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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
4冊目は、「週明けから来なくて構わん」と言われたうるしの週末と、週明けの反撃。落ちてきた1冊の英単語帳が、うるしの背中を押します。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。
ガクサン 4冊目「うるし、作戦決行」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
お客様ご相談係の仕事初め。回覧を届けた第一編集部は、読者の声を読みもせずに回していました。山崎いわく、福山は「元々編集」で「いろいろあって異動した」。
福山は「ご相談係が倉庫にあるのは、不要な業務だと思われてるからだ」。やり直し続きの末、「やる気ないならもういい」と言われたうるしは「『不要な業務』でも!!」と叫び、返ってきたのは「週明けから来なくて構わん」でした。
前回の記事はこちら → 【ガクサン 3冊目】「ご相談係」の洗礼。倉庫の部屋と「不要な業務」
週末、ベッドの上でごろんごろん
週末のうるしの部屋。サメのぬいぐるみを抱えて、うるしは「いらんこと言った…」とベッドの上を転げ回ります。
でも私、悪くなくない? そもそもちゃんと指導しないほうが悪くない? ――とはいえ、あのあとの空気。福山のクッション役のはずが、このまま険悪ではまずい。「ていうかクビならもう関係ないか!?」
そこへ届いたのが、姪のゆっちゃん(ゆかり・10歳)からのメッセージ。「出版社ではたらくんでしょ!? かっこいい!!! なんの本作るの!?」。
「作るんじゃなくて、お客様ご相談係なんだけど…」と返すと、「そうなんだ~」。テンション、明らかに下がった。
「私だって、業界っぽくてカッコいいって思って入ったわけなんだけど」。福山の「思ってた仕事と違っていて面倒になってるんだろう」が、頭の中でよみがえります。
落ちてきた『ドラゴン・イングリッシュ』
「どーすりゃいいんだよ~!!!」。本棚をたたいたうるしの頭に、1冊の本が落ちてきます。
高校時代に使っていた英単語帳、『ドラゴン・イングリッシュ 必修英単語1000』。みんなはほかの単語帳を使っていたのに、うるしだけ「個性派ぶって」これにしていた。妙に愛着があって、捨てられなかった1冊です。
しまい直そうとしたとき、福山の言葉が浮かびます。「『はじめに』から始めろ」
「はじめに」10ページと、語源の覚え方
開いてみると、「はじめに」はなんと10ページ。そこには、語源を理解すると記憶のとっかかりになるから覚えやすいと書いてありました。
たとえば innocent は「in-(否定)+ -nocent(悪いイメージ)」で「潔白な」。courage は「cour-(心臓・心)+ -age(状態)」で「勇気」。一語一語に、コラムのような覚え方が載っています。
「そうだ、思いだした」。丸暗記するよりずっと、好奇心がくすぐられて好きだった。
2冊目の福山の「『自分に合うもの』を選んでもらうのが一番大切」。この単語帳は、私に合ってたんだな――。
spring(温泉)と spray(スプレー)は同じイメージ、マニキュアの mani- は手、ペディキュアの pedi- は足。気がつけばページをめくる手が止まりません。
「ってなんか夢中になってない!?」。どうせクビになるかもしれないのに。
「空欄、埋まってるくせにもったいない」
寝転んだうるしは、ふと思います。今ちょっとだけ、福山さんが参考書に夢中になる気持ちがわかった気がする。
なのに、あの「仕方ない」という諦めた態度はなんなのか。ホントは「不要な業務」だなんて絶対思ってないのに。元編集で、島流しにあっている気分なのかもしれないけど、あんな態度でふてくされて。
うるしは福山を、問題集の空欄にたとえます。「空欄 埋まってるくせにもったいない」
私はこんなにたくさんのものの中から、何ひとつ見つかっていないのに――「なんかクソムカつくな!…」。
「どーせこのままクビになるくらいなら…」。そこへゆっちゃんから「勉強、わかんないことあったら教えて~」。うるしは、ニヤリと笑います。
週明け、「納得いきません!!」
週明け。福山は「…もう来ないかと」。うるしは言います。
「ここの業務がこんな扱いなのも 福山さんがくすぶってる状態なのも 納得いきません!!」
福山の態度には超問題がある、ずけずけ言うくせに仕事は教えてくれない――。福山が「つまり辞めるって話か」「自分のやる気のなさを棚に上げて」と返すと、うるしは「うるさい!!」。さすがの福山もぎょっとします。
そして、うるしの口から出たのは「福山さんのことうらやましいから言ってるんです!」
「支離滅裂だぞ茅野…」と引く福山に、うるしは続けます。私はカラッポだし、クビにされたって別にいい。それまでは好きにやる。「私もっとこの部署が大切にされて 福山さんの力が活かせるようにします!」
作戦決行――「だって私 福山さんお守り係ですから!!」
「例えばどうするっていうんだよ」と聞く福山の横にうるしは並び、スマホでツーショットを自撮り。そのまま何やら投稿します。
「今後は私の言うこと聞いてもらいます!!」「だって私 福山さんお守り係ですから!!」
「はあ!?」と叫ぶ福山。
その朝、編集部ではちょっとした騒ぎに。いぶき社お客様ご相談の Twitter に、「参考書のお悩み、弊社の参考書クソオタク&新人コンビがまるっとお答えします!」という投稿と、2人の写真が上がっていたのです。
「フォロワー少なっ…」とささやかれる中、画面を見た山崎は「やるな~うるしちゃん…!」。
【ガクサン流・英単語の覚え方】語源で覚えるのは本当に効く?
4冊目でうるしが思い出したのは、「語源を理解すると記憶のとっかかりになる」という単語の覚え方。研究ではどう言われているのか、調べてみました。
単語をパーツに分ける=ワードパート法
in-(否定)、-age(状態)のように、単語を接頭辞・語根・接尾辞のパーツに分けて意味を結びつける覚え方を、英語教育の研究では「ワードパート法(word part technique)」と呼びます。語彙研究の第一人者ネーションも、学習者が身につけるべき方法の一つに挙げています。(Nation, 2013)
大学生121人で、ワードパート法・キーワード法(語呂合わせ)・自己流を比べた実験では、訳を書くテストで、語呂合わせのほうがワードパート法や自己流より成績が下だったという結果が出ています。(Wei, 2015)
つまり語源で覚えるのは、少なくとも「遠回りではない」と言えそうです。しかも一度覚えたパーツは、ほかの単語にも使い回せます。manicure の mani-(手)を知っていれば、manual(手の・手動の)にもつながります。
「記憶のとっかかり」=深く考えるほど覚える
同じ単語でも、見た目や音だけで処理するより、意味を考えたほうが記憶に残りやすいことがわかっています。「処理水準」と呼ばれる考え方です。(Craik & Lockhart, 1972)
「cour- は心臓だから、courage は心の状態で勇気か」と考えるのは、まさに意味を深く処理すること。イディオム(熟語)でも、語源の由来を教えたグループのほうが多く覚えていたという研究があります。(Boers, Demecheleer & Eyckmans, 2004)
※innocent の -nocent は、語源辞典ではラテン語 nocere(害する)から来たとされています。「害をなさない=潔白な」と覚えると、さらにつながりが見えます。
「好奇心がくすぐられる」は効く
うるしの「丸暗記するよりずっと好奇心がくすぐられて好きだった」。これにも裏づけがあります。
答えを知りたいという好奇心が高まっているときは、その答えがよく記憶に残る。さらに、そのときたまたま見た関係ない情報まで覚えやすくなる、という実験結果があります。(Gruber, Gelman & Ranganath, 2014)
「へー、そうなんだ」と思えることが、それだけで記憶の味方になるわけですね。
「自分に合う単語帳」を選ぶ
一方で、どの単語帳がいちばんいいかは、研究でははっきり決められません。ここは作中の福山の助言、「『自分に合うもの』を選んでもらうのが一番大切」に従うのがよさそうです。
語源タイプが合う人もいれば、例文タイプ、イラストタイプが合う人もいる。うるしが「みんなと違う1冊」を選んで、今でも捨てられなかったのは、それが自分に合っていたからなんですよね。
なお、語源は万能ではありません。パーツに分けても意味が見えない単語も多いので、「分けられる単語は分けて覚える」くらいの気持ちがちょうどいいと思います。
【今回のガクサン】『ドラゴン・イングリッシュ 必修英単語1000』
ぱっと見まとめ:語源で覚える英単語
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 「はじめに」を読む | その単語帳の覚え方・使い方を確かめる |
| 2 | パーツに分ける | 接頭辞・語根・接尾辞に分け、それぞれの意味を結びつける |
| 3 | 意味を考える | 「だからこの意味になるのか」と、つながりを自分で考える |
| 4 | 使い回す | 覚えたパーツで、ほかの単語の意味を推測する |
| 5 | 「へー」を大事にする | おもしろいと思った由来は、人に話すつもりで覚える |
| 6 | 自分に合う1冊を選ぶ | 語源・例文・イラストなど、続けられるタイプを選ぶ |
チェックリスト
[ ]単語帳の「はじめに」を読んだか[ ]分けられる単語は、パーツに分けて意味を考えたか[ ]覚えたパーツ(mani- =手 など)を、ほかの単語でも見つけたか[ ]語呂合わせだけに頼っていないか[ ]分けても意味が見えない単語は、例文でまとめて覚えたか[ ]その単語帳を「おもしろい」と思えているか
参考文献
- Nation, I. S. P. (2013). Learning Vocabulary in Another Language (2nd ed.). Cambridge University Press.
- Wei, Z. (2015). Does teaching mnemonics for vocabulary learning make a difference? Putting the keyword method and the word part technique to the test. Language Teaching Research, 19(1), 43–69.
- Craik, F. I. M., & Lockhart, R. S. (1972). Levels of processing: A framework for memory research. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 671–684.
- Boers, F., Demecheleer, M., & Eyckmans, J. (2004). Etymological elaboration as a strategy for learning idioms. In P. Bogaards & B. Laufer (Eds.), Vocabulary in a Second Language (pp. 53–78). John Benjamins.
- Gruber, M. J., Gelman, B. D., & Ranganath, C. (2014). States of curiosity modulate hippocampus-dependent learning via the dopaminergic circuit. Neuron, 84(2), 486–496.
ガクサン 4冊目 感想・考察
【今回の一番】「福山さんのことうらやましいから言ってるんです!」
4冊目で一番ぐっときたのは、やっぱりこの一言です。
福山は「支離滅裂だぞ」と言いましたが、読者にはちゃんとつながっています。週末のうるしは、「私はこんなたくさんのなかから、何ひとつ見つかってない」と思っていました。
1冊目の「何をしても胸を張れる答えが見つからない」うるしにとって、福山は「好きなもの」がはっきりある人。それなのに、その「好き」を倉庫の部屋でくすぶらせている。
うらやましい。だからこそ、もったいない。怒りの正体は、嫉妬と、応援だったんですよね。
「空欄、埋まってるくせに」――参考書漫画らしいたとえ
うるしが福山を問題集の「空欄」にたとえたのが、この作品らしくて好きです。
福山の空欄(=好きなこと、得意なこと)はもう埋まっている。答えはあるのに、提出しないで机にしまっている。一方のうるしは、空欄のまま。
1冊目で福山は「ただ参考書が好きなだけだ」と言いました。うるしは、その「だけ」がどれほどうらやましいものか、自分の部屋の本棚の前で気づいたわけです。
「はじめに」の伏線回収
2冊目のラストで福山がくれた「『はじめに』から始めろ」。4冊目では、それをうるしが自分で実行しました。
しかも中身は、2冊目の「自分に合うものを選ぶのが一番大切」の答え合わせにもなっています。高校のうるしが「個性派ぶって」選んだ単語帳は、実はちゃんと自分に合っていた。
福山の言葉を、実際の参考書で「体験」させる。参考書の話と、うるしの成長が同じ1冊で重なる構成が見事です。
ちなみに私は語源で英単語を覚えられるほど論理だてて考えられなかったので、ひたすら気合で暗記。ただただ暗記でした。だから英語ができないままなのでしょうね。
福山の「仕方ない」と「島流し」
うるしは福山の諦めた態度を「元編集で島流しにあってる気分なのかも」と推理しました。
3冊目の「いろいろあって異動した」、2冊目の「好きになるほどいいことばかりじゃない」。福山は好きなものに傷ついた人なのかもしれません。
だから「仕方ない」「外野が口を出すな」と壁を作る。そこに「うらやましい」と正面からぶつかってきたうるしは、福山にとってかなり予想外だったはず。「う…うるっ…」と言葉に詰まる福山が、ちょっとかわいかったです。
「お守り係」を自分の武器にした
2冊目で山崎から聞いた「福山お守り係」。最初は押しつけられた役目でした。
それを4冊目のうるしは、「だって私 福山さんお守り係ですから!!」と、福山に言うことを聞かせる理由に変えてしまった。
「どうせクビになるなら好きにやる」という開き直りが、うるしの一番の強さなのかもしれません。カラッポだから、失うものがない。
SNS作戦は吉と出るか
いぶき社お客様ご相談の Twitter には、もともとアカウントがありました(3冊目のマニュアルにも「SNS管理」)。でも編集部の反応は「アカウントあったんだ」「フォロワー少なっ」。
そこに「参考書クソオタク&新人コンビ」。社内の人が見ている時点で、作戦はもう半分成功しています。第一編集部に読まれなかった回覧とは、正反対ですね。
ゆっちゃんの「勉強、わかんないことあったら教えて~」でニヤリとしたうるし。読者の悩みに、福山の知識で答える――それこそ、ご相談係が「不要な業務」じゃないことの証明になりそうです。
まとめ
- 「週明けから来なくて構わん」と言われ、週末のうるしはベッドでごろんごろん
- 本棚から落ちてきた高校時代の単語帳『ドラゴン・イングリッシュ』。「はじめに」には語源で覚える方法が書かれていた
- 夢中になったうるしは、福山が参考書に夢中になる気持ちが少しわかった
- 週明け、「納得いきません!!」「福山さんのことうらやましいから言ってるんです!」
- 自撮りしてご相談係の Twitter に投稿。「だって私 福山さんお守り係ですから!!」
うるしの反撃で、2人の関係がようやく動き出しました。参考書クソオタク&新人コンビに、最初のお悩みは届くのか。次の5冊目が楽しみです。
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。

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