モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
25冊目は「うるしと認知特性」。動画ばかり見ている娘を心配する谷津さんに、福山が持ち出したのは「認知特性」という言葉でした。人によって、得意な覚え方はちがう――。その話は、谷津さん自身の過去へとつながっていきます。そしてラストには、思わぬ「発見」が。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 25冊目「うるしと認知特性」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
うるしの変化を「参考書の沼にハマった」とうれしそうに受け止める福山。けれど山崎さんは、うるしは参考書に熱意を注ぐ「人たち」が好きなのだと見抜き、「こっち側の人」、福山は気づけていない、とつぶやきました。
話題は勉強動画へ。動画と参考書は食い合わない一方で、見ただけで勉強した気になる落とし穴もある――そこへ、娘の葵さんが動画ばかり見ていると嘆く谷津さんが飛びこんできます。動画を見ただけで身につくわけがない、と息巻く谷津さんに、福山は「認知特性」という言葉を知っているかと問いかけました。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 24話ネタバレ】24冊目|うるし、動画で学ぶ。山崎「うるしちゃんは…こっち側の人だよ」――勉強動画と参考書は共存できる?「見ただけで勉強した気になる」の落とし穴
誰にとっても「読んで書いて」が一番ではない
福山は言います。誰にとっても、読んで書いて覚えるのが一番というわけではない。人にはそれぞれ、考え方や覚え方のくせ、「認知特性」があるからだ、と。
たとえば一冊の歴史小説を読むとき、何を思い浮かべますか、と福山。谷津さんは、登場人物の家系図を思い浮かべながら読んでいた、と答えます。それを聞いた福山は、谷津さんは言語優位のタイプのようですね、と。
認知特性とは、外からの情報を理解し、整理し、記憶し、表現するときの得意・不得意のこと。大きく分けると、
- 視覚優位:絵で理解するのが得意
- 言語優位:文章で理解するのが得意
- 聴覚優位:聞いて理解するのが得意
の3つ。どれにも偏らない人もいるし、提唱者の本田先生によれば、さらに細かく分けられる。文字を読んでそのまま理解したり、図に起こして考えたりするのが得意な言語優位の谷津さんだから、家系図だったのです。
葵さんは「視覚優位」かもしれない
でも、娘さんは違うのかもしれません、と福山。武将の乙女ゲームにはまっていた葵さんは、歴史書を読むと絵でイメージするタイプかもしれない。思い当たる谷津さん。そういえば葵は昔から、歴史小説より、建物や図録に興味があった、と。(うるしは、私もこっちタイプな気がする……)
それでも谷津さんは、そういう特性があるのはわかったが、勉強は最終的に紙に書いてやっていくものだろう、と食い下がります。福山の返事は、関係あります、黙って聞いててください。むかつく、と谷津さん(笑)。
合う覚え方は人それぞれ
福山によれば、認知特性は見たり聞いたりする段階だけでなく、覚えやすさにもかかわる。だから、合う勉強法も人によって違う。言語優位の人には「書いて覚える」が効いても、聴覚優位なら音で、視覚優位なら絵や図を描いて覚えるほうが記憶に残りやすい。
それなのに、なぜ「書いて覚える」が一番だと言われ続けてきたのか。福山の答えは、ペーパーテストの仕組みそのものにありました(このセリフは感想で)。
葵さんの話に戻ると、動画での勉強も、合う人にはとても役に立つ。動画は音だけでなく、講師の表情や動き、図といった目からの情報でも、理解と記憶を助けてくれる。口で言われるより文で読むほうがわかりやすいと思っていたけど、そこが違う人もいるのか……と谷津さん。
視覚・聴覚優位の人のための参考書
それでも勉強に本は欠かせませんよね、視覚や聴覚が得意な人に参考書業界はどうアプローチすれば……と、うるし。すると福山がニヤリ。参考書好きも板についてきたじゃないか、と。(うるしは、笑った……!?とびっくり)
福山が紹介したのは2冊。聴覚優位の人には、昔からある「ゴロ合わせ」。『世界史年代ワンフレーズ』は、徹底してゴロで年号を覚える一冊で、口に出して繰り返すのがポイント。目に残る挿絵もついています。
視覚優位の人には、『現代文読解のテーマとキーワード』。わかりにくい概念をイラストで解説していて、「感じ」がつかめるから文章が読みやすくなる。ちなみに視覚優位だと、最初に頭に入る情報の量がとても多いのだとか。特性ごとの強みを生かさない手はない、合った参考書を使ってほしい、と福山。
谷津さんが「書いて書いて書いた」わけ
じっと聞いていた谷津さんが、ぽつりと言います。俺は葵の長所をつぶしてしまっていたのかもな、親子でも別の人間なのに――。
谷津さんは、兄弟の中であまり出来がよくなかったそうです。医師の兄、東大の姉。成績のよくない末っ子の自分に、父が期待していないことははっきりわかっていた。だから、書いて、書いて、書いた。書いた量だけ前に進める、そうすれば父に関心をもってもらえると信じて。机の上には、使い切ったシャープペンの芯のケース。そして届いた合格通知書と、笑顔の父。
その分、娘に期待と関心を寄せすぎていたのかもしれない。理転の件も、やらせたいことを押しつけていただけ。ふたりの前ではだめなところばかり見せて、情けないね……。
福山は、情けなくなんてありません、と言いました。谷津さんは父親になって17年目だけれど、同時に、父親の道を初めて歩いているのだから、どこでつまずいても当然だ、と。そして、人を育てたことのない人間が言えたことではないけれど、と前置きして――尊敬しています。
「ちょっとずつ歩み寄れたらいいですね」
うるしが、なんとなくですけど、と切り出します。認知特性がわかると、人とのコミュニケーションの問題も解決するのかも。たとえば福山さんが、マニュアルに書いてあるだろ!と、かたくなに口で作業を教えてくれないのも、言語的なものが一番わかりやすいと思っているからでは……?
福山は、知らん、とそっぽを向きます。
大人でも、自分や他人の苦手なところがわかれば、重荷が下りるかもしれない。お互いにそういうところを理解しあって、少しずつ歩み寄れたら――。照れ笑いするうるしに、福山は思わず吹き出します。谷津さんも笑いながら、あの福山君でもそうなんだもんな、頑張ってみるよ、ありがとね、と。
福山が見つけたもの
その夜。うるしは、お昼に言っていたプリンが営業部の冷蔵庫にある、と言い残して先に帰ります。(ご相談の報酬です)
ひとり残った福山の頭に、うるしの「少しずつ歩み寄れたら」がよみがえります。立ち上がって資料を運ぼうとしたとき、うるしの机から書類がすべり落ちました。
床に散らばったのは、第四編集部の修正見本、社内公募制度のお知らせ、そして『編集部のための校正記号マニュアル』。
参考書業界はどうアプローチすれば、と言ったうるし。編集の皆さんといると、同じ地平に立って同じものが見られたら、と言ったうるし。そして山崎さんの、気づけるわけないんだよ、という声――。
散らばった書類の前にしゃがみこんだまま、福山は言葉を失っていました。26冊目へ続きます。
【ガクサン流・認知特性との付き合い方】「タイプ」より「覚え方の引き出し」を増やす
25冊目のテーマは「認知特性」でした。作中の欄外には、参考として本田真美さんの『医師のつくった「頭のよさ」テスト 認知特性から見た6つのパターン』(光文社)と、本田式認知特性研究所が紹介されています。
自分の得意・不得意を知ることは、勉強の入り口としてとても役に立ちます。ただ、心理学の研究には、少し注意したい点もあります。研究とあわせて、上手な使い方を整理してみましょう。
1. 「タイプに合わせると成績が上がる」は、実はまだ確かめられていない
「見て覚えるタイプには絵で、聞いて覚えるタイプには音で教えると、成績が上がる」――いわゆる「学習スタイル」の考え方は、とても人気があります。
ところが、研究を集めて検討した報告では、タイプに教え方を合わせると成績が上がる、というはっきりした証拠は見つかっていないとされています。(Pashler ほか, 2008)
その後の実験でも、自分は「聞いて覚えるタイプ」「読んで覚えるタイプ」と答えた大人に、本と音声のどちらかで同じ内容を学んでもらったところ、好みに合った方法で学んでも、理解度は上がりませんでした。(Rogowsky ほか, 2015)
つまり、得意・不得意の「感じ」はあっても、それだけで勉強法を一つに決めてしまうのはもったいない、ということです。
2. 誰にでも効くのは「絵と言葉をセットにする」こと
一方で、多くの研究で確かめられているのが、言葉だけ、絵だけより、言葉と絵を組み合わせたほうが記憶に残りやすいということ。言葉と映像の二つの道で覚えるので、思い出す手がかりが増えるのです。(Clark & Paivio, 1991/Mayer, 2009)
福山が紹介したイラストつきの現代文の本や、表情や図が見える授業動画は、「視覚優位の人のため」だけでなく、実はどのタイプの人にも役立つと言えそうです。
3. ゴロは「声に出す」と効く
『世界史年代ワンフレーズ』で福山が言った「口に出して繰り返すのがポイント」にも、ちゃんと裏づけがあります。
単語を黙読するより、声に出して読んだほうがよく覚えていることが、実験でくり返し確かめられています。声に出すと、その言葉が「特別なもの」として記憶に残りやすくなるからだと考えられています。(MacLeod ほか, 2010)
4. 「描いて覚える」も、誰にでも使える
覚えたい言葉を、何度も書き写すより、簡単な絵に描いてみたほうがよく思い出せた、という実験もあります。絵のうまい・へたは関係ありませんでした。(Wammes ほか, 2016)
谷津さんが家系図を描いて読んでいたように、文章を図に描き直すのも同じ仲間。視覚優位かどうかにかかわらず、試す価値があります。
5. 最後は「思い出す練習」で仕上げる
どの覚え方で入っても、最後に効くのは、何も見ずに思い出す練習です(6冊目・13冊目で紹介した「テスト効果」)。谷津さんの「書いて書いて書いた」も、ただ写すのではなく、何も見ずに書き出す練習にすれば、そのまま強い武器になります。
ぱっと見まとめ:認知特性を勉強に生かすコツ
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 得意を知る | 見る・聞く・読むのどれが入りやすいか、自分で試してみる |
| 2 | 一つに決めない | 得意な方法を入り口にして、ほかの方法も組み合わせる |
| 3 | 絵と言葉をセット | 図やイラストつきの参考書、表情や図が見える動画を使う |
| 4 | 声に出す | ゴロや大事な言葉は、口に出してくり返す |
| 5 | 描いて覚える | 覚えたいことを簡単な絵や図に描き直す |
| 6 | 思い出して仕上げる | 最後は何も見ずに書き出す・説明する |
認知特性チェックリスト(25冊目から)
[ ]見る・聞く・読むのうち、自分が入りやすい方法を試してみた[ ]得意な方法だけでなく、もう一つの方法も組み合わせた[ ]覚えにくいところは、図や絵に描き直した[ ]ゴロや大事な言葉を、声に出してくり返した[ ]最後に、何も見ずに思い出せるか確かめた[ ]家族や友達の「覚え方」が自分と違っても、まず聞いてみた
参考文献
- Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9(3), 105–119.
- Rogowsky, B. A., Calhoun, B. M., & Tallal, P. (2015). Matching learning style to instructional method: Effects on comprehension. Journal of Educational Psychology, 107(1), 64–78.
- Clark, J. M., & Paivio, A. (1991). Dual coding theory and education. Educational Psychology Review, 3(3), 149–210.
- Mayer, R. E. (2009). Multimedia learning (2nd ed.). Cambridge University Press.
- MacLeod, C. M., Gopie, N., Hourihan, K. L., Neary, K. R., & Ozubko, J. D. (2010). The production effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(3), 671–685.
- Wammes, J. D., Meade, M. E., & Fernandes, M. A. (2016). The drawing effect: Evidence for reliable and robust memory benefits in free recall. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 69(9), 1752–1776.
- 本田真美『医師のつくった「頭のよさ」テスト 認知特性から見た6つのパターン』光文社(作中の欄外で紹介)
ガクサン 25冊目 感想・考察
【今回の一番】福山「尊敬しています」――父親の道を初めて歩く谷津さんへ
25冊目でいちばん胸にきたのは、谷津さんに向けた福山の言葉でした。
「谷津さんは父親17年目ではありますが 同時に父親の道を初めて歩いているわけですから」
葵さんの長所をつぶしていたかもしれない、と自分を責める谷津さんに、福山は、つまずいて当然だと言い切ります。そして、人を育てたことのない人間が言えたことではない、とことわったうえで、尊敬しています。
思い出すのは12冊目です。娘に歴史家になってほしかった谷津さんに、福山は、子どもに夢を押しつけるのは……と言いかけていました。あのときは父親の「まちがい」を指摘する側だった福山が、今回は、まちがえながら歩いている父親をまるごと認めている。
21冊目で、谷津さんは福山に「しをり会に来なよ」と声をかけ、福山は「わかりません」「でもありがとうございます」と返しました。10冊目では谷津さんが福山の異動を「自業自得だ」とまで言っていたふたりが、少しずつ歩み寄っている。このやりとりは、その一歩先にあるものだと思います。
谷津さんが「書いて書いて書いた」わけ
谷津さんの過去は、今回いちばん意外でした。医師の兄、東大の姉、期待されていない末っ子。父に関心をもってほしくて、ただひたすら書いた。
「書いて覚える」は、谷津さんにとって勉強法というより、父に認めてもらうための、たったひとつの方法だったのでしょう。だからこそ、動画で勉強する娘を「チャラチャラした勉強法」と否定してしまった。自分がしがみついてきたものを、軽く扱われたように感じたのかもしれません。
そして、期待されなかった自分が、今度は娘に期待と関心を寄せすぎていた。親から受けたものを、形を変えて子どもに返してしまう――谷津さんの「やらせたいことを押しつけていただけ」という言葉には、そんな気づきがにじんでいました。
「ペーパーテストは言語優位に有利」――福山の一言の重さ
福山の説明の中で、おじさんが一番うなったのはここです。
「ペーパーテスト全般が言語優位の人に有利だからでしょう」
「書いて覚えるのが一番」と言われ続けてきたのは、それが誰にとっても一番だからではなく、言葉で答えるテストで点がとれた人の勉強法だから。成功した人の方法が「正解」として語り継がれていく、というのは勉強に限らずよくある話です。
ただ、【ガクサン流】でも紹介したとおり、心理学の研究では「タイプに合わせれば成績が上がる」ことはまだはっきり確かめられていません。おじさんは、福山の話のいちばん大事なところは、タイプ分けそのものより、「自分の覚え方だけが正しい」と決めつけないことにあると思います。
「マニュアルに書いてあるだろ」――福山の物差し
うるしの、福山さんが口で教えてくれないのは言語優位だからでは?という指摘には笑いました。知らん、とそっぽを向く福山(笑)。
でも、これは笑い話だけではありません。17冊目で語られた福山の過去――仕事に大真面目すぎて、自分が真剣だから人にも同じだけ求めてしまった。自分にとって一番わかりやすい形が、相手にとっても一番だと思いこむ。自分の物差しで人を測ってしまうという点で、谷津さんと福山は、実は似ています。
22冊目で、しをりさんも「自分の尺度を桃に押し付けてたのかも」と言っていました。この数話、ガクサンは「勉強法」の話を通して、人とのすれ違いの話をずっと描いているように見えます。うるしの「少しずつ歩み寄れたら」は、その答えなのかもしれません。
ついに気づいた福山――「気づけるわけないんだよ」の先
そしてラスト。うるしの机から落ちた、第四編集部の修正見本、社内公募のお知らせ、校正記号のマニュアル。
24冊目で山崎さんは、福山は気づけていない、気づけるわけがない、と言いました。その福山が、うるしの「少しずつ歩み寄れたら」を思い出して立ち上がった、まさにそのときに気づいてしまう。歩み寄ろうとした一歩目で、知りたくなかったことを知ってしまったようで、なんとも皮肉な場面です。
第四編集部は、小中の参考書をつくる部署(13冊目)。20冊目でしをり会のうるしを意味ありげに見ていた赤城さんが所属する部署です。もしかすると、うるしは赤城さんから見本を借りて勉強していたのかもしれません(ここはおじさんの推測です)。社内公募は19冊目の掲示に出てきたもの、校正記号は13冊目の編集部見学で知った「赤字」の世界。うるしが少しずつ積み重ねてきたものが、一度に福山の前に散らばりました。
17冊目で山崎さんは、福山は編集者にトラウマがあるから、うるしの夢は言わないほうがいい、と忠告していました。編集から外された福山にとって、隣の席の後輩が「編集者になりたい」と思っていたことは、どう映るのか。しゃがみこんだまま動けない福山の背中が、その答えを言わずに語っているのではないでしょうか。
どうなるんだ!?
まとめ
- 福山「誰にとっても『読んで書いて覚えるのが一番』ではない」。人には認知特性(視覚・言語・聴覚優位)がある
- 谷津さんは言語優位(家系図)、葵さんは視覚優位かも
- 「書いて覚える」が一番と言われてきたのは、ペーパーテストが言語優位に有利だから
- 聴覚優位には『世界史年代ワンフレーズ』(ゴロを声に出す)、視覚優位には『現代文読解のテーマとキーワード』(イラスト)
- 谷津さんの過去:期待されない末っ子が「書いて書いて書いた」。福山「父親の道を初めて歩いている」「尊敬しています」
- うるし「少しずつ歩み寄れたら」。福山も「マニュアルに書いてあるだろ」派?
- ラスト、福山がうるしの机の書類から、編集者になりたい気持ちに気づく
25冊目は、勉強法の話が、親子と同僚のすれ違いの話へと広がっていった回でした。うるしの本心を知った福山は、どうするのか。26冊目が待ちきれません!

コメント