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モーニング(講談社)で連載された漫画、佐原実波『ガクサン』のネタバレと感想・考察をお届け。
12冊目は、理転のお話の後編。喫茶店に、葵の父・谷津司がやってきます。理転に反対する谷津さんに、福山はどう向き合うのか。そして、葵がずっと「言えません」と隠してきた理転の理由とは――。
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
原作の漫画を手元で読みたい方は、こちらからどうぞ。12冊目は2巻に入っています。
ガクサン 12冊目「うるし、理転について考える②」あらすじ(ネタバレ注意!)
前回までのあらすじ
ご相談係に、高3の女の子・葵からDMが届きます。うるしはパンケーキの記事で福山を喫茶店に連れ出し、対面で相談に乗ることに。
葵の相談は「理転したいんです!」。文系クラスにいるけれど、やりたいことができた。でも数学は大の苦手。理転したい理由は「言えません」。
福山は「今からの参考書独学では難関大は無謀だ」と言いつつ、マセマ『初めから始める数学』をすすめます。そして、「親御さんはなんて言ってるの?」と聞かれた葵が口にしたのは――。
「谷津司…」「…父です」「父を説得してくれませんか…!」
前回の記事はこちら → 【ガクサン 11冊目】うるし、理転について考える①。数学が苦手な文系の高3が「理転したいんです!」――マセマで苦手を克服、そして相談者の父はまさかの…
「パパ仕事中なんだぞ!!」
喫茶トルツメに、谷津さんが乗りこんできます。「葵」「パパ仕事中なんだぞ!!」
電話で呼ばれて来てみれば、そこには福山。しをり会でも、谷津さんは福山にいい印象を持っていなさそうでした。でもうるしは、ひそかに考えます。ここで上手くいけば、福山さんをしをり会に誘いやすくなるかも…?
「収まった話を蒸し返すな」
「受験まで1年しかないんだぞ」「収まった話を蒸し返すな」。谷津さんの言い分は、こうです。
- 今から理転なんて、浪人決定コース
- 学校が理転にNGを出しているのは、もう手遅れだから
- 理系の塾にも行かせるつもりはない
葵も負けていません。「パパもママも話聞いてくれないから遅くなっちゃったんじゃん!!」「独学でなんとかするもん!」
そこへ福山が、フォークを片手に口をはさみます。早慶の理系のような難関大は難しい。「でも中堅私大や一部国公立でも戦略次第では合格可能ですよ」
「出しますよ」
「君は家のことに口を出すな」と立ち上がる谷津さん。福山は一歩も引きません。
「出しますよ」「相談を受けたのは我々お客様ご相談係ですから」
3冊目で「不要な業務」と言われたご相談係。その名前を、福山が自分から口にしました。
「そぎ落とすんです」
「じゃあ具体的にどうするっていうんだよ」。福山の答えは、「そぎ落とすんです」。
最初から志望校をはっきり決めて、不要なものを徹底的にそぎ落とす。
- 数IIIはやらない(数II・Bまでの理解は必須)
- 理科は1科目以外やらない
- 私大理系なら、英語・数学I・A II・B・理科1科目の「最短距離3点セット」で合格が現実的
- 国公立理系は共通テストで理科2科目が多いが、0〜1科目で受けられる学部も一応ある
「まあ入学後、知識不足で困るかもしれんが」と小声でつけ足すのも福山らしいところ。山崎は「今の子の理科はこういう選択方式なのか…」と感心しています。
「夏までにマセマの4冊を潰す」
「科目を減らした程度ではどうにもならん」「赤点に近いレベルなのに」と谷津さん。福山は、具体的な目標を示します。
- 夏までに、数学I・Aの共通テストで7割
- 秋までに、数学II・Bで7割
- 最低限、夏までにマセマの4冊を潰す。そこからは発展的な内容を対策する
- 英語が得意なのは「せめてもの救い」。その分、理系科目に時間を割ける
「…まあ俺は受験専門家ではないから話半分で聞いてくれ」。それでも葵は、「大変だけど…なんとかなるかもって思えてきました…」。
「大切なのはランクではありません」
それでも谷津さんは食い下がります。文系なら難関大も狙えるレベル。「なんだかんだ言っても学歴は大切だ」「将来の選択肢が増える」。同級生も文系が多いのに、わざわざ一人で茨の道に進まなくても。
「谷津さん」「大切なのはランクではありません」「やりたい理由が明確にあるならなおさら」
理系の就職では、学歴よりも研究の内容、専門分野への理解の深さが大事。それに、中堅の女子校で文系の私大志望が多数派になるのは首都圏の話。ほかの地域では、医療系の学部を中心に、数学を選ぶ女子もとても多い。
「なんとなく文系」で「なるべく偏差値の高い大学に行っておく」。そういう選択をいいと思っているのは、限られた人間だけ。……この言葉、文学部卒のうるしにぐさっと刺さっています(笑)。
「いい大学を出たからではなく 専門的に学んできた結果として参考書の仕事に今携わっている」「…重要なのは何を学んできたかですよね」
「お前が歴史家になるのが俺の夢だったのに…!」
「パパ…お願い」「私どうしても…勉強したいことがあるの」。谷津さんは、まだ理転の理由を聞かされていませんでした。
「子供の頃からの夢はどうしたんだよ」。俺に似て歴史が大好きで、戦国武将に夢中だった葵。幼い葵は言っていました。「パパの作った歴史の本おもしろいね!」「いつか武将に会ってみたいなぁ」
「…お前が歴史家になるのが俺の夢だったのに…!」
涙ぐむ谷津さんに、福山は容赦なく「子供に夢を押しつけるのはどうかと思いますよ」「子供は変わるというか成長するものですし」。山崎とうるしの「ちょ 正論やめてっ」に笑いました。
「初恋なの!!」
「恥ずかしいから…言いたくなかったんだもん…」。葵が、ずっと握りしめていたカバンを差し出します。それは、真田幸村の缶バッジがびっしり並んだ「痛バ」(オタクの痛いバッグ)でした。
「初恋なの!!」
「どうにかして彼に物理的に会いたいの」「だから理転したいの!!」「AIとか…遺伝子工学とか…!」
歴史の知識はもうある。だから、別のアプローチで。……子どものころの「いつか武将に会ってみたいなぁ」は、形を変えて続いていたのです。
山崎「い…いやいやいや…マジ?」、福山「キャラと実際の人物は別物だろう」、うるし「マジレスやめてくださ…」。そして谷津さんは、思わず「ふはっ」。
「…真剣すぎて…こりゃもうしょうがないな」「わかった…」「…応援するよ」
「あいつも真っ当なこと言うもんだね」
ご相談室に戻ったうるし。谷津さんは個別指導塾も考えると言っていたそうです。「参考書があるとはいえ…質問できる環境も大事ですね」。
駅で別れるとき、谷津さんはうるしに言いました。「あいつも真っ当なこと言うもんだね」「俺は葵にも彼にも思い込みで意固地になってた部分があったんだろうな」「悪いけどよろしく伝えて」
「福山さんにも感謝されてましたよ」。ぴくっと反応する福山。今の福山さんなら……? うるしはド直球で切り出します。
「実は福山さんを…勉強会に連れてきてほしいって頼まれてるんです!」
「断る」
ド即答。うるし「でしょうね」(チッ)。目標①への道は、まだまだ遠そうです。
【ガクサン流・理転の戦略】高3からの理転は「そぎ落とす」
福山が谷津さんに示した「そぎ落とす」戦略。作中の助言を整理しつつ、研究や今の入試のしくみとあわせて見てみます。
1. 志望校を最初に決める
福山の戦略は、「最初から志望校をハッキリ決めて」から始まります。志望校が決まらないと、何をそぎ落としていいかがわからないからです。
6冊目の「『最終的』では駄目だ」「志望校が決まったら即『赤本』を買え」と同じ考え方です。
2. 「最短距離3点セット」にしぼる
数IIIはやらない、理科は1科目だけ。私大理系なら、英語・数学・理科1科目の3点セットで受けられるところが多くあります。
ただし、作中の数学の科目名(数学II・B)は少し前のものです。2025年からの共通テストでは、数学の2つ目は「数学II・数学B・数学C」になり、新しく「情報I」も加わりました。国公立大学は、多くが情報Iを含む科目を課しています。
※必要な科目は大学・学部・入試方式によって違います。志望校の募集要項を必ず確認してください。
3. 「いつまでに・何割」の目標を立てる
「夏までに数学I・Aの共通テストで7割、秋までに数学II・Bで7割」。福山の目標は、期限と数字がはっきりしているのがポイントです。
「がんばる」のようなあいまいな目標より、具体的で、少しむずかしい目標を立てたほうが成果が上がりやすいことが、たくさんの研究で確かめられています。(Locke & Latham\, 2002)
11冊目でうるしが壁に貼った「ご相談係をがんばる!!」と比べると、違いがよくわかります。
4. 易しい本を「潰して」から、発展へ
夏までにマセマ『初めから始める数学』の4冊(I・A・II・B)を潰し、そこから発展的な内容へ。1冊目の「潰す」、11冊目の「3回○がつくまで」とつながる、作中の福山の助言です。
5. 得意科目で時間を生み出す
葵は英語が得意。福山いわく「せめてもの救い」で、その分を理系科目に回せます。ただし、「なおざりは禁物!!」。得意科目も、落とさない程度の勉強は続けましょう。
6. 質問できる環境をつくる
最後にうるしが言った「参考書があるとはいえ…質問できる環境も大事ですね」。谷津さんは個別指導塾も考えているそうです。
5冊目の記事でも紹介したように、答えを丸ごと聞くのではなく、自分で考えたうえで必要なヒントを求める「援助要請」が、よく学べる人の特徴とされています。(Newman\, 2002)
ぱっと見まとめ:高3からの理転
| 番号 | 名前 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 志望校を決める | 最初に志望校をはっきり決める |
| 2 | 科目をしぼる | 必要な科目だけにしぼる(数III・理科2科目目をやらない など) |
| 3 | 期限と数字 | 「いつまでに・何割」の目標を立てる |
| 4 | 易しい本から | 基礎の本を潰してから、発展の内容へ |
| 5 | 得意で時間を作る | 得意科目は保ちつつ、時間を苦手科目に回す |
| 6 | 質問できる場所 | 塾・先生など、わからないところを聞ける環境をつくる |
チェックリスト
[ ]志望校を決め、募集要項で必要な科目を確認したか[ ]共通テストの「数学C」「情報I」が必要かどうか確かめたか[ ]「いつまでに・何割」の目標を紙に書いたか[ ]基礎の本を1冊ずつ潰しているか[ ]わからないときに質問できる人・場所があるか
参考文献
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717.
- Newman, R. S. (2002). How self-regulated learners cope with academic difficulty: The role of adaptive help seeking. Theory Into Practice, 41(2), 132–138.
ガクサン 12冊目 感想・考察
【今回の一番】「初恋なの!!」
12冊目の一番は、もうこれしかありません。理転の理由は、真田幸村への「初恋」。
11冊目からずっと「言えません」と隠し、カバンを握りしめていた葵。その中身は、缶バッジでいっぱいの痛バでした。11冊目の記事で「理転の一番の壁は、お父さんかも」と書きましたが、まさかカバンの中に答えがあったとは(笑)。
でも、笑うだけの話ではないと思います。葵の「いつか武将に会ってみたいなぁ」は、子どものころからずっと続いている夢。歴史で会えないなら、AIや遺伝子工学で会いに行く。夢の中身は同じで、近づき方が変わっただけなのです。
谷津パパの「応援するよ」
谷津さんの「お前が歴史家になるのが俺の夢だったのに…!」。福山にはばっさり切られましたが、おじさんは谷津さんの気持ちもわかります。自分が作った歴史の本を「おもしろいね!」と言ってくれた娘。うれしかったのでしょう。
でも最後は、「真剣すぎて…こりゃもうしょうがないな」「…応援するよ」。
子どもが自分で選んだことを、親が支える。そういう関わり方をする親の子どもほど、自分から勉強に取り組みやすいことがわかっています。(Grolnick\, 2009)葵の1年弱は険しい道のりですが、一人で茨の道を進むわけではなくなりました。
参考文献:Grolnick, W. S. (2009). The role of parents in facilitating autonomous self-regulation for education. Theory and Research in Education, 7(2), 164–173.
福山の「出しますよ」と「重要なのは何を学んできたか」
今回の福山は、とにかくかっこよかった。「君は家のことに口を出すな」に、「出しますよ」「相談を受けたのは我々お客様ご相談係ですから」。
3冊目では「週明けから来なくて構わん」と、うるしを突き放した福山。7冊目では「部署のことや俺の立場のことはどうでもいい」。その福山が、ご相談係の看板を背負って、しかも自分に批判的な谷津さんに正面から向き合いました。
そして、「いい大学を出たからではなく 専門的に学んできた結果として参考書の仕事に今携わっている」。10冊目で山崎が語った「参考書に出会って初めて勉強が好きになれた」福山だからこそ、重みのある言葉です。
谷津さんと福山、少しだけ近づく
9冊目の「あんなヤバい態度の奴」、10冊目の「自業自得だ」。そんな谷津さんが、12冊目では「あいつも真っ当なこと言うもんだね」「彼にも思い込みで意固地になってた部分があったんだろうな」。
谷津さんは、元・高校社会の編集者。福山がいた編集部のことも知っているはずです。「意固地になってた」という言葉からは、福山の異動の「いろいろ」に、谷津さんも何か関わっていたのかもしれない、とおじさんは考えています。
そして「よろしく伝えて」で、福山がぴくっ。福山にも、うれしい気持ちはあるんですね。
うるし、ド直球で玉砕
「今の福山さんなら…?」。期待をこめたド直球に、「断る」のド即答。「でしょうね」(チッ)の流れは、ガクサンらしい締めでした。
11冊目で壁に貼った目標①「福山さんを研究会につれてくる!!」。まだまだ道のりは遠そうですが、谷津さんの態度が変わったのは大きな一歩。11冊目の記事で書いた「いつ・どこで・何をするか」まで決めた作戦を、うるしには立ててほしいところです(笑)。
まとめ
- 喫茶トルツメに谷津さんが到着。「収まった話を蒸し返すな」「理系の塾にも行かせない」
- 福山「出しますよ」「相談を受けたのは我々お客様ご相談係ですから」
- 戦略は「そぎ落とす」。数IIIはやらない、理科は1科目。英語・数学・理科1科目の「最短距離3点セット」
- 目標は夏までに数学I・Aで共通テスト7割、秋までに数学II・Bで7割。夏までにマセマ4冊を潰す
- 福山「大切なのはランクではありません」「重要なのは何を学んできたかですよね」
- 谷津「お前が歴史家になるのが俺の夢だったのに…!」→福山「子供に夢を押しつけるのはどうかと思いますよ」
- 理転の理由は真田幸村への「初恋」。「どうにかして彼に物理的に会いたいの」「AIとか…遺伝子工学とか…!」
- 谷津「…応援するよ」。そして福山に「あいつも真っ当なこと言うもんだね」
- うるし「勉強会に連れてきてほしいって頼まれてるんです!」→福山「断る」
谷津さんとの距離が少し縮まった福山。うるしは、福山をしをり会に連れてこられるのか。13冊目が楽しみです。
続きが待ちきれない方は、漫画でひと足先にどうぞ。

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