モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
15冊目は「うるしとバズの功名」。うるしの「参考書は、編集者の愛のかたまりなんです。」がプチバズり。屋上では福山と山崎が本音をぶつけ合い、福山の口から、編集部を離れた事情につながる一言が出てきます。そしてラストには、うるし自身にも刺さる新しい相談が――。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。15冊目は2巻に入っています。
ガクサン 15冊目「うるしとバズの功名」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
編集部見学ツアーの続き。音声収録の手配、学会や研究会での著者スカウト、行き詰まった打ち合わせ。山崎さんは編集者を、著者・読者・教育現場・書店をつなぐ「ハブ」だと言います。
一方で、福山は担当外の本に、しかも校了後に口を出す「トラブルメーカー」だったことも判明。それでも花山さんは、愛のある編集者だったから、と語りました。
放置がベストと言われたうるしは、それでも投稿します。「参考書は、編集者の愛のかたまりなんです。」
前回の記事はこちら → 【ガクサン 14冊目】編集者っていらなくないですか?②。福山は編集部の「トラブルメーカー」だった?――編集者は「ハブ」、そして「参考書は、編集者の愛のかたまりなんです。」
喫茶トルツメで、福山はスレッドを読む
喫茶トルツメ。パンケーキを食べながら、福山がスマホでうるしの投稿を読んでいます(店員さんは、よく食べる客だとあきれ顔)。
投稿はスレッドで続いていました。参考書の見やすさや正確さは編集の腕にかかっていること。編集者は机の外でも、読者や先生や書店の声を聞いていること。そして最後は、参考書が困っている人にちゃんと届き、希望になるようにという言葉で結ばれていました。
福山が思い出していたのは、6冊目の屋上でうるしが言ったいっしょに頑張るという言葉でした。
プチバズり
翌日。リツイートは1000を超え、いいねは5000超え。プチバズりというやつです。
自分の参考書もそういう気持ちで作られていると思ったら勇気がわいた、別ジャンルの編集者だが身が引き締まった――うれしいリプライに、うるしは恐縮しきり。
反論するなと言われていたのに、ちょっと気まずい。でも「知りたい」と言ってみてよかった。そう思ううるしの横で、福山は「総務に行ってくる」と出ていきます。
屋上の福山と山崎
福山が向かったのは、総務ではなく屋上。ついてきた山崎さんが、うるしの投稿を見たかと聞きます。見ていない、と福山。何の話かと聞き返さない時点で見たのだろう、と山崎さんは笑います(笑)。
山崎さんは、うるしは向こう見ずだから気をつけないと、ご相談係を煙たく思う人もいる、と心配します。福山は、わかっていると答え、逆に、勉強会の件でうるしを使ってかまをかけるのはやめろと釘を刺します。
山崎さんの反撃は、うるしのことがちょっと気になっているのかという不意打ち。福山がお菓子の袋を落とすほどでしたが、もちろんいい後輩として、と山崎さんはにっこり。
「編集外された俺に」
山崎さんは本題に入ります。12冊目で谷津さん親子の相談を受けたときの福山を見て、相談を受けるのが楽しくなっているのでは、と。
もしくは、編集に戻りたい気持ちが出てきているのでは。
福山の答えは、これで満足している、参考書に携われたらそれでいい。同業で転職したっていいのに、と言われても、満足していると繰り返します。
そういうお前をもったいなく思う、編集者として悔しい、と山崎さん。すると福山は、
「編集外された俺に 編集のお前が悔しいなんて思うところないだろ」
山崎さんは首を振ります。できる人間が「好きなだけで満足だ」なんて言うのが、いちばんうらやましくて悔しいのだ、と。
その言葉に、福山は4冊目のうるしの「うらやましいから言ってるんです!」を思い出します。
山崎さんは最後に、うるしは過去に関係なく、単純に福山がすごいと言ってそこにいてくれているのだと伝えました。
「いい返答だった」
ご相談係では、うるしが福山を待っています。Twitterの件を何も言われないのは当然か、とあきらめかけたそのとき。戻ってきた福山が、包みをズイッと差し出して「食え」。
「いい返答だった」
読んでくれたのかと顔を輝かせるうるしに、福山は、申請書の記入欄が間違っている、と一言。いつもの福山です(笑)。
豆大福とレナの電話
家に帰ると、箱の中身は豆大福がぎっしり。認めてもらえたのは初めてだとうれしくなる一方、ごほうびが多すぎて賞味期限が心配になるうるし。
そこへ、高校のころの友達・レナから電話が。バズった投稿でうるしを見つけたそうです。文才がある、いつから広報をしているのか、そしてこのまま編集者をめざしているのかと。
考えたこともなかった、と戸惑ううるし。でもレナは出版社への転職をめざしていて、話を聞かせてほしいと言います。うるしはつい、わかることなら、と答えてしまいます。
新しい相談は「見栄」
翌日、レナから飲みに行こうと連絡が。昨日は見栄を張りすぎた、とうるしは頭を抱えます(参考書編集の流れは、まさに付け焼き刃)。
そこへ福山が、DMが来ていると声をかけます。届いた相談は、
見栄を張って、友達と同じ難関大学を志望校と言ってしまった。成績がよくないのがバレたら恥ずかしいというもの。
福山はひと言、「馬鹿だな」。うるしは、他人事ではないと冷や汗をかくのでした。16冊目へ続きます。
【ガクサン流・ほめ方とフィードバック】「いい返答だった」はなぜ響くのか
15冊目の名場面、福山の「いい返答だった」。短い一言なのに、うるしは「認めてもらえたなんて初めて」と喜びました。この一言には、勉強にも使える「フィードバックのコツ」がつまっています。
1. 「人」ではなく「やったこと」をほめる
福山は「茅野はすごい」とは言っていません。ほめたのは「返答」=うるしが書いたものです。
子どもを「頭がいいね」とほめた場合と「よく頑張ったね」とほめた場合を比べた有名な実験では、能力をほめられた子のほうが、失敗したあとに粘らなくなり、成績も下がりました。(Mueller & Dweck, 1998)ただし、のちの研究では効果がはっきり出なかった報告もあり、「ほめ方ひとつで劇的に変わる」とまでは言えない点には注意が必要です。(Li & Bates, 2019)
2. 「何がよかったか」が具体的
フィードバックの研究をまとめた論文では、フィードバックは学習にとても大きな影響を持つ一方で、「人そのもの」へのほめ言葉はいちばん効果が薄いとされています。効くのは、課題について「どこがよかったか・どこが違うか」を伝えるもの。(Hattie & Timperley, 2007)
福山の「いい返答だった」も、すぐあとの「申請書 記入欄間違ってる」も、どちらも「やったこと」についての具体的な一言。ほめるときも直すときも、ぶれていないのが福山らしいところです。
3. 次に向かう道が見える
よいフィードバックは「どこを目指すか」「今どこにいるか」「次に何をするか」の3つに答える、とも言われます。(Hattie & Timperley\, 2007)
うるしにとっては「伝え方は間違っていなかった」ことがわかり、レナの「このまま編集者目指してるの?」で、次の問いまで生まれました。
勉強に使うなら
- 模試や問題集の丸つけでは、点数(=自分の評価)より「どの問題を、なぜ間違えたか」を見る
- 先生や友達に聞くときは「私って数学向いてない?」ではなく、「この解き方のどこが違う?」と聞く
- 自分をほめるときも「えらい」より「今日は大問2を最後まで解けた」と具体的に
ぱっと見まとめ:響くフィードバック
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | やったことをほめる | 人や才能ではなく、書いたもの・解いたものをほめる |
| 2 | 具体的に言う | 「どこがよかったか」「どこが違うか」を短く伝える |
| 3 | 次が見える | 目指す所・今の位置・次にやることがわかるようにする |
フィードバックのチェックリスト(15冊目から)
[ ]丸つけのあと、点数より「間違えた理由」を書き出した[ ]質問するとき、「自分」ではなく「解き方」について聞いている[ ]人をほめるとき、「すごい」ではなく「何がよかったか」を言っている[ ]自分をほめるときも、できたことを具体的に言っている[ ]フィードバックを受けたら、次にやることを1つ決めている
参考文献
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
- Hattie, J., & Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81–112.
- Li, Y., & Bates, T. C. (2019). You can’t change your basic ability, but you work at things, and that’s how we get hard things done: Testing the role of growth mindset on response to setbacks, educational attainment, and cognitive ability. Journal of Experimental Psychology: General, 148(9), 1640–1655.
ガクサン 15冊目 感想・考察
【今回の一番】「いい返答だった」
15冊目の一番は、もちろん福山の「いい返答だった」です。
13冊目で「好きに言わせておけ」、14冊目で山崎さんは「放置がベスト」。うるしの投稿は、言ってみれば上司と先輩の言いつけを破った投稿でした。それでも福山は、ちゃんと読んで、ちゃんとほめた。
しかも、ほめ言葉と一緒に差し出したのは豆大福の箱。7冊目からずっと、相談対応料の「週1の甘いもの」は、うるしが福山に払うものでした。今回は初めて、福山のほうから甘いものを渡したのです。
おじさんはここで泣きそうになりました。量が多すぎて賞味期限が心配なのも、不器用な福山らしいところです(笑)。
【考察】「編集外された」――福山は自分から離れたのではなかった
さらっと出てきましたが、15冊目でいちばん大きな情報はこれだと思います。
「編集外された俺」
3冊目の「いろいろあって異動」、10冊目の谷津さんの「自業自得」、14冊目の赤城さんの「トラブルメーカー」。ここまでは、福山が自分から編集を離れたようにも読めました。
でも本人の言葉は「外された」。福山は編集をやめたのではなく、やめさせられた側だったのです。
そう考えると、13冊目の「編集には関わらないほうがいい」も、「関わりたくない」ではなく「関わってはいけない」という意味に聞こえてきます。
山崎の「いちばんうらやましくて悔しい」
山崎さんの本音も、今回はっきりしました。
10冊目で「ちょっと嫉妬しちゃう」と言っていた山崎さん。その嫉妬の正体は、福山の才能そのものより、「参考書に携われたらそれでいい」と言い切れる純粋さだったのかもしれません。
そして、それは4冊目のうるしの「うらやましいから言ってるんです!」とまったく同じ。うるしと山崎は、同じ場所から福山を見ている。だから福山も、山崎さんの言葉を聞いて、うるしを思い出したのでしょう。
「過去に関係なく」
社内の人はみんな、福山の「過去」を知っています。ヒットメーカーだったことも、もめたことも。だから評価は「賛否両論」です。
でもうるしは、何も知らずにご相談係に来ました。何も知らないぶんど直球――それはうるしの弱点であり、最大の武器です。
過去の評判ぬきで、今の福山を「すごい」と言ってくれる人。福山の「いい返答だった」は、山崎さんの「感謝したほうがいい」への、福山なりの答えだったのではないでしょうか。
「このまま編集者をめざしているの?」
7冊目で、うるしが「編集の道も」と一瞬考えた場面がありました。15冊目のレナのひと言で、それがはっきりした問いになります。
うるしの答えは、参考書を編集できるほど勉強ができない、というもの。
でも10冊目の山崎さんの言葉どおり、参考書の編集者に必要なのは「勉強ができる人」ではなく「わからない人がわかるようにできる人」でした。
うるしの「わからないことを、わからないままにしない」力は、まさにそれ。おじさんは、うるしが編集の道に進む日が来るのでは、とにらんでいます。
見栄の相談は「他人事じゃない」
ラストの相談は、見栄を張って友達と同じ難関大学を志望校と言ってしまった受験生。レナに見栄を張ったばかりのうるしには、まさに他人事ではない相談です。
福山の「馬鹿だな」は、どちらに向けた言葉なのか(笑)。
6冊目で福山は、志望校が決まったらすぐ赤本を買え、「最終的」では駄目だ、と言っていました。見栄で決めた志望校を、福山はどう扱うのか。16冊目が楽しみです。
まとめ
- 福山は喫茶トルツメでうるしのスレッドを読み、6冊目の「いっしょに頑張る」を思い出す
- 投稿はプチバズり。リツイート1000超・いいね5000超
- 屋上で山崎は、編集に戻りたいのではと問いかける。福山は「参考書に携われたらそれでいい」
- 福山の「編集外された俺」というひと言。山崎は、その純粋さがいちばんうらやましくて悔しいと返す
- 福山「食え」「いい返答だった」、そして大量の豆大福
- 高校の友達レナに編集者をめざしているのかと聞かれ、うるしはつい見栄を張る
- 新しい相談は「見栄を張って、友達と同じ難関大学を志望校と言ってしまった」。福山「馬鹿だな」
福山が「外された」事情も、うるしの将来も、少しずつ動き出しました。見栄を張ったうるしと、見栄を張った相談者。2人は同じ答えにたどり着けるのか。16冊目が待ちきれません!
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。
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