モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
28冊目は「うるしとイマドキドリル」。単行本4巻の1話目です。ご相談係でがんばると決めたうるしが出会ったのは、小中学参の編集者・赤城さんの「自信作」。街に出て漢字を集めたり、理科でツッコんだり、コンビニを経営したり――今どきのドリルは、ひと味違います。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 28冊目「うるしとイマドキドリル」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
福山に「やめておけ」と言われた夜、うるしは姉のあかねさんとの電話で、自分が「何かが好きな人が好き」なのだと気づきます。
翌日、福山は、それでも編集者になりたいと言うのなら残念だ、とうるしに伝えました。うるしは涙ながらに、何かに夢中な人、何かを目指す人のために、お客様ご相談係でがんばりたい、と答えます。福山は、そうか、とほほえみ、泣きやむまでうるしのそばに座っていたのでした。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 27話ネタバレ】27冊目|うるしと答え。福山「俺は残念だ」とうるしの決意――あかねが見抜いた「何かが好きな人が好き」と、3巻ラストで見つけた「答え」
新しい朝のご相談係
うるしは、ドアの「お客様ご相談係」の札を貼りなおし、ついでに倉庫っぽさもなくそうと部屋の片づけ。そんなうるしを、福山がじっと見ています。なんですか?と聞くと、別に。
あれから、うるしはちょっと福山を意識してしまっていました。あの日も、落ち着くまで帰らずにいてくれた。意外なところがあるんだな――。
今日の午後はしをり会ですよ、と声をかけると、福山は即答で、行かない。わかってましたけど、とうるし。それでも勧誘はがんばろう。ご相談係の地位向上のため、ロングセラーのため、そしてたぶん、福山さん自身のためにも。
炎天下の赤城さん
同じころの神保町。じりじり照りつける日差しの中、赤城さんは暑さにぐったりしていました。髪を切りたい、でも彼氏の「み〜くん」が嫌がる。フリルの服も風が通らない、でも「いいじゃんその服」と言われるし……と、日陰から日陰へ渡り歩きます。
そこで目に入ったのは、ひまわりのそばで、ドリルを手に元気に歩く帽子の男の子。赤城さんは、はっとします。
「自分の編集したドリル」
しをり会のあと、妙にご機嫌な赤城さん。理由をたずねると、さっき外で、自分が編集したドリルを使ってもらっているのを見かけたのだと、照れながら打ち明けます。
小中英語担当の赤城さんが、なぜ外でドリル?と首をかしげるうるしに、赤城さんは、今どきの小学生向けドリルはひと味違う、変わり種がいろいろ出ている、と教えてくれます。
赤城さんが企画したのは、街で見つけたものを英語で言ってみるコーナーのある小学生英語ドリル。あの男の子は、ひまわりを見つけて「sunflower」と書きこんでいたのです。夏はドリルがいちばん売れる季節で、「夏休み用!」と入ったドリルが店頭に並ぶほど。各社が気合いを入れて企画している、と赤城さん。
第四編集部で、ライバルのドリル
うるしは赤城さんに連れられて、第四編集部(小中学参)へ。リボンとフリルのイメージとちがって、赤城さんの席は意外と雑然としていました。
赤城さんが見せてくれたのは、他社のドリルの数々です。
- 『漢字ハンターズドリル』……街で見つけた漢字を、本の中でなぞって集める体験型。漢字の分類も「神秘の章」「闇の章」と、RPGのよう
- 『ツッコミ! 理科』……理科の知識で、絵のボケにツッコミを入れる大喜利風。体裁は楽しいけれど、中身は中学受験対応のハイレベル
- 『おしごと算数ドリル』……一冊まるごとでコンビニを経営するお話仕立て。収支計算までする「究極のごっこ遊び」
大人のうるしまで、やってみたい、と夢中になります。赤城さんは、こんないい本を作るなんてくやしい、負けたくない、と本気でライバル視していました。
小中学参は「企画しがいがある」
赤城さんによると、高校の学参は人気講師の本が売れるなど、著者の力で売れる傾向がある。小中学参はそうではなく、親が子にやらせたいと思う本や、キャラクターものが人気。そのぶん市場が柔軟で、企画しがいがある。編集者も年に10冊ほど担当し、新しい需要をいつも探している、と。
ただし、見た目やコンセプトだけの「出オチ」ではない、と赤城さんは念を押します。体験型やゲーム型には、子どもに興味を持ってもらう効果もあるけれど、それだけでなく、暗記や反復練習以外で培われる力を大切にしているドリルが多いのだ、と。
大学時代に英語塾でアルバイトをしていて、そのまま学参編集になった赤城さん。机に向かう勉強以外で伸びる力を実感してきたから、それを紙面に落としこみたい。そう語った赤城さんは、最後に照れくさそうに、こう付け加えました(このセリフは感想で)。
「感じが変わりましたね」
すごく素敵です、と答えたうるしは、赤城さんの自信作がちゃんと届くように、私もご相談係でがんばります、と親指を立てます。
赤城さんは、うるしさん、なんだか感じが変わりましたね、と少し驚いた様子。うるし自身も感じていました。これまでの私なら、赤城さんのことをうらやましいと思っていただろう。でも、これからは――。
そういえば、と、SNSで赤城さんのドリルを使っている画像がアップされていたことを伝えると、赤城さんは大喜び。額に入れて宝物にします! 人の子の写真を!?とうるし(顔はスタンプで隠してあります)。
そんなふたりを、柱の陰からじっと見つめるボブヘアの女性が一人。あれが……ご相談係の……っ。29冊目へ続きます。
【ガクサン流・体験型ドリルの選び方・使い方】「楽しい」を入り口に、世界とつなげる
28冊目に出てきた体験型・ゲーム型のドリル。「遊んでいるだけで身につくの?」と心配になる保護者の方もいると思います。研究でわかっていることを整理してみます。
1. 夏休みは「学びが止まりやすい」時期
アメリカの研究のまとめでは、長い夏休みのあいだに、学年で身につけた力が少し落ちる傾向が報告されています(いわゆる「サマー・ラーニング・ロス」。とくに計算の手順やつづりで目立ちました)。(Cooper ほか, 1996)
赤城さんの言う「夏はドリルがいちばん売れる」のは、親の側にもこの感覚があるからでしょう。大事なのは、毎日少しでも続けられること。そのための「楽しさ」です。
2. 「おもしろい」は育てられる
興味は、最初から持っているものだけではありません。研究では、きっかけで生まれた一時的な興味が、くり返しふれるうちに「自分から続けたい興味」に育っていくと考えられています。(Hidi & Renninger, 2006)
街で漢字や英単語を「見つける」体験は、まさにそのきっかけづくり。赤城さんの言う「世界が面白いって思える手助け」は、興味の種まきなんですね。
3. ゲーム化の効果は「あるけど、小さめ」
ポイントやレベル、物語などのゲームの要素を学習に取り入れた研究をまとめた分析では、学習の成果・やる気・行動に、小〜中くらいのプラスの効果が見られました。ただし、やり方によって効果にばらつきがあります。(Sailer & Homner, 2020)
赤城さんが、これで漢字を細部まで覚えられるかは人によりけり、と言っていたのは正直な見方です。体験型は「入り口」、定着には練習も。漢字ハンターで集めた字を、あとで書きとりや小テストで思い出す。この組み合わせがおすすめです。
4. 「生活の中の学び」につなげる
おしごと算数のコンビニ経営や、ツッコミ理科のホットコーラのように、教科の知識を生活の場面と結びつけると、なんのために学ぶのかが見えやすくなります。
ドリルが終わったあとも、買い物でおつりを計算する、散歩で見つけた看板の漢字を読む、料理で温度や体積の話をする。家の中でも、体験型の学びは続けられます。
ぱっと見まとめ:体験型ドリルの選び方・使い方
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 興味で選ぶ | 子どもが「やってみたい」と言うテーマ(漢字・理科・お店など)を選ぶ |
| 2 | 中身も確かめる | 対象学年と、教科の内容がちゃんと入っているかを見る |
| 3 | 外に出る | 街や家の中で「見つける」「使う」体験をいっしょにする |
| 4 | 練習と組み合わせる | 集めた漢字・単語を、あとで書きとりや小テストで思い出す |
| 5 | 毎日少しずつ | 夏休みは1日数ページでも続けることを大切にする |
体験型ドリルのチェックリスト(28冊目から)
[ ]子ども自身が「おもしろそう」と思えるドリルを選んだ[ ]対象学年と、教科の中身を確かめた[ ]ドリルで学んだことを、街や生活の中で探してみた[ ]覚えたことを、あとで思い出す練習もした[ ]夏休みのあいだ、少しずつでも続けられた
参考文献
- Cooper, H., Nye, B., Charlton, K., Lindsay, J., & Greathouse, S. (1996). The effects of summer vacation on achievement test scores: A narrative and meta-analytic review. Review of Educational Research, 66(3), 227–268.
- Hidi, S., & Renninger, K. A. (2006). The four-phase model of interest development. Educational Psychologist, 41(2), 111–127.
- Sailer, M., & Homner, L. (2020). The gamification of learning: A meta-analysis. Educational Psychology Review, 32, 77–112.
今回のガクサン(作中で紹介された本)
- 『漢字ハンターズドリル』(クロスエデュケーションラボ/講談社)
- 『中学入試対応 ツッコミ! 理科』(高濱正伸 監修・江上修 著/永岡書店)
- 『おしごと算数ドリル ビジネス×計算』(エイスクール/学研プラス)
赤城さんの『読み・書き・話せる!! 小学生英語ドリル』は、いぶき社の架空のドリルです。
ガクサン 28冊目 感想・考察
【今回の一番】「世界が面白いって思える手助けができたら」
28冊目でいちばん心に残ったのは、赤城さんがふと口にしたこの言葉でした。
「世界が面白いって思える手助けができたらなって思うんですよね…」
自分の作る本で、子どもたちが本物の世界の中で疑問を持ったり、考えたりしてくれたら。言ったあとで、マジメに語っちゃった、雰囲気に似合わない、忘れてください!と照れる赤城さん。でも、うるしの答えは、すごく素敵です、でした。
1冊目でうるしの父は、将来好きなことを身につけられるように勉強するんだ、と言いました。19冊目で福山は、勉強は受験のためだけのものではない、と語りました。赤城さんの言葉は、その「勉強の先にあるもの」を、小学生向けのドリルという形で届けようとしているのだと思います。
ひまわりを見つけて「sunflower」と書きこむ男の子。暑さにぐったりしていた赤城さんが、その姿を見て元気を取り戻すシーンは、作る人の喜びがまっすぐ伝わってきました。
赤城さんの意外な素顔
これまでの赤城さんは、雑誌のふろくが大好きな、明るいムードメーカーでした(10冊目)。うるしも心の中で「なんか妹感ある」と思っています。14冊目では、福山を「トラブルメーカー」と笑っていましたね。
今回わかったのは、
- 入社はうるしより先だけど、年は2歳下
- 大学時代は英語塾でアルバイト、その流れで学参編集に
- 彼氏の「み〜くん」がいて、暑くてもフリルとリボンをやめない
- フリルのイメージとちがって、席は意外と雑然
そして何より、他社のいいドリルを見て、くやしい、負けたくないと言える負けん気。14冊目の「私だって愛なら負けません!」は、本気だったのです。
「出オチじゃない」――小中学参の現場
赤城さんの話で印象的だったのが、小中学参と高校学参の違いです。
高校は、人気講師の名前で売れる。小中は、親がやらせたいかどうかで選ばれる。だからこそ、企画の力が勝負になる。13冊目で、小中は年に10冊ほど、高校は3〜4冊ほど担当する、と聞いた話ともつながります。
「見た目だけの出オチじゃない」という言葉には、体験型ドリルが「遊び」と軽く見られることへの、作り手のプライドを感じました。ツッコミ理科の中身が中学受験レベルだったように、楽しい見た目の奥には、ちゃんと教科の中身が詰まっているのです。
「これまでの私なら、うらやましかった」
うるしの変化も、28冊目の大事なポイントです。
「赤城さんの自信作がみんなにちゃんと届くように 私もお客様ご相談係でがんばりますね」
27冊目までのうるしなら、夢中になれる赤城さんをうらやましく思い、自分には何もない、と落ちこんでいたはず。でも今のうるしは、夢中な人を支える側に立つと決めています。赤城さんの「感じが変わりましたね」「頼もしくなった」は、その変化を外から見た言葉でした。
27冊目の記事で、おじさんは「作る人・届ける人・支える人」の話を書きました。さっそく4巻の1話目で、作る人(赤城さん)と支える人(うるし)がタッグを組む。ご相談係の新しい役割が見えてきた回でもあります。
福山との距離と、謎の女性
一方の福山は、相変わらずしをり会は「行かない」と即答。それでも、うるしは勧誘をあきらめません。理由のひとつに「たぶん福山さん自身のためにも」が入っているのが、27冊目を経たうるしらしいところです。
あれから福山を意識しちゃう、といううるしの心の声も気になりますね。泣きやむまで隣に座っていてくれた福山。ふたりの関係は、少しずつ変わりはじめています。
そしてラスト、柱の陰から「あれが……ご相談係の……っ」とうるしを見つめるボブヘアの女性。ご相談係のうわさを聞いてやってきた、社内の誰かのようです。敵か味方か、29冊目で明らかになりそうです。
まとめ
- うるしはご相談係の札を貼りなおし、部屋を片づける。福山はしをり会に「行かない」
- 炎天下の神保町で、赤城さんは自分の編集したドリルを使う男の子を見かける
- 赤城さんの企画は、街で見つけたものを英語で言ってみる小学生英語ドリル
- 他社の体験型ドリル:漢字ハンターズドリル・ツッコミ!理科・おしごと算数ドリル
- 小中学参は著者より企画で勝負。「見た目だけの出オチじゃない」
- 赤城さん「世界が面白いって思える手助けができたら」→うるし「すごく素敵です」
- うるし「赤城さんの自信作がみんなに届くように、ご相談係でがんばります」
- 柱の陰から、ボブヘアの女性が「あれが……ご相談係の……っ」
28冊目は、うるしが「支える側」として新しい一歩をふみ出した、4巻のはじまりにふさわしい回でした。ご相談係を見つめていた女性は、いったい誰なのか。29冊目が待ちきれません!

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