モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
21冊目は「うるしと棚作りの極意」。山星堂の学参棚を整えた福山のもとに、男子高校生が「おすすめの参考書を聞きたい」とやって来ます。梅屋敷さんの「もうひとつの相談」の中身、そして書店営業の谷津さんが福山にかけたひと言とは――。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 21冊目「うるしと棚作りの極意」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
社内公募を知って編集へのやる気が出たうるしは、昼休みに神保町の書店・山星堂へ。学参棚の前では、新課程と旧課程がごちゃまぜの棚に福山が取り乱していました。
7冊目でうるしに古典常識の本をすすめてくれた店員さんは、学参棚担当になったばかりのアルバイト・梅屋敷さん。福山は新課程のしくみを基礎から説明し、棚プレートとラベルで棚を見違えるほどわかりやすくします。
梅屋敷さんが「もうひとつ相談が……」と言いかけたそのとき、男子高校生の2人組が声をかけてきました。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 20話ネタバレ】20冊目|うるしと新課程。書店の学参棚がカオス、福山「ここから先は任せておけ」――新課程で何が変わった?「情報」まで解説
物理の参考書が、おすすめできない
男子高校生が探していたのは、物理の定期テストの前に、手軽に対策できる本。日本史の棚を見て目を輝かせた梅屋敷さんでしたが、物理と聞いて固まってしまいます。
あれこれ差し出してみても、男子はピンとこない様子。見かねた福山が横から割りこみ、さっと説明すると、2人は満足して帰っていきました。店員さんじゃないの……?と首をかしげながら(笑)。
勝手にすみません、と謝るうるしに、梅屋敷さんは、むしろありがたかった、と答えます。
梅屋敷さんの、もうひとつの悩み
梅屋敷さんの「もうひとつの相談」は、まさに今のことでした。苦手な教科の参考書を、うまくおすすめできない。中身まで全部わかっているわけではないから、と。
7冊目で古典の本をすすめてくれたのは?と聞くうるしに、あれは自分のわかる教科だったから、と梅屋敷さん。実はアルバイトをしながら、アマチュアの劇作家をしているのだそうです。書くのは歴史ものが多いので、古文や歴史ならわかる。
だから好きな参考書はとことん推してしまう。でも、ちゃんと理解していない科目まで棚を作っておすすめするのは、無責任なのではないか――。
うるしは、その真面目さに驚きつつも、気持ちがわかると言います。自分も、ご相談係として読者の悩みに答えたいけれど、勉強ができるわけではないから。(途中で「編集」と言いかけて、あわてて言い直すのがうるしらしい)
「対応できなくて当たり前だ」
ところが福山は、なんだそんなことか、とばっさり。対応できなくて当たり前だ、と言い切ります。
書店でいちばん店員がたずねられるのは、学参のことだと言っていいほど。学校の先生も、売り場で聞いてごらん、と生徒に言う。でも、もし店員がすべての参考書の中身を理解しているとしたら、学参担当の書店員はみんな、全教科を教えられる先生ということになる。そんなことはありえない、と。
(でも、それって福山さんはできてるよな……と心の中でつっこむうるし)
では、得意なジャンルではいつもどうしているのか、と福山がたずねると、梅屋敷さんは、どんな本が欲しいのかを聞きとり(学年は?目的は?できないところは?)、それでもぴったりの1冊は難しいので、いくつかの選択肢を出して「これはよく選ばれていますよ」と添えるのだそうです。
福山は、それは正しい、と認めます。問題は、それができない教科があること。じゃあどうするか。答えはやはり棚――と言いかけたところで、明るい声が割りこみます。
書店営業・谷津さん、登場
現れたのは、しをり会の谷津さん。今日は山星堂へ書店営業に来ていたのです。
事情を聞いた谷津さんに、話をさえぎられた福山はネチネチと、新課程の棚の入れ替えも周知されていないし、ちゃんと書店営業の仕事をしているんですかね、とチクリ。谷津さんは、してますよ、と言い返しつつ、娘の一件で、せっかく見直したのに、とぼやきます(12冊目の葵の理転のこと)。
「任せられる棚」と、参考書の「旬」
仕切り直して、福山は答えを出します。
お客さんへの提案に悩んでいるなら、お客さんに任せられる棚を作ればいい。提案力のあるいい棚なら、お客さんが自分で、欲しいものを欲しいときに見つけてくれる。
そこで谷津さんが、参考書は「旬」のものだ、と付け加えます。定番品は、売れない時期があっても外せない。そのうえで、新刊などを残りのスペースにどう置くかを考えるときに大事なのが「旬」だ、と。
そして示されたのが、小・中・高の「参考書の旬」カレンダー。2月からの新学期商戦に始まり、春は教科書ガイドや基礎の本、夏は推薦・面接・長文読解、秋は赤本や共通テスト対策、冬は国立二次対策……。この「旬」をそろえておけば、季節ごとの需要に前もって備えられる。提案に困るなら、棚に任せられる棚を作るのが第一歩だ、と谷津さん。
書店営業の仕事は「いい棚を作るお手伝い」
自分にできるかどうか……と不安そうな梅屋敷さんに、谷津さんは、もちろん力を貸します、と申し出ます。ところが梅屋敷さんは、気まずそうに打ち明けました。前にあいさつはしたけれど、いつも店長さんと話しているので、営業さんが何をしに来ているのか、よくわかっていなかった、と。
そこで福山が、いちおう「営業部」のお客様ご相談係として、書店営業の仕事を説明します。
出版社の近くの店や大きな店には、社員が定期的にたずねている。話すのは、まず返品してほしい旧課程の本のこと。そして、季節ごとの「セット」の提案です。
季節ごとに平台を入れ替えるのは大変な手間。そこで、たいていの学参出版社は「セット」を用意して、新人の書店員でも季節に合った参考書を平台に並べられるようにしています。注文すると、見本や拡材(POPやポスターなどの販促物)がついてくることも。いぶき社の「ちゃんとわかる」シリーズのセットを見て、うるしは、見たことある!と声をあげます。
ただ、セットは金額も量も大きい。そう心配する梅屋敷さんに、谷津さんは、無理に注文しなくていい、と言います。地域の客層や、近くの店の売れ方も考えて決めてほしい、売れることがいちばん大事だから。その動きを伝えるのも書店営業の仕事で、店長さんには販売実績の数字を渡していた。それが現場まで届いていなかったのは、コミュニケーション不足だった、と頭を下げます。
梅屋敷さんも、出版社の人と一緒に売り場を作るという発想がなかった、と。これからはもっと話をしましょう、と谷津さん。
福山は最後に、学参は新刊を並べれば売れるジャンルではないから難しい、でも営業と信頼関係を築けば、いくらでも売り上げを伸ばせるやりがいのあるジャンルだ、と語り、一緒に頑張りましょう、と笑いかけます。
谷津さんの誘い
どこから手をつけようか、と考える梅屋敷さんに、谷津さんがすかさず、いぶき社の本もよかったら推して……と売りこみ、福山はあきれ顔。
その帰りぎわ。谷津さんは福山に、静かに語りかけます。福山が社内の人間を信用していないのはわかっている。福山を問題視する人は今もいるし、自分も正直そうだった。けれど今なら、変われるのではないか。編集に戻る気はないとしても――と。
福山の返事は、わかりません。でも、ありがとうございます、でした。
数日後――しをりさんの涙
数日後、山星堂のSNSには「学参売り場改革中!」の投稿が。定期テスト対策フェアの棚の写真に、うるしもほっとします。自分もわからないことだらけだけど、福山さんやしをり会の力を借りて、がんばろう、と。
ところが会社の女子トイレの前で、うるしは、目に涙をためて飛び出してくる女性とすれ違います。スマホを握りしめ、もう知らない!と走り去っていったのは、いつもは髪を結んでいる、しをり会の主宰・花山しをりさんでした。22冊目へ続きます。
【ガクサン流・書店の学参棚の歩き方】棚の「旬」と、店員さんへの聞き方
21冊目は、書店の側から参考書売り場を見る回でした。これは、参考書を買う側にもそのまま役立ちます。作中の話に、少しだけ研究や業界のしくみを足して整理してみましょう。
1. 参考書には「旬」がある
作中の「参考書の旬」カレンダーを、高校生向けを中心にまとめるとこうなります。
| 季節 | 平台に出やすい本(作中のカレンダーより) |
|---|---|
| 2月〜春 | 教科書ガイド、超基礎系(厚めのもの)、定期テスト対策、英文法書、英単語帳 |
| 夏 | 英語長文読解など入試を意識したもの、推薦・面接・小論文対策(夏休みに集中) |
| 秋 | 赤本、共通テスト対策(リスニングも)、復習もの |
| 冬 | 国立二次対策 |
ポイントは、平台(棚の前の台)に積まれているのは「今の時期に売れる本」だということ。春に1年生向けの基礎の本が平台にあれば、それは「新学期に持っておきたい本」という書店からのメッセージです。
反対に、季節外れの本は棚に差してあるだけのことも多いので、平台にないからといって売っていないとは限りません。探している本がなければ、棚の背表紙まで見るか、店員さんに聞いてみましょう。
2. 店員さんには「学年・目的・できないところ」を伝える
梅屋敷さんがお客さんに聞いていたのは、学年、目的、できないところの3つでした。逆に言えば、相談する側がこの3つを先に伝えれば、店員さんはぐっと答えやすくなります。
- 学年:高1か高3か。新課程・旧課程の違いが出る年もある(20冊目)
- 目的:定期テスト対策か、受験か。いつまでに
- できないところ:「物理全部」ではなく「力のつり合いの問題で式が立てられない」くらいまで
21冊目の男子高校生も「テスト前に簡単に対策できるやつ」と目的ははっきりしていました。そこに学年や単元が加われば、梅屋敷さんももう少し候補をしぼれたかもしれません。
そして、店員さんが出してくれた候補は、最後は自分で中を開いて選ぶ。8冊目で福山が言っていた「書店はデートの場」、苦手なところが腑に落ちるか、得意なところが簡単すぎないかの店頭チェックが、ここで生きてきます。
3. わかりやすい棚は、選ぶ人を助ける
福山の言う「任せられる棚」には、心理学の裏づけもあります。
選択肢をカテゴリーに分けて見せるだけで、選ぶ人は「種類が豊富だ」と感じ、選んだあとの満足度も上がる、という研究があります。とくにその分野にくわしくない人ほど、カテゴリー分けの効果が大きいという結果でした。(Mogilner ほか, 2008)
また、選択の場のデザイン(選択アーキテクチャ)の研究では、選択肢の数を絞る、わかりやすく分類する、といった工夫が、人がよりよい選択をする助けになるとまとめられています。(Johnson ほか, 2012)
20冊目の「新課程1年生用」「旧課程版」の札も、21冊目の「新一年生向け」「まずはコレ!」の札も、まさにこの工夫です。くわしくない高校生や保護者でも、自分に合う本にたどりつける棚――それが、店員さんが全教科を知らなくても回る売り場なんですね。
4. 書店営業と「返品」のしくみ
作中で福山が最初に挙げた書店営業の仕事は、「返品してほしい旧課程の本を伝えること」でした。
日本の書籍の多くは、売れ残ったら書店が出版社に返品できる「委託販売」というしくみで流通しています。書店は売れそうな本を仕入れやすい反面、棚に置ける量には限りがある。だから、どの本を返して、どの本を新しく置くか、の判断が大切になります。
新課程への切り替えの時期は、旧課程の本をいつ返すかが特に悩ましいところ。そこで出版社の営業が、返品してほしい本や、地域でよく売れている本の情報を書店に伝えるわけです。
ぱっと見まとめ:書店で参考書を選ぶとき
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 平台を見る | 今の時期に売れている本(旬の本)を知る |
| 2 | 札を見る | 「新課程」「新一年生向け」などの棚の札で、自分向けの棚をしぼる |
| 3 | 3つを伝える | 店員さんに学年・目的・できないところを伝える |
| 4 | 中を開く | 候補は自分で開き、苦手なところが腑に落ちるか確かめる |
| 5 | なければ聞く | 平台になくても棚に差してあることがある。取り寄せもできる |
書店で参考書を選ぶチェックリスト(21冊目から)
[ ]自分の学年と、新課程版かどうかを確かめた[ ]目的(定期テストか受験か)と、いつまでに使うかを決めた[ ]「できないところ」を単元まで言えるようにした[ ]店員さんにすすめられた本を、自分で開いて確かめた[ ]平台だけでなく、棚の背表紙も見た
参考文献
- Mogilner, C., Rudnick, T., & Iyengar, S. S. (2008). The mere categorization effect: How the presence of categories increases choosers’ perceptions of assortment variety and outcome satisfaction. Journal of Consumer Research, 35(2), 202–215.
- Johnson, E. J., Shu, S. B., Dellaert, B. G. C., Fox, C., Goldstein, D. G., Häubl, G., … Weber, E. U. (2012). Beyond nudges: Tools of a choice architecture. Marketing Letters, 23(2), 487–504.
ガクサン 21冊目 感想・考察
【今回の一番】「福山君 しをり会に来なよ」――谷津さんが変わった
21冊目でいちばん胸に来たのは、帰りぎわの谷津さんのひと言です。
「福山君 しをり会に来なよ」
9冊目の谷津さんは、福山と1対1で大丈夫なのか、とうるしを心配し、10冊目では福山の異動を「自業自得だ」と言い切っていました。しをり会の中で、いちばん福山に厳しい人だったのです。
それが12冊目、娘の葵さんの理転の相談で、福山の真っ当さにふれて少し見直した。そして21冊目では、自分も正直、福山を問題視していた側だった、と認めたうえで、今なら変われるのではないか、と手を差しのべます。「あなたは悪くなかった」ではなく、「俺も変わったから、君も」という誘い方が、谷津さんらしくて誠実だと思いました。
福山の答えは、わかりません、でも、ありがとうございます。17冊目で、社内の人間、とくに編集者にトラウマがあると語られた福山です。すぐにうなずけないのは当然でしょう。それでも「断る」ではなかった。13冊目で、うるしの誘いを即座に断ったころからすると、大きな一歩だと思います。
「対応できなくて当たり前だ」は、やさしい言葉だった
梅屋敷さんの悩みに対する福山の返事は、一見つめたく聞こえます。うるしも、そんな言い方……と止めかけました。
でも中身は、全教科を知らないことは、あなたの欠点ではない、というはげましです。書店員が全教科を教えられる先生だなんて、ありえない。だから、知識ではなく棚のしくみで補えばいい。
梅屋敷さんがしていた「学年・目的・できないところを聞いて、選択肢を出す」も、福山は「それは正しい」と認めています。本人のやり方を否定せず、足りないところだけを棚で埋める。19冊目であかねに「考えるのをやめないでほしい」と伝えたときと同じで、福山の言葉は、きつい言い方の奥に、相手を信じる気持ちがあるんですね。
梅屋敷さんとうるしは、同じ場所に立っている
アマチュアの劇作家をしながら、書店でアルバイトをする梅屋敷さん。歴史ものを書くから古文や歴史がわかる、という設定がおもしろく、7冊目で古典常識の本を迷わずすすめられた理由にも納得しました。
そして、わからない教科までおすすめするのは無責任では、という悩みは、うるしの悩みとそっくりです。勉強ができるわけではないのに、ご相談係として読者の悩みに答えていいのか。うるしは途中で「編集」と言いかけましたが、編集者を目指すうるしにとっても、これは避けて通れない問いです。
その答えが、この回にありました。全部を自分でわかっていなくてもいい。棚を作る、営業と話す、福山やしをり会の力を借りる。うるしが最後に、わからないことだらけだけど、みんなの力を借りて精進しよう、と思えたのは、梅屋敷さんの姿に自分を重ねたからでしょう。
書店営業の仕事は「いい棚を作るお手伝い」
福山が説明した書店営業の仕事は、ひと言でいえば、
「いい棚を作るお手伝い」
自社の本をたくさん置いてもらうことではなく、書店の棚がよくなることを手伝う。谷津さんの、無理に注文しなくていい、売れることがいちばん大事だから、という言葉も同じ考え方です。
20冊目で、店長さんが福山を「いぶき社びいきしない」と信頼していたのを思い出します。福山にとっては当たり前のことを、谷津さんもちゃんとやっていた。ただ、それが店長さん止まりで、現場の梅屋敷さんまで届いていなかったんですね。
もっとも、帰りぎわにちゃっかり、いぶき社の本も推して……と売りこむのが谷津さんのかわいいところ(笑)。福山の「…ったく」に、ふたりの距離が少し縮まったのを感じました。
【考察】花山さんの「もう知らない!」は何があった?
ラストは、まさかの花山さんの涙でした。
しをり会の主宰で、いつも落ち着いていて、9冊目では「クチコミの力がすべてよ」と言い切っていた花山さん。その花山さんが、髪をほどき、スマホを握りしめて、もう知らない!と飛び出していく。
スマホを持っていたので、誰かとのやりとりがきっかけでしょうか。仕事の連絡か、それとも私生活のことか。いずれにしても、谷津さんが福山をしをり会に誘った直後に、そのしをり会の主宰がゆれるという流れは、何かが動き出す予感がします。
まとめ
- 男子高校生の「物理のテスト対策の本」に、梅屋敷さんが答えられず、福山が割りこんで解決
- 梅屋敷さんの悩みは「苦手な教科の参考書をおすすめできない」。実はアマチュアの劇作家で、古文・歴史は得意
- 福山「対応できなくて当たり前だ」。書店員が全教科を知っているなんてありえない
- 答えは「任せられる棚」。谷津さんが参考書の「旬」カレンダーを説明
- 書店営業の仕事は「いい棚を作るお手伝い」。旧課程の返品の案内と、季節の「セット」提案
- 谷津さん「福山君 しをり会に来なよ」。福山「わかりません」「でもありがとうございます」
- 数日後、山星堂の棚は改革中。そしてラスト、花山しをりさんが涙で「もう知らない!」
21冊目は、福山としをり会の距離がぐっと縮まった回でした。花山さんに何があったのか。22冊目が待ちきれません!

コメント