モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
37冊目は「うるしと歴史の勉強②」で、単行本4巻の最終話です。36冊目のラスト、うるしの「まだできることあるかもしれません」の続き。面白い本を「渡す」だけでは届かない、と気づいたうるしの一言から、話は歴史総合、そして地政学へ広がります。最後には、ずっと待っていたあの言葉が――。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 37冊目「うるしと歴史の勉強②」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
昼休み、うるしと福山は喫茶店で、川口さんと涙を流す若山先生に出会います。女子高で社会科を教える若山先生の悩みは、日本の勉強なんて意味ない、と言う帰国子女の生徒。せめて日本史に興味を持ってほしい、という相談に、福山は書店へ走り、『やばい日本史』と『世界一おもしろい日本史の授業』を買ってきました。
みんなが満足する中、うるしは中学時代に先生から渡された数学の本を思い出します。好きな人には面白いんだろうけど、と読まなかった本。そしてうるしは、帰ろうとする3人を呼び止めたのでした。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 36話ネタバレ】36冊目|うるしと歴史の勉強①。「日本の勉強なんて意味ない」帰国子女に日本史を――福山が走って買ってきた2冊と、うるしの「まだできることがある」
「文句があるなら最後まで話せ」
言ったものの、会計の声にはっとして、ちょっと思っただけなので、とごまかそうとするうるし。ところが福山はどかっと座り直し、文句があるなら最後まで話せ、と促します。文句じゃないです!と言いながら、うるしは話しはじめました。コーヒーを4つ追加して。
どの本も面白そうで、大人の自分でも興味がわく。でもそれは、勉強を通じて日本史が面白いともう知っているから。日本史に興味のない子に面白いよ、と押しつけても、かえってめんどうになるだけでは、と。
自分はサブカル好きだからわかる、とうるし。興味のない人におすすめを押しつけて結局引かれる、いわゆる「オタクムーブ」です。福山さんがオタクだっていうわけじゃ……オタクですけど、と。
「相手が興味を持てるところから」
うるしの答えはシンプルでした(このセリフは感想で)。その子が好きなのは海外。だから、海外と日本の関わりから入るのがいいのでは。
そこでうるしが挙げたのが、2022年の高校1年生から始まった「歴史総合」。近現代史を、日本と世界の関わりの中で学ぶ科目です(20冊目でも出てきました)。日本史でも、この視点なら興味が持てるのでは――思いつきですけど、と照れるうるし。
福山は、たしかにな、と認めます。押しつけという視点は自分に欠けていた、自分は人の気持ちがわからないらしいからな、と。仕返しですか!?と抗議するうるしと、していない、と言う福山。川口さんは、ご相談係はいい関係ですね、と笑います。
歴史総合は「脱・暗記」
理数系の担当なので歴史総合はよく知らない、という川口さんのために、福山があらためて解説します。
歴史総合は、18世紀以降の世界史と日本史を並べて学ぶ、2022年度から全国の高校で始まった必修科目。これまでは世界史と、日本史・地理からそれぞれ1科目を選ぶ形でしたが、今は「歴史総合」と「地理総合」が必修で、くわしい内容は選択の「探究」科目で学びます。
ただし、近現代の世界史と日本史を単純に合体させたものではありません。「近代化」「大衆化」「グローバル化」という3つのテーマを軸にして、資料を読み解き、問いを立てながら時代背景を考えていく。福山はこれを、歴史の「脱・暗記」と表現しました。
物事を広く深く考える力が求められるので、生徒も先生も大変。でも、現代の世界と地続きで歴史を考えられるのは、その生徒にとっていい切り口だ、と福山。うるしは、ほめられた……と小さく喜びます。
中2なら「地政学」から
ただし問題の生徒は中学2年生。中学の歴史も身についていないなら、高校の内容を先取りするのは難しい。そこで福山が出した答えが、地政学でした。
地政学とは、ひと言でいえば、政治を地理の視点で見る学問。学校の科目ではありませんが、世界と日本を見わたす、という意味で歴史総合の視点と似ているところがある、と福山。
入門に、と出したのが『こども地政学』。日本について、世界との関わりの中でしっかり書かれた本です。世界の中の今の日本に目が向けば、じゃあどうしてこうなったのか、と歴史にも興味が持てるのでは、と。
さらに、地政学的な見方が面白いと感じたら、と『東大教授が教える 日本史の大事なことだけ36の漫画でわかる本』(講談社)も。歴史人物のドラマチックなエピソード集でありながら、ところどころで当時の日本の地理的な力関係を解説してくれるので、日本の地政学的な感覚が身につくそうです。
若山先生の笑顔
思いつきからこんなに話が広がるとは、と照れるうるし。若山先生は、必ずしも学校の科目から入らなくていいんだ、高校の勉強の下準備にもなる、と晴れやかな顔に。これなら上手くいきそうな気がします、と、福山とうるしに頭を下げました。
その笑顔に見とれるうるし。福山は、ショートケーキをひとつ追加。そろそろ会社に戻らないとまずいです!とうるしがあわてて、喫茶店をあとにします。
「新しい視点で頼りがいある存在に」
会社に戻ったうるしは、今日の話もSNSに投稿しよう、とキーボードをたたきます。いっぽう福山は、うるしが出した書類に不備を見つけてため息。
営業部へ書類を届けた福山に、谷津さんが笑いかけます。ついに茅野さんが福山君をあごで使うようになったか、と。最近はしをり会でもいろいろ勉強していて、編集者でも営業でもない新しい視点で頼りになる存在になってくれそうで嬉しい、と言うのでした。最初は大丈夫かと思ったけど、と付け加えて。
「行ってやる」
ご相談係に戻った福山は、うるしの横顔を見ながら、ぽつりとつぶやきます。人は変われるものなのかもしれない、機会があれば、と。
聞き返すうるしに、福山は、いいだろう、と続けます(このセリフは感想で)。目を丸くするうるしで、4巻は幕を閉じます。
【ガクサン流・興味のつなぎ方】「押しつけ」ではなく「つなげる」
37冊目のうるしと福山の助言を、研究とあわせてまとめます。
1. 「自分に関係がある」と思えると学びが変わる
うるしの「相手が興味を持てるところから」は、研究でも裏づけがあります。高校の理科の授業で、学んだ内容が自分の生活にどう役立つかを生徒自身に書かせたところ、特に自信のなかった生徒で、興味と成績が上がったという実験があります(Hulleman & Harackiewicz, 2009)。
先生が「これは役に立つよ」と言うのではなく、生徒が自分でつながりを見つけるのがポイント。今回の生徒なら、好きな海外と日本の関係から入ることが、その「つながり」になります。
2. 押しつけは逆効果になりやすい
本人が選んだと感じられることは、やる気や取り組みを高めることが、たくさんの研究のまとめで示されています(Patall ほか, 2008)。8冊目の「書店はデートの場」、18冊目の「自分で選んだからこそ愛着がわく」と同じ話です。
うるしの言う「オタクムーブ」は、相手の選ぶ余地をなくしてしまう渡し方、とも言えます。
3. 歴史総合のポイント
作中の福山の説明どおり、歴史総合は2018年告示の高校学習指導要領で新しく作られ、2022年度の高校1年生から必修になりました。「近代化」「大衆化」「グローバル化」を軸に、資料を読み解き、問いを立てながら学ぶのが特徴です(文部科学省, 2018)。
20冊目の新課程の解説もあわせてどうぞ。
ぱっと見まとめ:興味のつなぎ方
| 番号 | 名前 | やること | 例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 好きなものを聞く | 相手の興味を先に知る | 海外が好き |
| 2 | つなぐ | 好きなものと学ぶ内容の関係を探す | 海外と日本の関わり=歴史総合・地政学 |
| 3 | 自分で書く | 学ぶ内容が自分にどう役立つかを書き出す | 海外で暮らすとき、日本のことを聞かれたら? |
| 4 | 選ばせる | 何冊か見せて、本人に選んでもらう | 押しつけない |
興味のつなぎ方チェックリスト(37冊目から)
[ ]本を渡す前に、相手の好きなものを聞いた[ ]好きなものと、学んでほしい内容のつながりを探した[ ]学ぶ内容が自分にどう役立つか、本人に考えてもらった[ ]1冊を押しつけず、選べるようにした
参考文献
- Hulleman, C. S., & Harackiewicz, J. M. (2009). Promoting interest and performance in high school science classes. Science, 326(5958), 1410–1412.
- Patall, E. A., Cooper, H., & Robinson, J. C. (2008). The effects of choice on intrinsic motivation and related outcomes: A meta-analysis of research findings. Psychological Bulletin, 134(2), 270–300.
- 文部科学省 (2018). 高等学校学習指導要領(平成30年告示).
ガクサン 37冊目 感想・考察
【今回の一番】「行ってやる しをり会とやらに」
37冊目、そして4巻のラストを飾ったのは、福山のこの一言でした。
「行ってやる しをり会とやらに」
9冊目でしをり会の目的が「福山を呼ぶこと」と明かされてから、ずいぶん長い道のりでした。11冊目のうるしの目標①「福山さんを研究会につれてくる!!」、21冊目の谷津さんの誘い、31冊目の電話、35冊目の「会は考えておく」。
そして決め手になったのは、誰かの説得ではなく、福山自身の「人は変われるもんなのかもな」という気づき。変わっていくうるしを、いちばん近くで見てきた福山だからこその決断です。5巻のしをり会が楽しみでなりません。
「相手が興味を持てるところから繋げないと」
37冊目のテーマを表すのが、うるしのこの言葉です。
「相手が興味を持てるところから繋げないと」
36冊目の福山の2冊は、本としては文句なしでした。でも、うるしが気づいたのは、本の良さより先に、相手が何を好きかを見ること。26冊目で福山に「人の気持ちなんてわからないくせに」と言ったうるしが、今回は、福山に足りなかった視点を、言葉にして補いました。
福山の「押しつけ……その視点は俺には欠けていた」は、そのまま受けとめる素直さが光ります。言い返しの「人の気持ちがわからないらしいからな」まで含めて、ふたりの遠慮のない関係が伝わってきました。川口さんの「いい関係ですね」に、おじさんも同感です。
ご相談係は「ハブ」になった
14冊目で山崎さんは、福山を「ハブ力が高い」と言っていました。社内外の人をつなぐ存在だった、と。
今回、うるしは、川口さんという編集者と、若山先生という学校の先生、そして福山という参考書の専門家の間に立ちました。谷津さんの言う編集者でも営業でもない新しい視点は、まさにハブの役割です。
9冊目で、福山と1対1でうるしは大丈夫なのか、と心配していた谷津さん。その谷津さんが「最初は大丈夫か?と思った」と振り返りながら、うるしを頼りにしている。21冊目で福山をしをり会に誘ったのも谷津さんでした。27冊目で「ご相談係でがんばりたい」と決めたうるしが、5話後にこう評価される。積み重ねが形になった瞬間でした。
「人は変われるもんなのかもな」
福山のつぶやきも、4巻全体を振り返るような重みがありました。
4巻では、うるしは編集者志望をやめて自分の道を見つけ、山崎さんは「ダメでいい」と走る理由を見つけました。福山自身も、30冊目で過去を話し、31冊目で「積み重ねてきたもの」を受け入れた。機会があれば、人は変われる。それは福山が自分に言い聞かせた言葉でもあるのだと思います。
17冊目で、編集者に対するトラウマがある、と山崎さんが話していた福山。そのしをり会に「行ってやる」と言えたこと自体が、福山が変わった証拠です。
4巻を振り返って
4巻(28〜37冊目)は、ハウツー回と人間ドラマが交互に進む巻でした。
- 28冊目: 赤城さんの体験型ドリル
- 29・30冊目: ノートのとり方と、福山の過去
- 31冊目: うるしの答えと、山崎さんの「このままで」
- 32〜35冊目: 山崎さんの恋と仕事、復習講座、電子の参考書
- 36・37冊目: 歴史の勉強と、福山のしをり会参加
最後に、もうひとつ気になるのが山崎さんの宣言。福山がしをり会に来れば、山崎さんとうるしと福山が、同じテーブルにつくことになります。5巻でこの三人がどうなるのか、見逃せません。
まとめ
- 「文句があるなら最後まで話せ」。うるし: 興味のない子に押しつけても引かれる
- 「相手が興味を持てるところから繋げないと」。海外好きの子には、海外と日本の関わりから
- 歴史総合は「近代化」「大衆化」「グローバル化」を軸にした「脱・暗記」の科目
- 中2には地政学から。『こども地政学』と『日本史の大事なことだけ36の漫画でわかる本』
- 若山先生は笑顔に。谷津さんはうるしを「新しい視点で頼りがいある存在」と評価
- 福山「人は変われるもんなのかもな」「行ってやる しをり会とやらに」――5巻へ
37冊目は、うるしが福山に足りない視点を補い、福山がついにしをり会へ向かう決心をした、4巻の締めくくりでした。届けたい相手の「好き」から始める。5巻、しをり会に福山が来る日が待ちきれません!

コメント