モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
17冊目は「うるしと福山の過去」。16冊目のラストで山崎さんが「いい加減話さなきゃね」と切り出した、福山が編集部を離れた理由がついに明かされます。結論は「パワハラ」――ただし、「…ということになってる」。2巻の最終話です。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。17冊目は2巻に入っています。
ガクサン 17冊目「うるしと福山の過去」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
見栄を張った受験生に、福山は「やる気は出すものではない」「できるだけ独学はしないほうがいい」と答えます。同じく見栄を張っていたうるしは、高校の友達レナに謝り、「編集者」という将来を考えはじめました。
町中華「桃三郎」で、うるしは山崎さんに、福山は編集者のころ何があったのかと聞きます。山崎さんは、いい加減話さなければと口を開きました。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 16話ネタバレ】16冊目|うるし、将来を考える。「やる気は『出すもの』ではない」――見栄の告白、TOEICの単語帳、そして山崎が語りはじめる「福山の過去」
結論は「パワハラ」……ということになっている
あれだけ参考書に熱意があるのに、なぜ編集者をやめ、ひとりでお客様ご相談係にいるのか。山崎さんは、まわりに社員がいないのを確かめてから、結論から話します。
「『パワハラ』――」
福山はあの態度のせいで、編集部から異動させられた。……ということになっている、と。
うるしは、パワハラのほうには驚きません。今もパワハラ気味だから、と(笑)。最近は、直球なだけで悪意がないのがわかってきた、とも言います。
山崎さんは、悪意がないのは本当にその通りで、でもそれがいちばんたちが悪いのだとつぶやきます。
1年半前、高校国語編集部で
話は1年半前にさかのぼります。福山は山崎さんと同じ高校国語編集部にいました。
読者の気持ちに寄りそった誌面作り。担当科目にかぎらない参考書への造詣の深さ。労力を惜しまない熱意。あの性格でも、著者や書店には信頼されていた。担当した『リーチ現代文』には、6刷を祝うポップが並びます。
福山は理想の参考書を追い求めていた。でも、それをほかの編集者にも求めようとしたのです。
後輩の女性編集者の原稿に、福山は、この章はページを割くべきだ、中途半端な解説で終わっていて混乱を招く、と指摘します。レイアウトが済んでいるから面倒、著者や権利元への再確認が面倒――言い返そうとする後輩の気持ちを先回りして並べたうえで、
「そういう類いの怠慢が参考書の質を下げる ひいては読者の人生に響く」
会議室F、「完璧な参考書なんてどこにもない」
数日後、福山は会議室Fに呼ばれます。後輩は休職し、福山から強い言葉で叱責されるパワハラを受けた、と訴えていました。
編集長は、後輩をやりこめたのか、前々から態度がきつすぎる、完璧な参考書なんてどこにもない、最悪、増刷のときに改訂すればいい、と福山を責めます。
福山の答えは、間違ったことは言っていないと思う。編集長は、その態度でいいと思っているのかと冷たく返しました。
編集長の退職と、お客様ご相談係ができたわけ
結局、その後輩は会社を辞めました。ところが、編集長も辞めてしまいます。うわさでは、編集長とその後輩は恋愛関係にあったとか。
編集長はほかの編集部からも数人を引き抜いて、編集プロダクション(編集を専門にしている会社)を作りました。山崎さんいわく、計画はもともとあったのだろう、と。
社内は大混乱。参考書には「この編集者でないと仕事をしたくない」という著者もいるので、いぶき社は著者への窓口も大きく失いました。そして、編集長が福山のパワハラを言いふらしたせいで、混乱はすべて福山の態度のせいという雰囲気に。
それでも上層部は、ヒットメーカーの福山を他社に取られたくない。編集から一度切り離して、何か仕事を与えておきたい――。
そのために「お客様ご相談係」を作ったのでした。
福山は「編集者に対してトラウマがある」
あの一件で福山はさらにかたくなになり、一度来た派遣の人もうまくいかず(マニュアルに残っていた「早く辞めたい」はこれだったのですね)。パワハラ研修も受けさせられたはず、と聞いて、うるしはあれで? と目を丸くします。
山崎さんは言います。本人は威圧したいわけではなく、ただ仕事に大真面目すぎるだけだから、何が悪いのかわからないのだろう、と。
福山は社内、とくに編集者に対してトラウマがある。
だから、うるしが編集者になりたいと言い出したら、関係が悪くなるだけかもしれない。本気というわけではなく、夢中になれるものが見つかるかと思っただけ、と打ち明けるうるし。山崎さんは、それならよけい言わないほうがいい、正直うるしちゃんは……と言いかけて、口をつぐみます。
山崎の「色のある本」
店を出ると、山崎さんは、編集者になるのをやめろと言っているわけではない、とフォローします。そして、うるしはミーハーだろう、自分にもそういうところがある、と。
もう少し色のある本を作りたいと思ってしまうこともある、と山崎さんは打ち明けます。
学参の出版社でも、一般書籍を作ることがある。たとえば歴史に強い出版社が、大人向けに学び直しの本や古地図で散歩する本を出したり。面白そう、そういう本が作れたら楽しいだろう、と目を輝かせるうるしを、山崎さんは黙って見ていました。
「いぶき社の本に感謝です」
ご相談係に戻ると、福山は前回分の甘いものがまだだと催促(笑)。うるしは、なんだか損をした気分です。
そこへ届いたメッセージ。
以前教えてもらった参考書で苦手意識がなくなってきた、いぶき社の本に感謝――。
よかった、と言いかけたうるしは、ふと思います。もし自分がこの本の編集者だったら、もっとうれしいのだろうか。
帰り道。福山には言えないけれど、やっぱり憧れてしまうのは仕方ない。そこへ姉のあかねから電話が。今度の連休はひまか、だったら帰ってきてほしい――。3巻へ続きます。
【ガクサン流・正論の伝え方】福山の「正しい指摘」は、なぜ届かなかったのか
17冊目の福山は、内容としては間違っていません。「中途半端な解説は読者を混乱させる」は、参考書作りとしては正論です。それでも後輩は休職し、福山は「パワハラ」とされました。
正しいことを、どう伝えれば届くのか。勉強や部活で、友達や後輩に教えるときにも役立つ研究を2つ紹介します。
1. 指摘の矛先が「人」に向くと、逆効果になりやすい
フィードバック(指摘や評価)が成績にどう影響するかを調べた研究をまとめた分析では、フィードバックは平均すると成績を上げるものの、3分の1以上のケースでは逆に成績を下げていたことがわかりました。下がりやすいのは、指摘が「課題」ではなく「その人自身」に向かってしまったときです。(Kluger & DeNisi, 1996)
福山の「この章はページを割いたほうがいい」は課題への指摘。でも「そういう類いの怠慢が」は、後輩という「人」への評価に聞こえてしまいます。同じ内容でも、主語を「この原稿」にするか「君」にするかで、届き方が変わるのです。
2. 「言っても大丈夫」と思える場が、チームを伸ばす
チームの学習について調べた研究では、メンバーが「ここでは失敗や質問をしても責められない」と感じている(心理的安全性が高い)チームほど、意見を出しあい、ミスから学ぶ行動が多かったと報告されています。(Edmondson, 1999)
編集長の「最悪増刷時に改訂すりゃいい」は、質へのこだわりを下げる言葉です。一方、福山のやり方は、こだわりは高いけれど「言っても大丈夫」な空気がない。高い基準と、言っても大丈夫な空気。その両方があって、はじめてチームは伸びる――福山と編集長は、それぞれ片方しか持っていなかったのかもしれません。
勉強に使うなら
- 友達のノートや答案に意見を言うときは、主語を「このページ」「この解き方」にする
- 「ここが違う」の前に、「ここはわかりやすい」を1つ言う
- 自分が指摘されたときは、「自分がダメ」ではなく「この答案のここを直す」と受け取る
- 質問しやすい相手・場所(先生・勉強アカ・友達)を、1つは持っておく
ぱっと見まとめ:正論が届く伝え方
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 課題に向ける | 「君は」ではなく「この原稿は」「この答案は」で話す |
| 2 | 具体的に | どこを、どう直せばいいかまで伝える |
| 3 | よい点も言う | 直す点だけでなく、よかった点も1つ伝える |
| 4 | 言える場を作る | 相手が質問や反論をしても大丈夫な空気を作る |
正論が届くかチェックリスト(17冊目から)
[ ]指摘の主語が「人」ではなく「もの・こと」になっている[ ]直し方まで具体的に言えている[ ]よかった点を1つ以上伝えた[ ]相手の言い分を、最後まで聞いた[ ]自分が指摘されたとき、「自分」ではなく「答案」の話として受け取れた
参考文献
- Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996). The effects of feedback interventions on performance: A historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory. Psychological Bulletin, 119(2), 254–284.
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
【出版社のしくみ】編集プロダクションと「学び直し本」
17冊目には、出版業界の言葉が2つ出てきました。
編集プロダクション(編プロ)は、作中で山崎さんが言うとおり「編集を専門にしている会社」です。出版社から仕事を受けて、企画・原稿の整理・校正・レイアウトなどを担当します。参考書の世界では著者と編集者のつながりが強いので、編集者が独立すると、著者ごと仕事が移ってしまうことも。いぶき社の「大混乱」は、そういうことなんですね。
もうひとつは、学参出版社の一般書籍。山崎さんの「色のある本」です。作中で例に挙がったのは、歴史に強い山川出版社。高校の教科書や問題集で知られる出版社ですが、大人向けの「学び直し本」や「古地図で散歩する本」も出しています。
【今回のガクサン】山川出版社の4冊
作中の「今回のガクサン」欄に載っていたのは、すべて山川出版社の本でした。
- 『詳説日本史』…高校日本史の定番教科書(作中は「改訂版 日B309」)
- 『山川 一問一答日本史』…山崎いわく「歴史といえば!」の定番問題集
- 『新 もういちど読む山川日本史』…教科書を大人向けに読みなおす「学び直し本」
- 『古地図と地形図で発見! 江戸・東京古道を歩く』(荻窪圭)…古地図を片手に東京の古道を歩く本
※『詳説日本史 改訂版 日B309』は旧課程の教科書です。いまの高校生は新課程の教科書を確認してください。
ガクサン 17冊目 感想・考察
【今回の一番】「そういう類いの怠慢が参考書の質を下げる」
17冊目の一番は、回想の福山のこの言葉です。
言い方はきつい。後輩が休職してしまったのも事実です。でもおじさんは、この言葉そのものは福山の参考書への愛そのものだと思いました。
6冊目の「それでも希望はあった、それが参考書だ」。お金も塾もない受験生にとって、参考書は人生を変える1冊になりうる。だから「中途半端な解説」は、福山にとって「読者の人生」の問題なのです。
正しさと愛があったのに、伝え方だけが壊滅的だった。それが福山の過去でした。
【考察】「……ということになっている」の意味
17冊目でいちばんうまいと思ったのは、山崎さんの「ということになっている」という言い方です。
福山の態度に問題があったのは本当。後輩が休職したのも本当。でも、編集長の退職と引き抜き、恋愛関係のうわさ、「すべて福山のせい」という空気――福山ひとりが悪者にされた部分もある。
山崎さんは、福山をかばいすぎず、責めすぎず、事実を並べました。
10冊目の谷津さんの「自業自得」と、山崎さんの「賛否両論」。どちらも半分ずつ正しかったのです。
これまでの伏線が一気につながった
17冊目で、これまでの伏線が一気につながりました。
- 3冊目:ご相談係は「不要な業務だと思われている」→ 福山を手放さないために作られた部署だった
- 13冊目:「編集には関わらないほうがいい」「自分にもうまくやれない原因がある」→ 自分の態度が原因だと、本人もわかっている
- 14冊目:赤城さんの「トラブルメーカー」「自分が真剣だから人にも求める」→ 山崎さんの「仕事に大真面目すぎる」と同じ
- 15冊目:「編集外された」→ 自分から離れたのではなく、外された
そして山崎さんの福山は社内、とくに編集者に対してトラウマがあるという言葉。しをり会への誘いを断るのも、うるしが編集者をめざすのを言わないほうがいいのも、全部ここにつながっていました。
山崎の言いかけた言葉
気になるのは、山崎さんが言いかけてやめた「正直うるしちゃんって……」の続きです。
向いていないと思う、なのか、それとも福山に似ている、なのか。16冊目のうるしは、隣の席の人に単語帳の話を一気にしゃべって「ヤバいときの福山」のようでした。好きなことに夢中になると、まわりが見えなくなる。山崎さんは、うるしが「第二の福山」になるのを心配したのかもしれません。
そして「うるしはミーハー」「自分もそう」「もう少し色のある本を作りたい」。15冊目の「いちばんうらやましくて悔しい」、16冊目の「勝ち目がない」。山崎さんは、福山のように参考書一本では生きられない自分を、うるしに重ねているように見えます。
「もし自分がこの本の編集者だったら」
ラストのお礼のメッセージは、2巻の締めくくりにぴったりでした。
ご相談係の仕事は、読者の「ありがとう」をいちばん近くで受け取れる仕事。うるしはそれを素直に喜びながら、「この本を作った人」になりたいと思いはじめています。
福山は、そのうるしを黙って見ていました。心を読まれていないかと焦るうるしですが、おじさんは、福山はたぶん気づいているのではないかと思います。
ご相談係という部署も、うるしの「憧れ」も、福山にとっては、自分が失った「編集」とつながっているのですから。
まとめ
- 福山が編集部を離れた理由は「パワハラ」……ということになっている
- 1年半前、高校国語編集部のヒットメーカーだった福山は、後輩に「怠慢が参考書の質を下げる」と強く指摘。後輩は休職し、のちに退職
- 編集長も退職し、編集部の数人を引き抜いて編集プロダクションを作った(後輩との恋愛関係のうわさも)
- 社内の混乱は「すべて福山のせい」という空気に。上層部は福山を手放さないため、編集から切り離して「お客様ご相談係」を作った
- 福山は社内、とくに編集者に対してトラウマがある。だから、うるしの「編集者になりたい」は福山には言わないほうがいい
- 山崎「もう少し色のある本を作りたい」。学参出版社の一般書籍(学び直しの本・古地図の本)
- 読者からのお礼に、うるしは「もし自分がこの本の編集者だったら」と考える。姉あかねから帰省の誘い
2巻はここで終わり。福山の過去を知ったうるしが、それでも編集者をめざすのか。そして連休の帰省で何が待っているのか。3巻からの18冊目が待ちきれません!
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。

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