【盤上のオリオン 111話ネタバレ】「お前は俺の夢や」――千歳朔の鼻っ柱を折った二面指し

盤上のオリオン

週刊少年マガジン掲載の漫画 盤上のオリオン最新話の感想、考察をお届け。

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盤上のオリオン 第111話 最新話 あらすじ(ネタバレ注意)

前回までのあらすじ

佳澄碧が女性初の棋士になり、残る昇段枠はひとつ。

第17戦は二宮が七尾に勝ち、2敗どうしの二宮夕飛と市川周鳳が、最終の第18戦で向かい合いました。

勝ったほうが棋士になる一局が、いよいよはじまっています。

前回の記事はこちら【盤上のオリオン 第110話】

今回のあらすじ

描かれるのは、市川に将棋を教えた友達・朔が、東京の将棋会館を訪れた日の回想です。

ここで朔のフルネームが千歳朔(ちとせ さく)だと明かされます。

朔の相手は、明らかに年下の少年・久慈彼方。

久慈は、いまネット将棋の「将バト」で対局中なので同時でいいかと、指導対局のような二面指しを持ちかけてきました。

一方、現在の第18戦。

二宮が組み上げた菊水矢倉を前に、市川は足場はできつつあるのに暗い海の底へ落ちていくような、盤面に飲みこまれる感覚に襲われます。

市川は眠い手を指している場合ではないと自分を叱り、「行くで 朔」と踏みこみました。

ふたたび回想。

久慈はほとんど盤面を見ず、ノータイムで急所を突いてきます。

長考したかと思えば、それはもう一方のアプリの対局のためでした。

朔は完敗。ところが次の瞬間、久慈がボロボロと泣き出します。

アプリの対局で負けたのです。

将棋会館の事務員は、久慈を「八冠をとる男の子」と呼び、アプリの相手はたぶん東京の奨励会の子だろうと言いました。

心が折れた朔は、無理だと思ってしまったら人間おしまいだ、とつぶやきます。

そして場面は中学の教室へ。

朔は市川に告げます。

「お前は俺の夢や 勝ってや周鳳 勝って棋士になってや」

▶ 次の話(112話)はこちら → 【盤上のオリオン 112話ネタバレ】「お前の仇は俺が討つ」――泣きながら笑った朔と、「あなたの相手は彼方じゃない」

盤上のオリオン 第111話 X(旧Twitter)での反応

盤上のオリオン 第111話 感想・考察・まとめ

千歳朔――明かされた名前と、あまりに残酷な出会い方

109話から気になっていた朔のフルネームが、ついに「千歳朔」と明かされました。

注目したいのは、朔が先にきちんと名乗っていることです。

一方の久慈は、名乗るより先に二面指しの許可を求め、遅れて自己紹介する始末。

朔の心の中には、年下なのに自分ともう1人と同時に指すつもりか、棋士の指導対局のように、という思いがよぎります。

この「指導対局のように」というひと言が、朔の誇りを静かに削っています。

関西の研修会に通い、弟子入りもして、少しは自信があって東京の扉をたたいた少年が、年下の子に「ついでに指す相手」として扱われている。

久慈に悪意はありません。それがよけいにきついのです。

「待って!!今考えてるから」――長考は朔のためではなかった

対局の描写は、今回いちばん残酷で、いちばんうまいところでした。

久慈は盤面を一瞥しただけで、ノータイムで急所を突いてきます。

ようやく長考したかと思えば、修羅の形相で「待って、今考えてるから」。

朔は心の中で、俺の対局も考えてほしい、とつぶやきます。

久慈が長考していたのは、朔の盤ではなかったのです。

そしてなんでもない顔で朔の盤に手をのばし、決着させてしまう。

人生をかけた腕試しが、相手の「片手」で終わった。

これほどていねいに心を折る描写を、久しぶりに読みました。

号泣する天才と「八冠をとる男の子」

そして今回いちばんの一コマが、久慈の号泣です。

自分は完敗させられた側なのに、目の前で相手が泣いている。

朔はあわてて、将バトで負けたみたいだ、僕が泣かせたんじゃない、と事務員に弁明します。

夢を折られた直後に、年下の子を泣かせた疑いを晴らそうと焦っている――ここに朔の人柄が全部出ています。

110話で市川に「指しているときは隣にいるから」と言っていた、あのやさしさと同じものです。

そして事務員が、なんでもないことのように爆弾を落とします。

「八冠をとれるかもしれない」ではなく、「八冠をとる男の子」と言い切ったのです。

いちばん多くの才能を見てきた人の断定です。

千葉省吾が茅森月に8冠の話をしたとき、二宮が「8冠をとるのは久慈彼方だ」と訂正していたのを思い出します。

この物語の中で、久慈の八冠は「予言」ではなく既定のこととして扱われているのです。

【考察】久慈彼方を泣かせたのは誰だったのか

事務員の言葉には、とんでもない情報が含まれていました。

久慈が修羅の形相で長考し、負けて号泣したアプリの相手は、野良の相手ではなく、東京の奨励会の誰かだというのです。

ここで思い出すのが、89〜91話で生方橙和が追いかけていた「電脳棋界四天王」。

ムーンライト(久慈彼方)、タケノコ(二宮夕飛)、キノコ(鞍馬清太郎)、ノベンバー11(佳澄碧)の4人です。

「東京の奨励会の子」に当てはまるのはこの中の誰か。

おじさんは、タケノコこと二宮夕飛がいちばん有力だと考えました。

久慈が物語を通してこだわり続けているのは夕飛ですし、106話で壱岐が語った「4人の神童」の時間軸とも合います。

(追記:この予想は、113話で答え合わせがありました。くわしくは113話の記事で。)

もしそうなら、この場面は二重の構造になります。

朔が「化け物」として絶望した相手は、そのとき別の化け物に泣かされていた。

朔が見上げた壁の向こうに、もう1枚の壁があった。

そしていま、その2枚目の壁が、朔の夢を託された市川の正面に座っているのです。

「無理って思ったら人間おしまい」――折れる音

朔が去りぎわにもらした言葉が、今回いちばん静かに刺さりました。

東にはこんな化け物がごろごろいるのか、自分には無理だ、ぽっきり心が折れた――。

そして、無理と思ってしまったら人間おしまいだ、と自分で自分の終わりを告げるのです。

ここがうまいのは、朔はたった一局しか負けていないという点です。

リーグで落ちたわけでも、年齢制限で去ったわけでもない。

たった一局、しかも相手の片手だけで、夢が終わった。

100話の天戸の「屍の上に立つ棋士たち」、木佐貫の「喜んで踏み台になろう」、狩房あやめの「カラッポやねん」。

この作品はずっと、去る者の姿を描いてきました。

朔は、その中でもいちばん早く、いちばん静かに折られた人です。

【将棋用語】菊水矢倉――「王が遠い」しゃがむ囲い

回想と並行して進む現在の対局にもふれておきます。

市川の心の中に出てくる菊水矢倉(きくすいやぐら)は、実在する囲いです。

  • どんな囲い?: 居飛車どうしの戦いで使われる矢倉の変化形。玉を一段目まで下げ、左の桂馬を跳ねて組みます。
  • 強み: 玉が低い位置にあるので、上や斜めからの攻めに強く、成り駒を作られても王手がかかりにくい。その低い構えから「しゃがみ矢倉」とも呼ばれます。市川が「王が遠い」と感じたのは、まさにこの形のことです。
  • 性格: ただ守りきるための囲いではなく、相手の攻めを手抜きできる場面を増やして、攻め合いで勝つための囲いだとされています。

つまり二宮は、固く守るためではなく、殴り合って勝つためにこの形を選んでいるのです。

110話の4手目3三角・カメレオン戦法で相手の研究を外し、攻め合い前提の囲いへ。流れが一貫しています。

106話で木佐貫が生方に言った「より高く飛ぶためには、より深くしゃがまなければならない」という言葉を思い出さないでしょうか。

しゃがみ矢倉。二宮夕飛はいま、いちばん深くしゃがんでいるのです。

市川が暗い海の底へ落ちていくように感じたのも当然でした。

【今回の一番】「お前は俺の夢や」と「行くで、朔」

そして今回のラストです。

棋士はお前の夢だったろう、と問う市川に、朔は、久慈は自分の夢をすっぱり断ち切ってくれた、と答えます。

恨みではなく、感謝の形で「断ち切ってくれた」と言うのです。

朔は、凡人として将棋を楽しむことにした。

でも市川は違う。久慈彼方に負けない才能がある。

自分の夢は無理だったけれど、代わりに「寝ぼけ眼の違う夢」が目の前に現れた――。

「お前は俺の夢や」

「寝ぼけ眼の違う夢」とは、110話冒頭の教室で、駒音に目を覚まして「しょう…ぎ」とつぶやいた少年のことです。

朔にとってあの瞬間は、折れた夢の代わりに新しい夢が歩いてきた瞬間でした。

109話の「俺がなれなかった棋士に」も、110話の「お前みたいな天才が棋士になるんや」も、すべてこのひと言に集まっていきます。

そして現在の対局で、市川は隣にいない朔に名前で呼びかけながら盤に踏みこみました。

「指しているときは隣にいる」と言ってくれた友人は、いまこの部屋にはいません。

それでも市川は「行くで、朔」と声をかける。

105話で佳澄碧が「この一手はみんなの一手」と指したのと同じ形です。

この作品の一手は、いつも1人では指されない。

まとめ——折られた夢の重さで、盤が沈む

111話は、対局そのものはほとんど進まないのに、読後の重さが格別な回でした。

わかったことを整理しておきます。

  • 朔のフルネームは千歳朔
  • 朔を折ったのは、久慈彼方の「二面指しのついで」の一局だった
  • そのとき久慈は、東京の奨励会の誰かに負けて号泣していた
  • 事務員は久慈を「八冠をとる男の子」と言い切った
  • 朔は、折れた夢の代わりに市川周鳳を「俺の夢」と呼んだ

二宮には茅森月の「棋士になって私を待ってて」が、市川には千歳朔の「お前は俺の夢や」がある。

どちらも、他人の人生を預かった手つきで駒を持っています。

しゃがんで攻め合いを待つ菊水矢倉と、暗い海の底に落ちながらも踏みこんだ市川。

ここから先は、託された者どうしの殴り合いです。

来週が待ちきれません!!

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