取れれば合格できた層。たとえば地方の国公立大学を目指す受験生にとって、共通テストは大きな壁になる。しかも、経営が苦しくなった地方の私立大学が公立になるケースも増えていて、そうなると共通テストの受験が必要になる。
結果として、地方の高校生は地元の大学に入りにくくなっている、と福山。地元を出る選択肢がない人もいるのに、と赤城さんは顔をくもらせます。
スタートラインはずっと前
それなら、ほかの子も高校から思考力問題に対応できるよう勉強すれば、スタートラインは同じでは? うるしの問いに、福山は首をふります(このセリフは感想で)。
難関大に強い中高一貫校は、入試の時点で素養のある子を選ぶ。中学入試では一問一答型の問題が減り、中堅校でも思考力を問う問題が普通に出ている。トップ層の子は、共通テストのずっと前から思考力問題に慣れているわけです。いっぽう地方の高校では、入試に思考力問題を取り入れていないところもある。地域の差は大きい、と。
高校から思考力をつけようにも、対応できる参考書はまだ難関大向けのものが多い。思考力は一朝一夕には伸びない。学校の現場でも、学力の3要素を授業や成績にどう反映させるか、混乱しているところがある。
それってつまり、小さいころから難関大を視野に入れてきた都市部の子と、それ以外の子の教育格差が、より広がるということでは? うるしの言葉に、福山は、そうだな、と静かにうなずきました。
「ますます我々の出番じゃない!!」
福山は続けます。今の共通テストが求める思考力は、自分のように高校生になってから進路を考え始めた者には、時すでに遅し、ということもあるかもしれない、と。30冊目で語った、自分の過去を重ねるように。
そんなの、とうるしが言いかけたとき、花山さんがジョッキを置いて叫びます(このセリフは感想で)。我々がそこを対策できる本を作ればいいのよ。福山君こそ力を貸しなさいよ、独学で受験を乗り越えてきたんでしょ、暗い顔しすぎ、と。
ちゃんとやれば学びたいことを学べる、それを夢物語にしちゃいけない。むしろ誰も手をつけていない分野じゃないか。演習で考えを導く形に。中学の超基礎の問題集から布石を打つべきでは――。メンバーから、次々にアイデアがあふれ出します。
こういう目線に立つのは福山の得意分野なんだろうけど、と山崎さん。そして笑顔で、福山に向かってひと言(このセリフも感想で)。
うるしは手帳に、「ロングセラーにつながるかも?→思考力をやしなう」と書きつけます。酔って字はくにゃくにゃでしたが。
「悪くはなかった」
店を出ると、じゃあ福山君、次のしをり会でね!と花山さん。いや、と言いかける福山に、結局今日も最後までいたじゃん、と赤城さん。2軒目行きましょう、と川口さん。
うるしは、いまさらですけど騙してすみませんでした、嫌でしたか?と福山に聞きます。
福山の答えは、悪くはなかった。ほっとしかけたうるしに、パフェがな、と付け足す福山。ほんとこれだから福山さんは!!とうるしが叫んで、40冊目は幕を閉じます。
【ガクサン流・共通テスト】思考力は「早めに・少しずつ」
40冊目の福山の解説を、公式の情報と研究とあわせてまとめます。
1. 共通テストのきほん
共通テストは、2021年1月(2020年度)から、センター試験に代わって始まりました。「学力の3要素」は学校教育法にも書かれている考え方で、大学入試でもこれを評価する、というのが改革の柱です。2025年1月(2024年度)の試験からは新しい学習指導要領に対応し、「情報」も加わりました(文部科学省/大学入試センター)。20冊目の新課程の解説もあわせてどうぞ。
2. センター試験の過去問は使える?
作中の福山の答えは「役に立つ」。教科書の内容から出題される点は同じなので、知識を確かめる問題演習としては今も使えます。そのうえで、資料を読みとる形式には、共通テストの過去問や問題集で慣れておく。6冊目の赤本の話と同じく、本番と同じ形式の問題に早めに触れるのが基本です。
3. 思考力は教えて伸ばせる
思考力は生まれつき、と思われがちですが、研究では、教え方しだいで伸ばせることが示されています。批判的思考の指導を扱った多くの研究をまとめた分析では、指導によって思考力が伸び、とくに話し合い、現実の問題に取り組む、教師が手本を示して指導するといった方法が効果的だったと報告されています(Abrami ほか, 2015)。
作中のメンバーの「演習で考えを導く形に」「中学の超基礎問題集から布石を」は、まさにこの方向。思考力は一朝一夕では伸びないからこそ、早めに、少しずつ、が大切です。
4. 家庭でできること
中学入試をしない子でも、ふだんから「なぜそうなるの?」「グラフから何がわかる?」と話し合うことはできます。37冊目の地政学のように、ニュースや身近な話題から資料を読む練習を始めるのもいいでしょう。
ぱっと見まとめ:共通テストの思考力対策
| 番号 | 名前 | やること | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 知識を固める | 教科書の内容を確実に覚える | センター過去問も知識の確認に使える |
| 2 | 形式に慣れる | 共通テストの過去問・問題集を解く | 資料・会話文の読みとりに慣れる |
| 3 | 結びつける | 資料の情報と知識を関連づけて答える | 「なぜ?」を自分の言葉で説明する |
| 4 | 早めに始める | 中学のうちから資料を読む・話し合う | 思考力は一朝一夕では伸びない |
共通テスト チェックリスト(40冊目から)
[ ]教科書の基本の知識を、まず確実に覚えた[ ]共通テストの過去問で、資料を読む形式に慣れた[ ]答えを選んだ理由を、自分の言葉で説明できた[ ]ふだんからグラフやニュースを読んで「なぜ?」を考えた
参考文献
- Abrami, P. C., Bernard, R. M., Borokhovski, E., Waddington, D. I., Wade, C. A., & Persson, T. (2015). Strategies for teaching students to think critically: A meta-analysis. Review of Educational Research, 85(2), 275–314.
- 文部科学省. 大学入学者選抜改革について(高大接続改革).
- 独立行政法人 大学入試センター. 大学入学共通テスト.
ガクサン 40冊目 感想・考察
【今回の一番】「もっと信用してよ」――山崎が福山にかけた言葉
40冊目でいちばん心に残ったのは、山崎さんが笑顔で福山に言ったこの言葉でした。
「もっと信用してよ」
俺たちも学参編集者なんだからさ、と山崎さんは続けます。
17冊目で、福山はひとりで完璧を求め、まわりとぶつかって編集部を外されました。何でも自分で背負いこむ福山に、ひとりで抱えなくていい、俺たちもいると伝えたのです。35冊目で「ロングセラーは俺の夢ではないかも」と打ち明けた山崎さんが、今度は同期として福山の背中を押す。33冊目で「また福山か」と落ちこんでいた山崎さんを思うと、胸が熱くなりました。
39冊目でうるしが心配していた「みんな」が、福山を迎えに来た瞬間です。
「共通テストのスタートは高校受験よりずっと前に切られている」
40冊目のテーマを表すのが、福山のこの言葉です。
「共通テストのスタートは 高校受験よりずっと前に切られている」
思考力を問う入試は、それ自体は良い方向の改革のはずです。でも、思考力を育てる機会が、住む場所や家庭によって大きく違うとしたら。19冊目の「すでにそれだけの差が…距離ができている」、30冊目の福山の過去、そして文化資本の話。ガクサンがくり返し描いてきた教育格差が、今回は入試制度という形で現れました。
「自分は時すでに遅しの側だった」と言う福山の顔は、暗いものでした。北関東の田舎で、高校生になってから進路を考え始めた福山にとって、これは他人事ではないのです。
「ますます我々の出番じゃない!!」
その暗い空気を吹き飛ばしたのが、花山さんの叫びでした。
「ますます我々の出番じゃない!!」
格差があるなら、それを埋める本を作ればいい。6冊目で福山は「それでも希望はあった それが参考書だ」と言いました。参考書は、塾に行けない子の味方になれる。花山さんは、福山自身の信念を、福山に返したのだと思います。
しかも、しをり会の目標は「ロングセラー」。うるしのメモの「思考力をやしなう」は、その答えのヒントになりそうです。地方の子も、中学から少しずつ思考力を育てられる参考書。35冊目の「新しい定番」が、ここで具体的な形を見せ始めました。
谷津さんの「妻に似た」
さりげなく描かれた谷津さんの家族の話も、心に残りました。
12冊目では、葵ちゃんの理転に反対し、自分の夢を押しつけていた谷津さん。25冊目では「父親の道を初めて歩いている」と福山に言われました。そんな谷津さんが、娘の成長を嬉しそうに話し、福山に「お世話になった」とお酒をおごる。親子の関係も、福山との関係も、ちゃんと変わってきているのですね。
「悪くはなかった」「パフェがな」
最後のやりとりは、福山らしくて笑ってしまいました。
騙してすみません、嫌でしたか、と聞くうるしに、悪くはなかった。でもすぐに、パフェがな、と照れ隠し。本当は、みんなとの時間が悪くなかったのでしょう。37冊目の「人は変われるもんなのかもな」から、福山は少しずつ「みんな」の中に入っていっています。
正式なしをり会への参加は、まだ。でも、この夜はもう、しをり会そのものだったように思います。
まとめ
- 夜パフェのチラシにつられて、福山が居酒屋へ。「食べたら帰るからな」
- 谷津: 葵は塾なしの独学で好調。センター試験の過去問を心配→福山「共通テスト対策にも役立つ」
- 共通テストは学力の3要素を評価するために始まり、資料を読んで考える「思考力問題」が増えた
- 地方の受験生には大きな壁。公立化する私大も増え、地元の大学に入りにくくなっている
- 福山「共通テストのスタートは高校受験よりずっと前に切られている」。教育格差が広がるおそれ
- 花山「ますます我々の出番じゃない!!」、山崎「もっと信用してよ」
- 福山「悪くはなかった」「パフェがな」
40冊目は、共通テストの思考力問題から教育格差が見え、しをり会がロングセラーの手がかりをつかんだ回でした。差があるなら、それを埋める本を作ればいい。福山は、正式にしをり会へ来るのか。41冊目が待ちきれません!

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