【弱虫ペダル】福富寿一の過去|幅跳びに懸けた中学時代、三連続ファウルと新開隼人との出会い(SPARE BIKE大学編)

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まとめ

「オレは強い」――箱根学園の主将として何度も口にしてきたあの言葉。その原点にあったのは、自転車ではなく陸上競技・幅跳びでの挫折でした。

大学1年の夏休み、同級生の桑葉と過ごす何気ない一日の中で、福富は自分の中学時代を語り始めます。雨の記録会、家族と交わした「約束」、そして新開隼人との出会い。SPARE BIKEで本格的に描かれた“福富編”は、あの男がなぜ自転車に乗り、なぜ新開と名コンビになったのかを明かすエピソードでした。

この記事では、前半で物語の流れをまとめ、後半でこのおじさんなりの感想・考察を書いていきます。

該当話数はspare.137〜145を参照しています。細かいセリフや表情の描写はぜひ本編でお楽しみください。


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夏休みの福富と、桑葉の「昔何かスポーツやってたの?」

物語は、夏休みにひとりで山登りをする福富の姿から始まります。理由は「一人で山登りするのが大学生っぽいと思ったから」。山頂で弁当を食べても表情ひとつ変えず、チェーンが外れて困っている学生を「ぐいん」と一瞬で助けて去っていく――と、序盤はいつものマイペースな福富です。

空気が変わるのは、同級生の桑葉に誘われて海の見えるカフェに行った場面。福富の体格を見た桑葉が、何気なく尋ねます。

「福富くん昔何かスポーツやってたの?」

返ってきた答えは、自転車ではありませんでした。

「陸上競技ー 幅跳びに全てを懸けていた」

福富は、中学2年の春の記録会でやめたこと、そしてその結果が「最悪」だったことを打ち明けます。同時に脳裏に浮かんだのは、高校2年・広島インターハイでの金城との一件でした。


雨の記録会と、三連続ファウル

中学2年の春、雨の記録会。自己ベスト5m92の福富は最終組で、周りからは「6mとぶ」と期待されていました。しかし1回目は6mを超える跳躍がファウル。2回目も「栄光の光」が見えるほどの大ジャンプでしたが、再び赤旗が上がります。

福富が追い込まれていた理由は、家族との「約束」でした。父も兄もロードレースの優勝経験者という自転車一家で、父は自転車の大会に出ろと迫ります。「自分一人の力だけでいける」陸上を選んだ福富は、ついにこう宣言していたのです。

「オレは速い‼それを証明する‼ できなかったら陸上部を辞めてやる!!」

そして3回目。雨がやみ、光が射す中での最後の跳躍も――ファウル。三連続ファウルで記録なし。福富はしばらく立ち上がれず、数日後に陸上部へ退部届を出しました。


新開隼人の「一人で背負わなくていい」

「たられば」に苦しみ、授業中も上の空だった福富に声をかけたのが、小学生の頃にレースでよく一緒だった新開隼人です。海の見える道を一緒に走った休憩中、あんぱんを半分に分けながら新開は言います。

「チームスポーツだから 一人で背負わなくていいんだ」

その意味がわからないまま挑んだ300mのスプリント勝負で、福富は新開に完敗。家に帰った福富は、兄にこう頼みます。

「自転車で強くなる方法を教えてくれ 負かしたい男ができた」

再戦のために福富が選んだのは「同じ部活に入る」というシンプルな答えでした。自転車部に入っても新開には10戦10敗。それでも2年の終わりには初優勝を果たし、自分以上に喜ぶ新開の姿を見て、あの言葉の意味を少しだけ理解します。こうして“山の福富”と“直線の新開”は、揃って箱根学園へ進むのです。


江ノ島からの帰り道

回想を終えた現在。桑葉と自転車で江ノ島を訪れた帰り道、バテてしまった桑葉の前に出て、福富は風よけになります。

「心配するな自転車は 苦しみを一人で背負わなくていい乗り物だ‼」

福富が自転車競技部だと知らない桑葉に「レースとか出た方がいい!」と勧められ、「出てますよ」と返すオチまで含めて、見事な着地でした。そしてその夜、福富はお土産を持って新開の部屋を訪ねます。


感想・考察

「オレは強い」は、自分を奮い立たせるための言葉だった

本編で福富が「オレは強い」と言うとき、このおじさんはずっと“王者の自信”だと受け取っていました。でも今回の過去編を読むと、この言葉の見え方がガラッと変わります。

三連続ファウルのあと、髪を切り、何度も「オレは強い」と繰り返す中学生の福富。あれは自信ではなく、自分のことが嫌いになるほど打ちのめされた少年が、立ち上がるために自分へかけていた言葉なんですよね。

そう思うと、箱根学園時代の「オレは強い」も、少し切なく聞こえてきます。強い人が強いと言っていたのではなく、強くあろうとする人が言っていた。福富というキャラクターの芯が一本通った気がしました。

「焦り」は、福富が今も抱えているテーマ

印象的だったのは、中学時代の話をしようとした福富が、まずインターハイ2日目の金城との一件を思い出すところです。

「中学の時は自分自身のものを」「高校の時は他の人の大切なものを」

中学では自分の夢を、高校では総北の積み上げてきたものを、どちらも「焦り」で壊してしまった――。本編では金城に謝罪して一区切りついたように見えたあの出来事を、大学生になった福富がまだ背負い続けていることがわかります。

このおじさんは、ここがSPARE BIKEの良さだと思っています。本編では描き切れない「その後の心」を、時間をかけて掘り下げてくれる。福富の「焦り」は、きっとこの先の大学編でもどこかで向き合うテーマになるのではないでしょうか。

兄の「2人で全国いける」が、新開との出会いの伏線に

家族会議の場面で、兄が言った「ロードなら仲の良い2人がいたら、2人で全国にいける」という趣旨の言葉。当時の福富は「信じられるのは自分の力だけ」とはねつけます。

ところがその後、福富は新開と出会い、実際に“2人で”強くなっていくんですよね。兄の言葉は説教としては届かなかったけれど、新開という存在を通して、体で理解することになる。この構成がとてもきれいでした。

しかも新開は、福富の傷に深く踏み込まず、「その話はいいよ」と引いてからあんぱんを半分くれるだけ。言葉で救うのではなく、一緒に走ることで救う。新開らしい距離感だなと思います。

「勝負だ!!新開!!」――負けず嫌いが原動力になる瞬間

陸上部をやめたときは「自分一人の力でこの苦しみを乗りこえる」と言っていた福富が、新開に負けてムッとした瞬間から、急に生き生きし始めます。兄に頭を下げ、朝練に通い、再戦のために同じ部に入る。

本人はまったく気づいていませんが、陸上の痛みを乗りこえさせたのは「一人の力」ではなく、「負かしたい相手」の存在でした。10戦10敗でも心が折れないのは、相手が新開だったからこそでしょう。

名コンビの誕生が、友情ではなく「こいつに勝ちたい」から始まっているのも、いかにも弱虫ペダルらしくて好きなところです。

新開の言葉を、今度は福富が桑葉に渡す

そして一番グッときたのが、江ノ島からの帰り道。かつて新開にもらった「一人で背負わなくていい」を、今度は福富が、自分の言葉で桑葉に渡しているんです。

しかもその場所が、一年前のインターハイのスタート地点・江ノ島。スタートゲートの島側を見て回る余裕もなかった場所を、今は友達とのんびり走っている。福富の中で、何かがひとつ区切られたように感じました。

その夜に新開の部屋を訪ね「昔話をしよう」と言う福富。2人がどんな話をしたのか、描かれていない部分まで想像したくなる、余韻のあるラストでした。


まとめ

福富寿一の過去編は、「オレは強い」という言葉の裏にある雨の記録会での三連続ファウルと、「焦り」で全てを失った中学2年の春を描いたエピソードでした。

「一人の力だけでいける」陸上を選んだ少年が、新開と出会って自転車に戻り、大学生になった今はその言葉を誰かに渡す側になっている。福富と新開の絆の原点を知ると、本編の箱根学園の2人がまた違って見えてきます。

福富や新開が好きな方は、ぜひ単行本や本誌で、表情やコマ運びも含めて味わってみてください。


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