モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
35冊目は「うるしと電子の参考書」。しをり会のテーマは、参考書のデジタル化です。今どきの子は電子で勉強しているはず、と思ったうるしに、意外な答えが返ってきます。そして後半、ついに山崎さんが福山に、しをり会へ来てほしい本当の理由を話します。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
ガクサン 35冊目「うるしと電子の参考書」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
福山の予習復習講座は、復習の正解は「毎日」という答えで締めくくられました。小テストを味方につけ、レベル別の参考書を小テスト代わりに使う。
その夜、沈んでいた山崎さんは、赤城さんと桃三郎でサシ飲み。自分は思っていた以上にダメなやつかも、とこぼす山崎さんに、赤城さんはダメで結構、と言い放ちました。山崎さんは、やっぱりうるしちゃんのことが好きなのかも、とつぶやいて寝落ち。赤城さんは、そんなダメな先輩をちょっとかわいいと思ってしまうのでした。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 34話ネタバレ】34冊目|うるしと予習復習②。復習の正解は「毎日」、小テストを味方に――桃三郎で山崎が赤城に本音「やっぱり好きなのかも」
しをり会、テーマは「電子の参考書」
しをり会では、赤城さんが電子書籍の売れ行きについて発表中。数字は右肩上がりなのだそうです。
聞きながら山崎さんは、この間は赤城さんに迷惑をかけた、とちょっと反省。あの夜は終電を逃し、タクシーに押しこまれたようです。あとで謝ったものの、いろいろ話しすぎた、と。それでも、少し元気が出たかも、と感じています。
赤城さんによると、9冊目に出てきた他社の英文法の本の電子版が、少し売れているのだとか。きっかけは、大人の学び直し向けの本としてインフルエンサーが紹介したこと。
紙派か電子派かと聞かれたうるしは、圧倒的に紙派。書店に行くのも、本がモノとしてそこにある感じも好きなのです。谷津さんも、仕事ではタブレットを使うけれど、読書は紙派だと笑います。
電子の参考書は「人気がない」
でも、今どきの子はデジタル端末に慣れているから、参考書も電子のほうが売れているのでは? うるしのこの一言に、花山さんは頭を抱えます。実は、電子の参考書はあまり人気がない。特にいぶき社は、と。
山崎さんの説明では、紙の紙面をそのまま電子にした本は、大人が調べもの用に買うことはあっても、子どもはあまり買わない。ハードルはふたつあって、ひとつは、おこづかいが現金なのでカード払いができないこと。もうひとつは、読むのはいいとしても、書きこむのがまだ不自由なことです。
うるしは、単語のテストができるアプリや、音声が聞けるサイトなど、デジタルの付録ならあるのに、と考えます。でもそれは、参考書そのものの形ではない。
売れないのは「参考書」、需要があるのは「中身」
ここで花山さんが、大事なことを言います(このセリフは感想で)。
例に挙がったのが、旺文社の学校・塾向けサービス「タンゴスタ!」。先生が英単語の小テストを、生徒ひとりひとりの端末に配信できる仕組みです。生徒は学習を進め、先生には進み具合のレポートが届く。今は生徒がみんな端末を持っていて、授業でも宿題でも使うのだそうです。小テストってプリントじゃないんですか!?と、うるしはびっくり。
花山さんによると、紙の参考書を作るときに、問題や答え、音声などの情報をデータベースにしておき、それを参考書以外の形でも使っている。これが参考書の「中身」というわけです。川口さんは、昔はこうした仕組みをCD-ROMにして、学校で採用された本の付録にしていた、と補足します(9冊目の「作問ROM」)。
うるしの見立て
一問一答のようなものはデジタルにしやすい。でも参考書には、解説や解き方のコツもある。そこは今のところ、デジタルをうまく活かせていない部分です。そこに需要があるのか、と首をかしげる赤城さん。
うるしは、こういうサービスはまず先生の負担を軽くするために入っていくのでは、と考えます。同級生に公立高校の英語の先生がいて、本当に忙しい。学校で授業や部活、生徒の対応をして、帰ってから教材作り。1日14〜15時間働いている、と。
だから、小テストのような基礎固めはデジタルに任せて、先生は、その先の指導に時間を使えばいい。学校全体の力が底上げされ、それが先生にも生徒にも救いになる――。
その先に、うるしさんの言う発展的な参考書の需要が生まれるのでは、と赤城さん。今はまだ、そこは紙が主役。そこにうまくつなげていければいい、と。山崎さんは、いいこと言う〜と感心しながら、ノートにメモをとります。うちもやりたい、と谷津さん。まずはデータベース作りから、と花山さん。
ドアの外にいた福山
電話で席を外した山崎さんは、廊下で、ドアの前に立っている福山とばったり。福山は何も言わずに立ち去ります。
電話のあと、山崎さんがご相談係まで追いかけると、福山は、たまたま通っただけだ、と言い張ります。まだ会に来てほしい理由を聞いていないし、心の準備もいる、と。
思わず吹き出す山崎さん。お前にも心の準備とかあるんだな、と。そういうところに拍子抜けして、劣等感を持っている自分がばかばかしくなる。だから嫌いになれないんだよな、と笑います。
山崎が語った「来てほしい理由」
そして山崎さんは、ついに理由を話します。
古い参考書が売れ続けて、新しい本がなかなか入りこめない時代。そこで、自分たちの手で、これからの定番になるシリーズを作りたい。そのために、元ヒットメーカーが眠らせているノウハウを借りたい。それが、福山にしをり会へ来てほしい理由だ、と。
福山は、これからの定番か、学参編集者の夢だな、と答えます。ところが山崎さんは、俺の夢ではないかもしれない、と返しました。
赤城さんの「ダメで結構」を思い出しながら、山崎さんは本音を打ち明けます。正直、編集者であることを自分の芯にできるほど仕事に夢中になれない。福山ほどすごくないし、学参に人生をささげられないかもしれない。ロングセラーも、キャリアのために目指したほうがいいと思うからやるだけ。自分が本当にやりたいことなのかは、わからない――。
でも、と山崎さんは笑います。そんな自分でも走り切れたら、うまいビールが飲める気がする、と。福山には分からないだろう、という山崎さんに、福山は、意味不明だがそういう人間もいるんだろう、と答えるのでした。
「会は考えておく」、そして宣戦布告
福山は書類を持って立ち上がり、総務へ。行くの!? しをり会!?とあわてる山崎さんに、話は終わっただろ、会は考えておく、と返します。
出ていこうとする福山を、山崎さんが呼び止めて、もうひとこと(このセリフは感想で)。福山の返事は、なんだかわからんが勝手にしろ。
ドアが閉まり、ひとり残った山崎さんは、小さくガッツポーズ。そのころしをり会では、山崎くんが戻ったらみんなでラーメンに行こう、とのんびりした声が響いていました。
【参考書業界のいま】紙とデジタル、どう使い分ける?
35冊目にはハウツーの相談はありませんでしたが、参考書のデジタル化について、作中の話と研究・データをまとめます。
1. 学校では「1人1台端末」が当たり前に
作中で、生徒がみんな端末を持っている、という話がありました。日本では、国の「GIGAスクール構想」で、小中学生に1人1台の端末を配る整備が進められました。作中の「タンゴスタ!」のように、先生が小テストを配信するサービスが広がる下地は、すでにできています。
2. 先生の長時間労働
うるしの同級生の「1日14〜15時間」は極端な例かもしれませんが、先生の忙しさは数字にも表れています。文部科学省の令和4年度の調査では、平日に学校にいる時間は、教諭の平均で小学校10時間45分、中学校11時間1分。前回より減ったとはいえ、ほとんどの先生が長く働いています。(文部科学省, 2023)
小テストの作成や採点をデジタルに任せる。うるしの言う「先生にも生徒にも救い」は、この数字を見ると、決して大げさではありません。
3. 読むなら紙、という研究も
うるしは「圧倒的紙派」でした。研究では、同じ文章を紙と画面で読んだとき、説明的な文章では、紙のほうが理解度が少し高いという結果が、たくさんの研究のまとめで示されています(Delgado ほか, 2018/Clinton, 2019)。とくに時間の制限があるときに、その差が出やすいとされています。
また、授業のメモをパソコンでとった学生より、手で書いた学生のほうが、内容の理解を問う問題でよい成績だった、という実験もあります(Mueller & Oppenheimer, 2014)。作中の「書きこむのがまだ不自由」は、使う側にとっても大事なポイントなのです。
4. 使い分けの目安
| 番号 | 名前 | 向いていること | 使い方 |
|---|---|---|---|
| 1 | デジタル | 単語・一問一答の小テスト、音声 | 毎日のすきま時間に、思い出す練習 |
| 2 | 紙の参考書 | 解説をじっくり読む、書きこむ | 30冊目の「軸足の一冊」として育てる |
| 3 | 電子版の参考書 | 大人の調べもの・持ち歩き | 書きこまない用途に |
紙とデジタル チェックリスト(35冊目から)
[ ]単語や一問一答は、アプリやデジタルの小テストで毎日くり返した[ ]解説をじっくり読む本は、紙で選んだ[ ]大事なところは、手で書きこんだ[ ]学校の端末で配られた小テストを、その場しのぎにしなかった
参考文献
- 文部科学省 (2023). 教員勤務実態調査(令和4年度)の集計.
- Delgado, P., Vargas, C., Ackerman, R., & Salmerón, L. (2018). Don’t throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media on reading comprehension. Educational Research Review, 25, 23–38.
- Clinton, V. (2019). Reading from paper compared to screens: A systematic review and meta-analysis. Journal of Research in Reading, 42(2), 288–325.
- Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking. Psychological Science, 25(6), 1159–1168.
ガクサン 35冊目 感想・考察
【今回の一番】「うるしちゃんのことも諦めたわけじゃないから」
35冊目でいちばん驚いたのは、ラストの山崎さんのこの一言でした。
「うるしちゃんのことも諦めたわけじゃないから」
34冊目では、始まる前に終わった、とうなだれていた山崎さん。それが、福山の目を見て、はっきり宣言しました。言われた福山は、なんだかわからんが勝手にしろ。福山がまったく意味をわかっていないのが、またおかしいところです。
31冊目の「このままで俺はいいのか?」から、ちょうど5話。デート、置いていかれた感、ヤケ買い、サシ飲み、寝落ち。山崎さんは遠回りをしながら、このままではいないという答えにたどり着きました。
「参考書の中身」には需要がある
今回のテーマを一言で表すのが、花山さんのこの言葉です。
「『参考書の中身』は需要があるの」
紙の本をそのまま電子にしても、子どもは買わない。でも、問題や答え、音声といった「中身」は、学校向けのサービスとして形を変えて生きている。
13冊目で、うるしは参考書ができるまでを見学し、編集者の仕事を知りました。9冊目では、学校採用の本に作問ROMがつくことも知りました。35冊目は、その延長線上にある話です。参考書の価値は、紙の束ではなく、編集者が積み上げた中身にある。14冊目の「参考書は、編集者の愛のかたまり」という、うるしの投稿を思い出しました。
うるしは「ご相談係」の目で考えた
うるしの見立ても見事でした。先生の負担を軽くする道具から入って、その先に発展的な参考書の需要を作る。
27冊目でうるしは、編集者ではなくご相談係の道を選びました。今回のうるしは、売り方や作り方ではなく、使う人が何に困っているかから考えています。忙しい先生、カード払いのできない子ども。32冊目のイラストの話でも、親と子どもの両方の目線で考えていました。ご相談係として積み重ねてきた見方が、しをり会でも生きているのだと思います。
山崎さんが思わずメモをとったのも、うなずけます。
福山の「心の準備」
ドアの外で立ち聞きしていた福山。31冊目で、勉強会の話を聞こうか、と山崎さんに電話したきり、まだ会には顔を出していませんでした。
17冊目で明かされたように、福山は社内、特に編集者に対してつらい過去を抱えています。そんな福山が、心の準備がいる、と口にした。山崎さんは笑いましたが、おじさんには、福山が自分の弱さを初めて人に見せたように見えました。
そして山崎さんも、劣等感を持っている自分がばかばかしくなる、と本音をもらす。16冊目では、福山を漫画の主人公みたい、勝ち目がない、と苦笑していた山崎さん。ふたりの同期が、お互いの弱さを見せ合った場面でした。
「俺の夢ではないかも」と、うまいビール
山崎さんの本音も、胸に残りました。
これからの定番シリーズを作るのは、学参編集者の夢。でも、自分の夢ではないかもしれない。24冊目で心の中で打ち明けていた、どこか仕事に夢中になりきれない、という気持ちを、山崎さんはついに福山本人に話しました。
それでも、走り切れたらうまいビールが飲める気がする。34冊目の赤城さんの言葉が、ここで山崎さんの仕事の理由になったわけです。夢中になれなくても、人生をささげられなくても、走る理由はある。福山の「意味不明だがそういう人間もいるんだろう」は、福山なりの、最大限の理解なのだと思います。
まとめ
- しをり会のテーマは電子の参考書。電子書籍は伸びているが、電子の参考書は子どもにはあまり売れない
- ハードルはカード払いと、書きこみの不自由さ
- 花山「『参考書の中身』は需要がある」――旺文社「タンゴスタ!」のような学校向けサービスに形を変えている
- うるし: 基礎固めはデジタルに任せて、先生はその先の指導へ。その先に発展的な参考書の需要がある
- ドアの外で立ち聞きしていた福山。「心の準備もいる」
- 山崎が明かした理由: これからの定番シリーズを作るため、元ヒットメーカーのノウハウを借りたい
- 「俺の夢ではないかも」、でも走り切れたらうまいビールが飲める
- 福山「会は考えておく」。山崎「うるしちゃんのことも諦めたわけじゃないから」
35冊目は、参考書のデジタル化という業界の話と、山崎さんの再出発が重なった回でした。夢中になれなくても、走る理由は見つけられる。福山はついにしをり会へ来るのか。そして山崎さんの宣言の行方は。36冊目が待ちきれません!

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