【盤上のオリオン第109話】最新話 「朔、ここまで来たよ」――市川周鳳が背負う約束と、運命の18戦目(ネタバレ注意)

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盤上のオリオン

週刊少年マガジン掲載の漫画 盤上のオリオン最新話の感想、考察をお届け。

以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。

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盤上のオリオン 第109話 最新話 あらすじ(ネタバレ注意)

前回までのあらすじ

佳澄碧が初の女性棋士となる。

もう一人棋士になるのは!?

残り2戦、昇段の可能性があるのは二宮夕飛(2敗)・市川(2敗)・七尾(3敗)の三人。

第17戦の二宮対七尾の対局が始まる。

どんどん仕掛けていく二宮。

意表を突かれた七尾。

さて、勝負のゆくへはいかに!?

前回の記事はこちら【盤上のオリオン第108話】

今回のあらすじ

17戦目、二宮の攻めを凌ぎきれず七尾が投了する。

七尾正文13勝4敗。二宮夕飛15勝2敗。

七尾は4敗目で昇段レース脱落。

2敗は市川と二宮のただ二人となり、午後の18戦で二人は直接対決する。

最終戦、勝ったほうが棋士になる。

「こんなん詐欺やんけ!!」と嘆きながらも、七尾は「今は届かんかった 次こそは必ずリベンジや」と誓う。

対局後、七尾は二宮への距離の詰め方が異常だった。

家に遊びに行きたい、なにかおごってほしい、女の子を呼んでパーティーを——。

他の奨励会員が「こういう距離の詰め方する人二宮君嫌いだ!!」と看破した通り、二宮は逃げ出す。

逃げ込んだ神社で弁当を広げる二宮。

しかし隣でハンバーガーを食べていたのは、午後の対戦相手・市川周鳳だった。

気まずさの極致のなか、市川が切り出した話題は茅森月への「この感情の名前は何と言うのでしょうか」という恋バナ(笑)。

そして市川は語り出す。

自分に将棋を教えてくれた師のような友達「朔」のこと。

「そいつと約束したんです 棋士になると」

「あと一勝 二宮君に勝って棋士になって 久慈彼方を倒す」

盤上のオリオン 第109話 X(旧Twitter)での反応

盤上のオリオン 第109話 感想・考察・まとめ

「こんなん詐欺やんけ!!」——七尾正文、名誉ある四敗目

まず17戦目の決着だ。

「飛車がフラフラすんなや!!」「しのげ 凌げ!!」と喋りながら必死に受ける七尾。

しかし二宮の烈火の攻めを凌ぎきれず、パチン——「参り…ました」

七尾正文13勝4敗。二宮夕飛15勝2敗。

木佐貫の総括が的確だった。

「七尾はここまで粘ったがついに4敗目 昇段レース脱落や いや 二宮と市川が崩れなかったんや」

「いや」で言い直すところが良い。

七尾が弱かったのではなく、上の二人が最後まで落ちてこなかった。

そして七尾の心の叫びが、今回いちばん笑って泣ける場面だ。

「こんなん詐欺やんけ!! 全然趣が違うやん!! 橙和っちとの対局はもっとどっしりとかかってこい的な棋風やったやん 何で俺ん時だけこないな凶暴な将棋になるがん!?」

これ、完全に七尾の言う通りである(笑)。

前回108話で七尾が「聞いとったんのと違う」と絶叫していた通り、二宮は「新世代の受け師」の看板を自分でひっくり返した。

生方橙和との対局を研究してきた七尾の対策は、全部無駄になった。

しかし七尾はそれを「これも二宮君の引き出しの多さちゅーことか これが 格の違いちゅーことか」と受け止める。

そして——「くそ届かんかった くそ 今は届かんかった 次こそは必ずリベンジや」

「届かんかった」を二回言って、二回目に「今は」を足す。

この「今は」の一語に、七尾正文の棋士人生がまだ続くことが宿っている。

108話で七尾が握ろうとした「蜘蛛の糸」は切れた。

でも彼は次の糸を探しに行く。

当て馬にせず、ちゃんと未来を持たせて退場させる——この作品の誠実さが好きだ。

「お好みパーティーでもやりましょ女の子呼んで」——距離の詰め方が異常

そして感動的な投了の直後に始まるのが、七尾の怪演である。

「イヤー参りましたわーニノはん!! さすが佳澄姉と並び称される神童 足元にもおよびませんわ」

さっきまで「必ずリベンジや」と燃えていた男が、三十秒後には「今度家に遊びに行っていいでっか?」「なにかおごってくださいなー傷心のワテに」「お好みパーティーでもやりましょ女の子呼んで」と絡み始める。

そこへ入る他の奨励会員のナレーションが完璧だ。

「こういう距離の詰め方する人二宮君嫌いだ!!」

そして次のコマで「昼どこで食べるんでっか?」と誘う七尾の前から二宮は消えている。

「おらん!? なんでや!?」「逃げた!!」

「罵られて喜ぶドM」という異名を持つ男が、最後まで異名通りの働きをして去っていった。

負けた側をこういう形で描けるのは、キャラクターへの愛情がある作家だけだと思う。

神社の弁当と、隣のハンバーガー——気まずさの傑作

逃げ込んだ先で二宮が弁当を広げる場面が、また味わい深い。

「あーゆー人は疲れる 脳みそが熱い気がする 肌寒くてキモチいいなぁ」

「脳みそが熱い」という言い回しが良い。

そして「肌寒くてキモチいいなぁ」と一息ついた直後の「ん!?」。

隣でハンバーガーを食べていたのが、午後に自分の運命を決める相手・市川周鳳だった。

「市川さん!! 気まずい!! ここで去るのはもっと気まずい!!」

この一コマの構図がたまらない。

数時間後に「勝ったほうが棋士になる」一局を指す二人が、神社のベンチで弁当とハンバーガーを食べている。

ちなみにこの神社、105話で佳澄碧が昇段後に一人で踊っていた場所と重なって見える。

将棋会館の隣に建つ、あの「将棋神社」だ。

歴史が生まれた場所で、次の運命が静かに並んで昼食をとっている。

この舞台の使い回しは、絶対に計算されている。

「この感情の名前は何と言うのでしょうか」——市川の恋バナと59話の伏線

そして市川の第一声がこれである。

「俺 茅森月さんにドキドキするんです この感情の名前は何と言うのでしょうか」

二宮の内心が読者を代弁する。

「イキナリ恋バナ!? ほぼ初対面の僕に!!」

しかし笑ったあとで、おじさんは静かに膝を打った。

市川周鳳が茅森月と対局したのは59話——茅森の三段リーグ初戦だ。

ノーガードの殴り合いの末に茅森が惜敗し、「まいりました」の「まいりま」で席を立って飛び出していった、あの一局。

市川が「キュンときた」と語るのは、まさにそこなのだ。

「あの負けん気 負けを認めないけなげさにキュンときました」

二宮の返しも最高だ。「単純に失礼なだけですよ まーあの人は性格以外完璧ですから」

50話も前のギャグシーンが、今になって別のキャラクターの恋心の起点として回収される。

Twitterで「強くてかっこよくて可愛いヒロインがいる恋愛漫画」として本作が挙げられていたが、まさにこの場面のことだと思う。

そして市川の本音はもっと深い。

「いちばんドキドキしたのは彼女との対局でしょうか 一手一手指すたびに覚醒してゆく姿 垣間見たのはその才能の片鱗のみ 全体像は杳として知れず ソコの知れない麗人です」

「杳として知れず」という語彙を使う17歳。

市川周鳳の格調高い喋り方は93話の「何たる気迫。否、とめどない、殺気!!」の頃から一貫していて、この男の異名「眠りの超急戦」とのギャップがまた良い。

そして二宮が答える。「彼女の天才性は どこか彼方と似ている」

茅森月を久慈彼方と同じ枠で語る。この一言が、月の底知れなさを保証している。

「朔 ここまで来たよ」——市川周鳳が背負っていた約束

ここから今回の核心だ。

回想に現れるのが、市川に将棋を教える「朔」という友人。

朔の言葉がこうだ。

「周鳳 お前は棋士になれるよ 俺がなれなかった棋士に」

そして市川が心の中で告げる。

「朔 ここまで来たよ」

おじさんはここで完全にやられた。

木佐貫が以前語っていた市川の経歴を、二宮が思い出す。

「13歳の時 中学校の教室で同級生に将棋を習ったんだと」

13歳で将棋を覚えた少年が、17歳で三段リーグの最終戦、昇段をかけた一局に座っている。

4年で三段リーグの最上位まで来た——これは異常な速度だ。

そして朔の告白が重い。

「僕も神童いわれててな 東京の親戚ん家に行った時 東京将棋会館へ行ったんや 武者修行て言うか心境は道場破りに近いな 師匠にもちて関西奨励会を目指してたし 自信はそれなりにあった そこで僕は 棋士になるのをあきらめた」

神童と呼ばれ、師匠まで見つけ、関西奨励会を目指していた少年が、東京将棋会館に一度足を運んだだけで諦めた。

何を見たのか、この回では語られない。

100話で天戸が語った「屍の上に立つ棋士たち」というテーマが、また別の角度から差し込まれた。

木佐貫の「喜んで踏み台になろうと思う」、狩房あやめの「後はあんたに託したで碧」——

そして朔の「俺がなれなかった棋士に」。

この作品は、諦めた人間の言葉を絶対に軽く扱わない。

「久慈彼方を倒す」——記録を暗唱する男の動機

市川が久慈彼方の戦績をすらすらと並べる場面も見逃せない。

「最年少14年3ヶ月で四段昇段 29連勝の連勝記録保持者 竜王戦6組を優勝 15歳にして五段間近」

二宮が思わず言う。「よく知ってますね 彼方のこと」。

これは憧れではなく、標的として暗記している数字だ。

清太郎が佳澄への「93回おごって51回勝った」を覚えていたのと同じ精度である。

そして市川の目標が明かされる。

「あと一勝 二宮君に勝って棋士になって 久慈彼方を倒す」

ここで気づくのだが、市川の動機は二宮とほぼ同じ形をしている。

二宮は前回「彼方 清太朗 碧 三人は常に僕の先を行く 僕も行くぞ」と燃えていた。

市川も久慈彼方という頂点を倒すために棋士になろうとしている。

さらに二人とも、他人から託された言葉を背負っている。

二宮には茅森月の「棋士になって私を待ってて」があり、市川には朔の「俺がなれなかった棋士に」がある。

託された者同士が、たった一つの枠を争う。

これほど残酷で、これほど美しい構図があるだろうか。

まとめ——18戦目、どちらが勝っても誰かの約束が残る

109話は、対局の決着と、次の対局の重さを同時に積み上げた回だった。

七尾の「今は届かんかった」、市川の「朔 ここまで来たよ」、そして「久慈彼方を倒す」。

全部が「まだ終わっていない」という言葉として並んでいる。

Twitterで「いよいよ煮詰まってきたな」という声があった。まさに煮詰まっている。

しかも今回、作者は市川周鳳に完全に感情移入させてから18戦目に送り出してきた。

これまで市川は、格調高い喋りで盤外から解説してくれる印象的な脇役だった。

その男に、諦めた友人との約束と、頂点への標的が与えられた。

これはもう、どちらが勝っても誰かの約束が置き去りになる一局だ。

二宮夕飛が勝てば、朔の「なれなかった棋士」がまた一つ遠のく。

市川周鳳が勝てば、茅森月は「待ってて」と言った相手を待ち続けることになる。

将棋の神さんはドラマチックがお好みのようや——木佐貫の言葉が、また効いてくる。

来週が、待ちきれません!!

もっと読む

キャラクターや将棋用語をじっくり知りたい方は → 盤上のオリオン まとめ・一覧

これまでの対局の流れを振り返りたい方は → 過去の最新話一覧

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