モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
39冊目は「うるしと本作りの工夫②」。38冊目のラスト、花山さんの「最強の紙を求めて行くわよ!!」の続きです。行き先は、なんといぶき社の制作部。参考書の紙とインクに込められた工夫が明かされ、最後には、福山を「みんな」の輪に連れ出す作戦が動き出します。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 39冊目「うるしと本作りの工夫②」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
「行ってやる」と言ったはずの福山は、すぐにはしをり会に現れません。そのあいだに花山さんが語ったのは、しをり会が生まれたわけ。社内が混乱していたころ、信頼できるつながりを作りたかったこと、そして、トラブルのときに福山を助けられなかった後悔でした。
後半は、川口さんが持ってきた2冊から、参考書の製本の工夫が明かされます。ルーズリーフになる参考書、分厚くても開く「広開本」。紙が好きなうるしが、書きこみやすい紙がいちばんでは、と言うと、花山さんは、実はそんなことはない、と立ち上がったのでした。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 38話ネタバレ】38冊目|うるしと本作りの工夫①。しをり会が生まれたわけと花山の後悔――ルーズリーフになる参考書、分厚くても開く「広開本」の秘密
「最強の紙」は制作部にあり
花山さんがうるしたちを連れて行ったのは、いぶき社の制作部。紙の見本帳がずらりと並ぶ部屋です。
ご相談係のうるしは、制作部が何をしているのかよく知りません。花山さんによると、紙を確保したり、印刷会社とやりとりしたり、本を作るうえでの「物理的なこと」を担当する部署。山崎さんも、印刷のスケジュール管理などで編集者はいつもお世話になっていて頭が上がらない、と言ったそばから、校正紙の戻しを催促されてしまいます。
紙選びは「群雄割拠」
花山さんいわく、学習参考書の紙選びは混戦を極めている。書きやすさ、裏写りのなさ、軽さ、丈夫さ、薄さ、見た目の映え。まるで戦国武将が争うように、どれも譲れない条件なのです。
川口さんの説明では、摩擦が大きく書きこみやすい紙を選ぶと、そのぶん本が分厚く重くなる。どれがいちばん、とは一概に言えない。赤城さんは、表面がコーティングされた書きこみにくい紙(コート紙)は、カラーがきれいに見えるので図の多い本に向いている、と付け加えます。
そんなふうに、あちらを立てればこちらが立たない紙選び。その「戦乱」をおさめるのが制作部です。編集者は制作部に相談して、目的に合った紙をコストも含めて一緒に決める。たいていは似た本を参考にするのだそうです。
中身が真っ白の「束見本」
うるしが驚いたのが「束見本(つかみほん)」。印刷する前に製本会社から取り寄せる、中身が真っ白な見本の本です。開いたときの感じ、重さ、厚さを実物で確かめるためのもの。
川口さんによると、38冊目の『NEW ACTION LEGEND』も紙に強くこだわっているシリーズ。旧課程版の数学II+Bはとにかく分厚かったのが、新課程版では紙を変えて、厚さをおよそ85%にスリム化したのだとか。紙が変わるだけでこんなに違う、とうるしは目を丸くします。
小学生のドリルなら、消しゴムで破れない強い紙や、目にやさしい色の紙を選ぶ。製紙の技術も年々進んで、薄くても強くて軽く、裏写りしにくい紙が選びやすくなっている、と山崎さん。戦乱は技術の力で「和平」に向かっているようです。
赤シートで消えるインクの話
うるしが色見本を見つけて、インクにもこだわりがあるんですか、と聞くと、花山さんは待ってました、とばかりに身を乗り出します。
学参のインクといえば、赤シートで消える色。いぶき社では、校正の段階で必ず消えるかを確かめているそうです。13冊目の「恐怖!消えない赤字」が、ここでも出てきます。
印刷はふつう、4色のインクを重ねて色を出します。でも特定の色を安定して刷りたいときは、あらかじめ調合した「特色」のインクを使う。そうすれば、刷ってみたら赤が濃く出て消えない、という事故が減るわけです。消えるための特色を、わざわざ使っている出版社もあるのだとか。
さらに川口さんが紹介したのが『高校入試 5科の総まとめ』(増進堂・受験研究社)。赤い文字の下に薄い水色の柄が敷いてあり、赤シートをのせると文字が消えて柄が浮かび上がる。だから、どこが空欄なのかがひと目でわかる。それでいてふだんは赤い文字がしっかり読める、絶妙な色の調整です。
最後は赤城さんから、カバーの色の話。書店では背表紙だけが見える「棚差し」が多いので、背が目立つ色を選ぶ。ただ黄色や赤は色あせしやすいので気をつかう。予算が許せば、特色や蛍光色、つやのある盛り上がった印刷を使うこともあるそうです。
「みんな」になると怖いのかも
制作部、印刷所。本は本当に「みんな」の工夫の結晶なんだ、とうるしは感動します。気づけば、しをり会の本題はすっかり後回し。
戻ろうとする花山さんに、うるしは心に引っかかっていたことを話します。福山さんは、一人ひとりとは親しくなってきているのに、「みんな」になると、また失敗するのが怖いのかもしれない、と。
花山さんは、編集者をしていたら失敗なんて慣れっこだ、と笑います。本ができてから、紙はあっちがよかった、この色は意外と……なんてことばかり(著者の先生にはオフレコで)。そう打ち明けたうえで、花山さんは編集者の向き合い方を語ります(このセリフは感想で)。
うるしは考えます。福山さんが、今度こそ「みんな」と上手くやりたいと思っているなら、あとはきっかけさえあれば――。
「いいこと思いついた!」
その言葉に、花山さんの目が光ります。いいこと思いついた!
場面は変わって、居酒屋。かんぱ〜い!と、ジョッキを持ち上げるしをり会の面々。その輪の中に、なぜか福山の姿が。手に握られていたのは、うるしが作ったらしいチラシ。「金曜限定、老舗居酒屋で一夜限りの夜パフェ」。……は? と固まる福山で、40冊目へ続きます。
【参考書の作りを知る②】紙とインクの工夫を味方にする
38冊目の製本に続いて、39冊目は紙とインク。作中の話をもとに、参考書選びや使い方のヒントをまとめます。
1. 紙は「目的」で選ばれている
書きこむ本は書きやすい紙、図の多い本はカラーがきれいなコート紙、持ち歩く単語帳は軽い紙。参考書の紙は、使い方に合わせて選ばれています。
書きこんで使いたいなら、店頭で鉛筆やシャープペンで書いたときの感触や、裏写りしにくいかを想像しながら紙を見てみましょう。38冊目で紹介した「真ん中を開いて手を離す」とあわせて、紙も本を選ぶ理由のひとつになります。
2. 赤シートは「隠して思い出す」ための道具
赤シートで消える文字は、ただの飾りではありません。答えを隠して思い出す練習をするための仕掛けです。読み直すより、思い出す練習をしたほうが記憶に残ることは、テスト効果としてよく知られています(Roediger & Karpicke, 2006)。13冊目でも紹介した話です。
『5科の総まとめ』のように「どこが空欄か」がわかる工夫は、思い出す前に「何を思い出すのか」をはっきりさせてくれます。赤シートを使うときは、隠したらまず自分で答えを言ってからシートをずらすのがコツです。
3. 「消えない赤」に気をつける
自分でノートや問題集に赤ペンで書きこむときも、ペンによっては赤シートで消えないことがあります。暗記用に書きこむなら、使う前に赤シートで消えるかを試しておきましょう。作中の出版社が校正で必ず確かめている、というのと同じです。
ぱっと見まとめ:紙とインクの見方
| 番号 | 名前 | 見るところ | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 書きやすさ | 紙の手ざわり・裏写り | 書きこむ本ほど大事 |
| 2 | 重さ・厚さ | 持ち歩くかどうか | 単語帳は軽さ優先 |
| 3 | 赤シート | 赤い文字がきれいに消えるか | 空欄がわかる工夫もある |
| 4 | 自分の赤ペン | 赤シートで消えるか | 使う前に試す |
紙とインク チェックリスト(39冊目から)
[ ]書きこむ参考書は、紙の書きやすさと裏写りを確かめた[ ]持ち歩く本は、重さと厚さも見て選んだ[ ]赤シートを使うときは、答えを言ってからずらした[ ]暗記用の赤ペンが、赤シートで消えるか試した
参考文献
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
ガクサン 39冊目 感想・考察
【今回の一番】花山さんの「少しずつブラッシュアップしていくしかない」
39冊目でいちばん心に残ったのは、花山さんが語った、編集者の失敗との向き合い方でした。
「少しずつ できる範囲のことを ブラッシュアップしていくしかないのよ」
本ができてから後悔することばかり。ヒットするかどうかも、最後は運がからむ。でも、だからといって全部運任せでは、やっていられない。結果がわからなくても、できることを少しずつ良くしていく。
この言葉は、紙やインクの話であると同時に、福山へのメッセージでもあります。17冊目で、福山は完璧を求めすぎて人とぶつかり、編集部を外されました。花山さんは、完璧じゃなくていい、少しずつでいい、と言っている。そして、それくらいの忍耐力はヒットメーカーだった福山君なら持っているはず、と信じているのです。
本は「みんな」で作るもの
うるしの「本は『みんな』の工夫の結晶」という気づきも印象的でした。
13冊目の編集部見学では、編集者の仕事を知りました。38・39冊目では、製本会社、制作部、印刷所と、編集者のさらに外側にいる人たちの工夫を知った。参考書の「愛のかたまり」は、編集者ひとりの愛ではないのです。
そして、その「みんな」という言葉が、そのまま福山の話につながっていく。本を作るには、みんなの力がいる。福山がしをり会に来ることは、まさにその「みんな」の一員になることなのですね。
うるしの観察眼
福山は、一人ひとりとは親しくなってきているのに、「みんな」になると怖いのかも。うるしのこの見立てには、なるほど、と思わされました。
思い返せば、福山は花山さん(22・23冊目)、谷津さん(25冊目)、赤城さん、川口さん(36・37冊目)と、相談を通して一人ずつ関係を作ってきました。でも、しをり会という「集まり」は、17冊目の過去を思い出させる場所でもあります。一対一なら大丈夫、でも集団は怖い。38冊目の「行くとは言ったがすぐとは言ってない」の理由が、うるしの言葉でくっきりしました。
26冊目で「人の気持ちなんてわからないくせに」と福山に言ったうるしが、今は福山の気持ちをいちばん近くで考えている。ご相談係のコンビらしい場面です。
夜パフェの罠
それにしても、最後のオチには笑いました。11冊目で、うるしは喫茶店のパンケーキの記事で福山を釣り出しています。今回は、居酒屋の夜パフェ。
福山の甘いもの好き(7冊目の「週1の甘いモン」)は、もう社内中に知れ渡っているようです。参考書オタクを動かすのは、正面からの誘いより甘いもの。福山がこの「罠」にどう反応するのか、40冊目が楽しみです。
まとめ
- 花山がうるしたちを連れて行ったのは、いぶき社の制作部
- 紙選びは「群雄割拠」。書きやすさ・軽さ・薄さ・丈夫さなど条件がぶつかりあい、制作部と一緒に決める
- 印刷前の「束見本」、NEW ACTION LEGEND は紙を変えて約85%の厚さに
- 赤シートで消えるインクは校正で必ず確認。特色インク、『5科の総まとめ』の空欄がわかる工夫
- うるし: 福山は「みんな」になると失敗が怖いのかも
- 花山: 失敗は慣れっこ、少しずつブラッシュアップするしかない
- 花山「いいこと思いついた!」→居酒屋で乾杯、手には夜パフェのチラシを持った福山――40冊目へ
39冊目は、参考書の紙とインクの工夫と、福山を「みんな」に迎えるための作戦が重なった回でした。完璧じゃなくていい、少しずつでいい。夜パフェの罠にかかった福山は、どうなるのか。40冊目が待ちきれません!

コメント