モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
38冊目は「うるしと本作りの工夫①」。単行本5巻の1話目です。37冊目のラストで「行ってやる」と言った福山は、すぐにはしをり会に現れません。その間に花山さんが語ったのは、しをり会が生まれたわけ。後半は、川口さんが持ってきた2冊の参考書から、本の「作り」の工夫が次々に明かされます。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 38冊目「うるしと本作りの工夫①」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
帰国子女の生徒に日本史への興味を持ってほしい、という若山先生の相談。福山が選んだ面白い日本史の本に、うるしは、興味のない子に押しつけても届かない、と待ったをかけます。相手が興味を持てるところから、と、海外と日本の関わりを学ぶ歴史総合、そして地政学の本へと話が広がりました。
会社に戻ると、谷津さんはうるしを、編集者でも営業でもない新しい視点で頼りになる存在だ、と評価。それを聞いた福山は、人は変われるものなのかもしれない、とつぶやき、ついにしをり会へ行くと宣言したのでした。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 37話ネタバレ】37冊目|うるしと歴史の勉強②。「相手が興味を持てるところから」――歴史総合と地政学で日本史の入り口を、そして4巻ラスト、福山「行ってやる しをり会とやらに」
「行くとは言ったがすぐとは言ってない」
じゃあ明後日のしをり会から!と喜ぶうるしに、福山は、明後日?急だな、と渋い顔。月に1〜2回、不定期でやっていて、みんな待っていますよ、とうるしが言っても、行くとは言ったがすぐとは言っていない、いろいろ準備というものがある、と譲りません。
ひよっているんですか?とうるしが聞けば、違う、と即答。結局、言い合いのまま当日を迎えます。桃三郎の前でうるしは、本当に偏屈すぎる、とため息をつくのでした。
しをり会前ランチ――会が生まれたわけ
しをり会前のランチで、うるしは、福山さんは普段なんでもグイグイ来るのに、社内の人間関係だけは引っ込み思案だ、とこぼします。いろいろあったから、と花山さん。
山崎さんが何かけしかけたのでは、と赤城さんに疑われ、山崎さんは、素直に誘っただけだよ、とあわてます。うるしは、福山がつぶやいた「人は変われるもんなのかもな」を、実はこっそり聞いていました。心の奥では、変わるきっかけがほしいのかもしれない、と。
そこでうるしは、ずっと気になっていたことを聞きます。しをり会って、どうして始まったんですか?
花山さんの答えはこうです。もともとは、自分が教科を横断した勉強会として、暇そうな人に声をかけたのが始まり(暇て!!と山崎さんと赤城さん)。1年半ほど前、花山さんが副編集長になったころ、たくさんの人が辞めるトラブルがあり、社内が混乱していた。17冊目で語られた、福山が編集部を外された件です。だから、社内で信頼できるつながりを作っておきたかった。
各教科の状況を話し合ううち、売れる本を作らないと会社員としての先がない、という話になり、学参編集者の夢であるロングセラー、できれば教科ごとにシリーズにできる強いタイトルを作ろう、と目標が決まった。けれど学参編集者は教科の専門性が高いぶん、全体を見わたす目に欠けがち。教科を横断できて、市場の目も持っている人が必要――それなら福山君でしょ、となったのだそうです。
花山さんの後悔
他部署の仕事にまで口を出す福山さんには抵抗があったけど、仕事ぶりはすごい、と赤城さん(ちくりと山崎さんへ)。
そして花山さんは、個人的な思いも打ち明けます(このセリフは感想で)。力を借りたいというのがメインだけれど、彼の力になれたらいいとも思っている。こちらが真剣なら、真剣に向き合ってくれる人なのだと、最近わかってきた、と。
それでも私はまだ怖いです、なまけていたら怒られそう、と赤城さん。それは誰でも怒るでしょ、と花山さんは笑います。
1枚ずつ外せる「ルーズリーフ参考書」
そこへ遅れてきた川口さんが、入り口で猫に足をとられてずさーっと転倒。川口さんってちょいちょい萌えキャラだよな、とうるしは心の中でつぶやきます。
川口さんが落とした本は、新企画の製本の参考にと持ってきた『ルーズリーフ参考書 高校 生物基礎』(Gakken)。中身は図版のしっかり入った穴埋め式のまとめノートのような参考書ですが、ページがルーズリーフに印刷されていて、1枚ずつ取り外せるのです。
ふつうの参考書は見開きで1単元のことが多いけれど、これは表と裏で1単元。定期テストの範囲の分だけはがして、自分だけのノートにまとめられる。中学向けもあって人気なのだとか。中高生のルーズリーフへの憧れをうまくついている、と赤城さん。
紙も本物のルーズリーフみたい、と言ううるしに、花山さんは、「みたい」じゃなくて本物、コクヨのキャンパスルーズリーフと同じ紙なのだ、と教えてくれます。はがしやすいのにバラバラにならない糊づけ、本としてカバーで包む新しい製本方法。書店で万一ページがはがれても散らばらないよう、穴にひもまで通してあります。うちの会社でここまで開発にお金をかけられるか、と花山さんは苦笑い。
分厚いのに開きやすい「広開本」
製本といえば、とうるしが思い出したのは、分厚いのに妙に開きやすい他社の数学の参考書。なんと川口さんが、その『NEW ACTION LEGEND 数学I+A』(東京書籍)を持っていました。
川口さんによると、このシリーズは「広開本」という特殊な製本方法。ふつうの無線綴じは、ページの束を糊で背表紙にぴったりつけるので、開くとすぐ閉じようとする。広開本は背表紙との間にすき間を作るので、厚い本でもぱかっと開くのです。分厚い参考書が勉強中にぱたんと閉じて、重しをのせていた中学時代を思い出すうるし。
ほかにも、強い糊で丈夫で開きやすくする「PUR製本」、表紙の紙を薄くして開きやすくする方法もある、と川口さんと山崎さん。
パーツが多い本は「使う」本
この本は、ほかにもいろいろついていましたよね、とうるし。開けた瞬間に、帯、バーコードの紙、シュリンク、そして本の中にもう1冊の例題集……とパーツがぽろぽろ。
数学は解説をしっかり読む必要があるので、解説編が別冊になることが多い。このシリーズは解説がていねいで、解答編が本編とほぼ同じ厚み。本編には数学の勉強のしかたまで書かれ、まず自分の力で解いてみるための例題集もついている。別冊を糊づけした本ははがすのに失敗しがちなので、シュリンクで包んで対応しているのだそうです。
うるしは、使う本だからこその工夫なんですね、参考書って本当に使う人に優しく作られている、と感激。紙文具が好きでテンションが上がった、こういう書きこみやすい紙がいちばんなんじゃないですか、と言うと――。
花山さんが、実はそんなことはないのよ、と立ち上がります。紙選びはせめぎあい、いわば群雄割拠(このあとのセリフは感想で)。どこに!?と驚くうるしに、花山さんは、お会計で! 39冊目へ続きます。
【参考書の作りを知る】製本と紙で選ぶ、使いやすい一冊
38冊目にはハウツーの相談はありませんでしたが、参考書の「作り」について、作中の話をもとにまとめます。
1. 「開きやすさ」は勉強のしやすさ
作中で紹介された製本方法は3つ。
- 広開本: 背表紙との間にすき間を作り、厚い本でもよく開く
- PUR製本: 強い糊(PUR)を使い、丈夫で開きやすい
- 表紙の紙を薄くする: 硬さをおさえて開きやすくする
本がぱたんと閉じると、そのたびに手が止まります。書きこみながら使う参考書ほど、開いたままにできるかは大事なポイント。店頭では、真ん中あたりを開いて、手を離しても閉じないかを確かめてみるのがおすすめです。
2. 別冊・ブックインブックは「使い方の設計」
NEW ACTION LEGENDの本編・解答編・例題集のように、別冊がついている本は、それぞれに役割があります。
2冊目で福山は、「はじめに」に本の意図が書いてある、と言っていました。別冊がある本は、どれをどの順で使うのかを、まず「はじめに」や「学習の方法」で確かめましょう。例題集を「解説を見ずに解く」ために使う、というのは、29冊目の「マル付けした後が学習の本体」とも重なります。
3. 書いて覚える効果
ルーズリーフ参考書は、穴埋め式で書きこんで使う本。黙って読むより、声に出すなど自分で「作り出した」言葉のほうが記憶に残りやすい、という発話効果が知られています(MacLeod ほか, 2010。25冊目でも紹介)。手を動かして答えを書きこむのも、ただ眺めるよりは覚える助けになりやすいと考えられます。
また、穴埋めは「思い出す練習」にもなります。34冊目で紹介したテスト効果(Rowland, 2014)のとおり、覚えたつもりの用語を自分で埋めることが、何よりの復習になります。
ぱっと見まとめ:参考書の「作り」の見方
| 番号 | 名前 | 見るところ | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 開きやすさ | 真ん中を開いて手を離す | 閉じない本は書きこみやすい |
| 2 | 別冊 | 解答編・例題集の役割 | 「はじめに」で使う順番を確かめる |
| 3 | 紙 | 書きこみやすさ・裏うつり | 39冊目でくわしく |
| 4 | 形 | ルーズリーフ・穴埋めなど | 自分のノート作りに合うか |
参考書の「作り」チェックリスト(38冊目から)
[ ]店頭で本の真ん中を開き、手を離しても閉じないか確かめた[ ]別冊がある本は、どれをどの順で使うか確かめた[ ]例題集は、解説を見ずにまず自分で解いた[ ]穴埋めは、答えを見る前に自分で思い出して書いた
参考文献
- MacLeod, C. M., Gopie, N., Hourihan, K. L., Neary, K. R., & Ozubko, J. D. (2010). The production effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(3), 671–685.
- Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432–1463.
ガクサン 38冊目 感想・考察
【今回の一番】花山さんの後悔――「彼の力になれたら」
38冊目でいちばん心に残ったのは、桃三郎で花山さんが静かに語った後悔でした。
トラブルのとき、状況がわからなくて福山を助けられなかった。だから、力を借りたいのがメインだけれど、彼の力になれたらいいとも思っている――。
9冊目で、しをり会の目的のひとつは「福山を呼ぶこと」だと明かされました。でもそれは、単に福山のノウハウがほしいからではなかった。助けられなかった同僚への、1年半越しの償いでもあったのです。17冊目で山崎さんが語った、福山が「すべて悪者」にされた経緯を、花山さんも近くで見ていたのでしょう。
そして花山さんは、こちらが真剣なら真剣に向き合ってくれる人だ、と最近わかってきた、と言います。22・23冊目で、鷺沼桃さんとのことで福山に厳しくも誠実な助言をもらった花山さん。その経験が、この言葉につながっているように思えます。
しをり会は「福山のための場所」でもあった
花山さんが副編集長になったころ、社内が混乱していた。だから信頼できるつながりを作りたかった。
しをり会は、ロングセラーを作るための勉強会であると同時に、バラバラになりかけた社内を、もう一度つなぎ直す場所だったのですね。教科を横断する勉強会、というのも、各編集部が孤立しないための仕組みに見えます。
その場所に、いちばん孤立していた福山を呼ぶ。山崎さんの「これからの定番シリーズ」(35冊目)、花山さんの「彼の力に」。メンバーそれぞれの理由が重なって、福山の席が用意されていたわけです。
「行くとは言ったがすぐとは言ってない」
それにしても、37冊目のラストであれほどかっこよく「行ってやる」と言った福山が、まさかの先延ばし。
35冊目で、福山は山崎さんに「心の準備もいる」と言っていました。うるしの言う「社内の人間関係だけは引っ込み思案」は、17冊目の過去を思えば当然のこと。参考書のことなら書店に走るのに、人のこととなると足がすくむ。福山の不器用さが、笑いながらも少し切ない場面でした。
「使う」本だからこその工夫
後半の製本の話で、うるしが言った「参考書って本当に使う人に優しく作られている」。
14冊目で、うるしは「参考書は、編集者の愛のかたまり」と投稿しました。赤城さんの「まさに愛のかたまりですね」は、その言葉を受けたもの。38冊目では、その「愛」が、中身だけでなく紙や糊やひも一本にまでこめられていることがわかりました。
書店で万一ページがはがれても散らばらないように通したひも。はがすのに失敗しないためのシュリンク。読者は気づかないかもしれない工夫だからこそ、知ると参考書を見る目が変わります。
「最強の紙を求めて」
そして最後は、花山さんの宣言。
「最強の紙を求めて 行くわよ!!」
書きこみやすい紙がいちばんでは、と言ううるしに、花山さんは、紙選びはせめぎあい、と甲冑姿(のイメージ)で立ち上がります。英語の参考書を作る花山さんには、紙に強いこだわりがありそう。辞書のような薄い紙、裏うつりしない紙、軽い紙……。39冊目は、参考書の紙の世界が描かれそうです。
福山はまだしをり会に来ていません。紙の話と、福山の初参加。39冊目が楽しみです。
まとめ
- 福山「行くとは言ったがすぐとは言ってない」。しをり会初参加はおあずけ
- しをり会は1年半前、副編集長になった花山が、社内の混乱の中で信頼できるつながりを作ろうと始めた
- 目標はロングセラー、教科を横断できて市場の目を持つ福山の力が必要
- 花山: トラブルのとき福山を助けられなかった後悔。「彼の力になれたら」
- 川口の『ルーズリーフ参考書 高校 生物基礎』: ルーズリーフに印刷され、1枚ずつ外せる
- 『NEW ACTION LEGEND 数学I+A』: 分厚くても開く「広開本」、解答編・例題集のパーツ
- 花山「最強の紙を求めて 行くわよ!!」――39冊目へ
38冊目は、しをり会の成り立ちと、参考書の「作り」の工夫がわかる5巻の幕開けでした。参考書の愛は、紙一枚、ひも一本にまで。花山さんが求める「最強の紙」とは。39冊目が待ちきれません!

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