モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』に出てきた「認知特性」と「学び方の違い」を、まとめて解説するページです。
24冊目から26冊目にかけて、ガクサンは「人によって学び方は違う」というテーマを、何回かに分けて描いていきます。
おじさんも読みながら「自分はどのタイプなんだろう?」と気になったので、かんたんなセルフチェックを作り、研究で分かっていることもあわせて調べてみました。
以下、24〜26冊目のネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサンで描かれた「学び方の違い」
24冊目:動画で学ぶ娘と、「チャラチャラした勉強法」と怒る父
編集部の谷津さんの娘・葵さんは、アニメキャラが英語を話す動画で勉強していました。谷津さんは、そんな勉強法があるかと怒ります。
動画を見ただけで勉強した気になる落とし穴はある――そう認めたうえで、福山が持ち出したのが「認知特性」という言葉でした。
25冊目:「読んで書いて覚える」が一番とは限らない
福山は、人には見る・聞く・読むのどれで理解しやすいかのかたよりがある、と説明します。
谷津さんは歴史小説を家系図を描きながら読む「言語優位」、葵さんは図録や建物が好きな「視覚優位」かもしれない。そしてペーパーテストは、もともと言語優位の人に有利な形をしている――。
医師の家に生まれ、期待されずに「書いて書いて書いた」谷津さん。その成功体験を、知らないうちに娘に押しつけていたのかもしれない、と気づきます。
26冊目:「苦手」の奥にあるかもしれないもの
26冊目の相談は、ひらがなしか読めない小学2年生の子。お母さんは「なまけ癖」を心配していました。
福山は、努力不足だと決めつけてはいけない、学習障害の可能性もある、と注意をうながします。「学び方の違い」の、いちばん大きな形を描いた回でした。
認知特性ってなに?
作中の欄外で紹介されているのは、小児科医の本田真美さんの考え方です。著書『医師のつくった「頭のよさ」テスト』(光文社)では、情報を受け取って理解したり、覚えたりするときの得意なやり方のかたよりを「認知特性」と呼んでいます。
大きく分けると3つのタイプです(本ではそれぞれをさらに2つに分け、6つのパターンにしています)。
| 番号 | タイプ | 得意なこと | 作中の人物 |
|---|---|---|---|
| 1 | 視覚優位 | 写真や図、映像で覚える。景色や顔をイメージで思い出せる | 葵さん(かも)、うるし(かも) |
| 2 | 言語優位 | 文字や文章で理解する。読んだことを言葉で整理するのが得意 | 谷津さん |
| 3 | 聴覚優位 | 耳で聞いて覚える。話や音、リズムが頭に残りやすい | ― |
大事なのは、これは「得意・不得意の傾向」であって、病気の診断や能力の優劣ではないということ。だれでも3つとも使っていて、そのバランスが人によって少しずつ違う、というイメージです。
自分はどのタイプ? かんたんセルフチェック
おじさんが作った、15問のかんたんなチェックです。「あてはまる」と思ったものに、チェックを入れてみてください。深く考えず、パッと思ったほうでOKです。
※これは本田さんの本にある正式なテストではありません。自分の傾向をつかむための目安です。正式なテストは『医師のつくった「頭のよさ」テスト』に載っています。
A グループ
[ ]初めて行った場所でも、道や景色を写真のように思い出せる[ ]人の名前より、顔のほうをよく覚えている[ ]説明を聞くより、図や表を見たほうが早く分かる[ ]教科書のどのページの、どのあたりに書いてあったかを覚えている[ ]ノートは色分けや図を使って書くと、頭に入りやすい
B グループ
[ ]説明書は、図よりも文章を読んで理解する[ ]本や記事を読むのが、あまり苦にならない[ ]覚えたいことは、自分の言葉で書いてまとめると頭に入る[ ]話を聞いたあと、要点を文章にまとめるのが得意[ ]道案内は、地図より「2つ目の角を右」のような言葉のほうが分かりやすい
C グループ
[ ]一度聞いた歌の歌詞やメロディを、すぐ覚えてしまう[ ]本を読むより、人に説明してもらったほうが分かりやすい[ ]覚えたいことは、声に出して読むと覚えやすい[ ]人の声や話し方の特徴を、よく覚えている[ ]ラジオや音声だけのコンテンツでも、内容がよく頭に残る
結果の見かた
チェックの数が一番多かったグループが、あなたの「得意な入り口」かもしれません。
| グループ | 多かった人のタイプ | おすすめの入り口 |
|---|---|---|
| A | 視覚優位タイプ | 図やイラストの多い参考書、図解の動画から入る |
| B | 言語優位タイプ | 解説の文章がていねいな参考書、まとめノートから入る |
| C | 聴覚優位タイプ | 講義の音声や動画、声に出すゴロ・音読から入る |
2つ以上が同じくらいなら、それだけ使える入り口が多いということ。どれも少ない人は、まだ試していない方法があるだけかもしれません。
ただし、次の節に書くように、結果だけで勉強法を一つに決めてしまうのは、ちょっと待ってください。
「タイプに合わせると成績が上がる」は、本当?
「見るのが得意な人には絵で、聞くのが得意な人には音で教えると成績が上がる」――いわゆる「学習スタイル」の考え方は、とても人気があります。
ところが、研究を集めて検討した報告では、タイプに教え方を合わせると成績が上がる、というはっきりした証拠は見つかっていないとされています。(Pashler ほか, 2008)
自分は「聞くタイプ」「読むタイプ」と答えた大人に、同じ内容を本か音声のどちらかで学んでもらった実験でも、好みに合った方法で学んで、理解度が上がることはありませんでした。(Rogowsky ほか, 2015)
じゃあ認知特性の話は意味がないのか、というと、おじさんはそうは思いません。
- 「読むのが苦手=勉強が苦手」ではない、と知るだけで、自分や子どもを責めずにすむ
- 苦手な方法でつまずいたとき、ほかの入り口を試すきっかけになる
- 家族や友達の覚え方が自分と違っても、「そういうやり方もある」と思える
25冊目の谷津さんが気づいたのも、まさにこの3つ目でした。認知特性は「勉強法を決める答え」ではなく、「人の学び方の違いに気づくヒント」として使うのがよさそうです。
タイプに関係なく、誰にでも効く覚え方
一方で、たくさんの研究でどのタイプの人にも効くと確かめられている覚え方もあります。
1. 絵と言葉をセットにする
言葉だけ、絵だけより、言葉と絵を組み合わせたほうが記憶に残りやすいことが分かっています。思い出すための手がかりが2つに増えるからです。(Clark & Paivio, 1991/Mayer, 2009)
視覚優位の人向けに見えるイラストつきの参考書や図解の動画も、実は言語優位の人にも役立ちます。
2. 声に出す
黙って読むより、声に出して読んだほうがよく覚えていることが、実験でくり返し確かめられています。(MacLeod ほか, 2010)
25冊目で紹介されたゴロの本で、福山が「口に出す」ことをすすめていたのにも、ちゃんと裏づけがあります。
3. 描いてみる
覚えたい言葉を何度も書き写すより、簡単な絵に描いてみたほうがよく思い出せたという実験があります。絵のうまい・へたは関係ありませんでした。(Wammes ほか, 2016)
谷津さんの「家系図を描きながら読む」も、この仲間です。
4. 何も見ずに思い出す
どの入り口から入っても、最後に効くのは何も見ずに思い出す練習です。(Roediger & Karpicke, 2006)
6冊目・13冊目でも出てきた「テスト効果」ですね。谷津さんの「書いて書いて書いた」も、写すのではなく何も見ずに書き出すなら、強い武器になります。
5. 間をあけて、くり返す
一度にまとめてやるより、日をあけて何回かに分けたほうが長く覚えていられることも分かっています。(Cepeda ほか, 2006)
親として気をつけたいこと
ガクサンの谷津さんの話は、親として読むと、なかなか耳が痛いものでした。
自分がうまくいったやり方は、子どもにもすすめたくなるものです。でも、それが子どもにも合うとは限りません。まずは「どうやって覚えてるの?」と聞いてみる。それだけでも、ずいぶん違うはずです。
そしてもう一つ。26冊目のように、読み書きなどの苦手がとても強いときは、「タイプの違い」で片づけないこと。
※ここに書くのは一般的な情報です。お子さんのことで気になることがあれば、かかりつけの小児科や学校、地域の相談窓口に相談してください。おじさんは専門家ではありません。
くわしい相談先は、26冊目の記事の「ガクサン流」にまとめています。
ぱっと見まとめ
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 得意な入り口を知る | セルフチェックで、見る・読む・聞くのどれが入りやすいか目安をつける |
| 2 | 一つに決めない | 得意な方法から入り、ほかの方法も組み合わせる |
| 3 | 絵と言葉をセット | 図やイラストつきの参考書、図解の動画を使う |
| 4 | 声に出す | ゴロや大事な言葉は、口に出してくり返す |
| 5 | 描いてみる | 覚えたいことを簡単な絵や図に描き直す |
| 6 | 思い出して仕上げる | 最後は何も見ずに書き出す・説明する |
| 7 | 間をあけてくり返す | 日をあけて何回かに分けて復習する |
| 8 | 違いを受け入れる | 家族や友達の覚え方が違っても、まず聞いてみる |
認知特性チェックリスト
[ ]セルフチェックで、自分の「得意な入り口」の目安をつけた[ ]得意な方法だけでなく、もう一つの方法も組み合わせた[ ]覚えにくいところは、図や絵に描き直した[ ]大事な言葉は、声に出してくり返した[ ]最後に、何も見ずに思い出せるか確かめた[ ]日をあけて、もう一度復習した[ ]苦手がとても強いときは、一人で抱えずに相談した
参考文献
- 本田真美『医師のつくった「頭のよさ」テスト 認知特性から見た6つのパターン』光文社(作中の欄外で紹介)
- Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9(3), 105–119.
- Rogowsky, B. A., Calhoun, B. M., & Tallal, P. (2015). Matching learning style to instructional method: Effects on comprehension. Journal of Educational Psychology, 107(1), 64–78.
- Clark, J. M., & Paivio, A. (1991). Dual coding theory and education. Educational Psychology Review, 3(3), 149–210.
- Mayer, R. E. (2009). Multimedia learning (2nd ed.). Cambridge University Press.
- MacLeod, C. M., Gopie, N., Hourihan, K. L., Neary, K. R., & Ozubko, J. D. (2010). The production effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(3), 671–685.
- Wammes, J. D., Meade, M. E., & Fernandes, M. A. (2016). The drawing effect: Evidence for reliable and robust memory benefits in free recall. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 69(9), 1752–1776.
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.
まとめ
ガクサンの24〜26冊目は、「人によって学び方は違う」ことを、動画・認知特性・学習障害と、少しずつ深さを変えて描いていました。
自分の得意な入り口を知るのは、勉強の第一歩としてとても役に立ちます。でも、それで勉強法を一つに決めるのではなく、得意から入って、誰にでも効く覚え方で仕上げる。研究から見ると、それがいちばん確かなやり方のようです。
そして、自分と違う覚え方をする人がいたら、まずは「どうやってるの?」と聞いてみる。谷津さんと葵さんのように、ちょっとずつ歩み寄れたらいいですね。

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