【盤上のオリオン 110話ネタバレ】扉の先にいたのは――朔が棋士をあきらめた日と、始まる最終対局

盤上のオリオン

週刊少年マガジン掲載の漫画 盤上のオリオン最新話の感想、考察をお届け。

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盤上のオリオン 第110話 最新話 あらすじ(ネタバレ注意)

前回までのあらすじ

佳澄碧が初の女性棋士となる。

もう一人棋士になるのは!?

残り2戦、昇段の可能性があるのは二宮夕飛(2敗)・市川(2敗)・七尾(3敗)の三人。

第17戦の二宮対七尾の対局は二宮の勝利。

午後の対局に備え、神社で昼食をとろうとした二宮。

隣にいたのは午後の対局相手の市川であった。

市川が騎士を目指したキッカケが明かされる。

前回の記事はこちら【盤上のオリオン第109話】

▶ 次の話(111話)はこちら → 【盤上のオリオン 111話ネタバレ】「お前は俺の夢や」――千歳朔の鼻っ柱を折った二面指し

今回のあらすじ

冒頭は市川周鳳の回想から始まる。

中学の教室、机に伏せて眠っていた市川を起こしたのは駒音だった。

窓際で一人将棋を指していた朔が声をかける。

「僕と一局指さへんか? 市川周鳳」

そして午後——市川周鳳15勝2敗、二宮夕飛15勝2敗。

2敗を死守した両者による、三段リーグ第18戦・最終対局が始まる。

勝者ただ一人が棋士となる。

見守る七尾は「勝ってや市川…いや…でも勝たれると」と揺れ、生方は「どっちも棋士になれたらいいのに」とこぼす。

対局は二宮の意表を突いた序盤から動き出し、市川は「カオスの予感がする」と笑う。

そして再び回想へ。

攻撃一辺倒で負け続ける市川に、朔は「守るんはつまらん」でもええ、でもおもろい棋士やと告げていた。

半年で自分を追い抜いた市川に、朔は言う。

「お前には間違いなく才能がある お前みたいな天才が棋士になるんや」

では朔自身はどうなのか。

「そりゃなりたかったよ…棋士は俺の夢やから」

過去形で語られたその理由——2年前、腕試しに訪れた東京将棋会館。

扉の先にいたのは、幼き日の天才だった。

盤上のオリオン 第110話 X(旧Twitter)での反応

盤上のオリオン 第110話 感想・考察・まとめ

「僕と一局指さへんか?」——すべては教室の駒音から始まった

110話は、市川周鳳の始まりの場面から幕を開ける。

中学の教室。机に伏せて眠っていた市川の目を覚まさせたのは、窓際で一人将棋を指す駒音だった。

寝ぼけ眼で「しょう…ぎ」とつぶやく市川に、朔が振り向いて言う。

「ああ起こしちゃった? 君は将棋できる? 僕と一局指さへんか? 市川周鳳」

おじさんはこの一コマで胸がいっぱいになった。

87話で生方橙和が「駒音が聞こえる」と語ったことを思い出す。

駒音は、人と人をつなぐ合図

眠っていた少年を起こしたのが駒音だったという過去が、あまりにも美しい。

しかも朔は、クラスメイトの名前をちゃんと呼んでいる。

一人で将棋を指しながら、教室で寝ている同級生の名前を知っている少年。

「僕と一局指さへんか?」——この一言が、三段リーグ最終戦の席に座る男を生んだ。

15勝2敗同士の第18戦——「どっちも棋士になれたらいいのに」

そして舞台は午後の将棋会館へ。

市川周鳳15勝2敗。二宮夕飛15勝2敗。

2敗を死守した両者による三段リーグ第18戦、最終対局。

勝者ただ一人が棋士となる。

この状況で見守るギャラリーの反応が、今回とても良かった。

七尾正文——「勝ってや市川… いや…でも勝たれると」

木佐貫昇太——「どっちもがんばりや…せやけど関西勢的には…」

勉三は「二宮くん」とだけ絞り出し、佳澄碧は「私の後塵を拝してな…」と不敵に構える。

そして生方橙和がぽつりと言う。

「どっちも棋士になれたらいいのに」

この一言が、今回いちばん優しくて、いちばん残酷だ。

七尾も木佐貫も、関西勢として市川を応援したい。でも二宮にも上がってほしい。

応援する側にすら「どちらかを選べ」と迫るのが三段リーグなのだ。

生方の言葉は願いであると同時に、絶対に叶わない願いだと全員がわかっている。

108話で大会関係者が語った「願わくばすべての試験者にとって実りある三段リーグであってほしい」という祈りが、ここでもう一度、13歳の口から素直な形で反復される。

【将棋用語】4手目3三角——カメレオン戦法とは何か

対局が始まると、市川が最初に反応したのが二宮の序盤だ。

「4手目 3三角 カメレオン戦法 研究外しか意表をついたのか」

せっかくなので少し寄り道させてほしい。

カメレオン戦法とは、4手目という早い段階で角を3三に上がる指し方だ。

普通、序盤の角は自分の攻めの形が決まってから動かす駒である。

それを早々に上がってしまうと手の内が見えそうなものだが、この形の恐ろしいところは逆で、

そこから居飛車にも振り飛車にも変化できる——つまり色を変えられる。

カメレオンという呼び名の由来はここにある。

相手の出方を見てから自分の戦型を決められるので、事前研究をぶつけたい相手にとっては非常にやりにくい。

つまり二宮は、「あなたの研究に付き合う気はありません」と序盤で宣言したわけだ。

108話で七尾が「対策が台無しやんか!!」と絶叫したことを思い出してほしい。

二宮夕飛はこの最終日、相手の準備を無効化することを一貫してやっている。

「新世代の受け師」が、受けるどころか序盤から相手の土俵を崩しにいく。

そして市川の反応が最高だ。

「いいね カオスの予感がする 眠い対局は望んでいない 知りたいのは君たちの棋力だ 運命の子」

「眠りの超急戦」という異名を持つ男が「眠い対局は望んでいない」と言う。

このセリフ回し、絶対に狙っている(笑)。

「守るんは…つまらん」——「眠りの超急戦」の原点

回想パートで明かされる市川の原点が、今回の白眉だ。

負けるたびに「もう一回や」と食い下がる中学生の市川に、朔が指摘する。

「攻撃一辺倒 守備おろそかにするからカウンターくらうねん 王手指されたらうろたえすぎや 凌げばいいんや 陣形が中途半端やからあわてんねん」

これに対する市川の返事が、「守るんは…つまらん」である。

出た。これが「眠りの超急戦」「睡拳」と呼ばれる超攻撃型棋風の、正真正銘の原点だ。

そして朔の返しが本当に素晴らしい。

「お前はそれでええかもしれん 攻撃偏重で負け続ける将棋指しな でもおもろい棋士や」

直そうとしないのだ。

普通、教える側は欠点を矯正しようとする。「守りを覚えろ」と言うのが正しい指導だろう。

しかし朔は、指摘だけして「お前はそれでええ」と認める。

しかも「将棋指し」と言ったあとに、わざわざ「でもおもろい棋士や」と言い直している。

まだ奨励会にも入っていない中学生を、朔はもう「棋士」と呼んでいる。

59話で茅森月と殴り合った市川の将棋も、今日「カオスの予感がする」と笑う市川も、全部この教室から地続きだ。

「僕もついて行くから」——朔という人の優しさ

半年で自分を追い越した市川に、朔が驚く場面もいい。

「お前…ホンマに強くなったな… 半年前に将棋覚えたやつがこの手指せる?」

将棋会館に出入りするそこそこの実力者が、半年で追い抜かれている。

そして朔は迷わず言う。「棋士になる気ないか? 周ほう」と。

ここからの押し方が、この男の人柄を全部表している。

市川が「いやや」と渋ると「僕もついて行くから!!」、

まだ渋ると「指してる時隣にいるから!!」。

しまいには「ホットアイマスクあげるから!」でもう一局ねだる(笑)。

自分の夢を託そうとしているのに、押しつけがましさが一切ない。

「かわいいやっちゃで!!」と笑う朔とのやりとりが、読んでいて眩しかった。

そして決定的な一言。

「お前には間違いなく才能がある お前みたいな天才が…棋士になるんや」

109話で明かされた「周鳳 お前は棋士になれるよ 俺がなれなかった棋士に」という言葉の、これが元の形だ。

扉の先にいた天才——朔が「過去形」になった日

そして市川が聞く。「朔はどうなの? 朔は棋士になりたいとは思わないの?」

将棋部を作るくらい将棋が好きな男が、なぜ自分は目指さないのか。

朔の答えが、静かに刺さる。

「そりゃなりたかったよ… 棋士は俺の夢やから」

市川がすぐに気づく。「過去形」

そして2年前の話が始まる。

関西研修会に通い、弟子入りもしていた。腕試しのつもりで東京将棋会館の扉を叩いた。

「ちょっとは自信あったんや」

事務員が同年代の相手を探し、「あ!バッチリいい子がいたわ」と連れてきた相手——

久慈彼方。

しかも久慈の第一声が「え? 僕ですか? でも今将バト中で」である。

将棋バトロワの最中だから、という理由で渋られている。

事務員に「いつも見逃してあげてるでしょ」と押し切られ、「他の人があくまでなら」と嫌々受ける。

この徹底的に「ついで」な扱いが残酷すぎる。

朔にとっては人生を賭けた腕試しだった。

久慈にとってはゲームを中断させられた面倒事だった。

109話で朔は「そこで僕は 棋士になるのをあきらめた」とだけ語っていた。

その空白に何がいたのかが、今回ついに明かされたわけだ。

扉の先には、幼い頃の天才の姿——。

久慈彼方はこの物語の頂点であり、茅森月を「児戯に等しい」と一刀両断した男でもある。

16話で茅森月を奨励会へ向かわせたのも、朔から夢を奪ったのも、同じ人物だ。

同じ一局が、ある者を燃やし、ある者を折る。

まとめ——夢を託された者が、夢を折られた者の前に座る

110話は、対局が始まったのに回想がその倍のページを占めるという構成の回だった。

しかしこれが楽しみすぎて、私の中では正しい。

Twitterで「過去話がありながらだからコレも長くなりそう」という声があったが、まさにその通りで、この最終戦は市川周鳳の人生を全部見せてからでないと決着させられないのだと思う。

整理するとこういう構図になる。

  • 朔は久慈彼方に折られ、棋士の夢を過去形にした
  • その朔が「お前みたいな天才が棋士になるんや」と市川に夢を託した
  • 市川は「久慈彼方を倒す」ために棋士になろうとしている
  • そしてその前に座っているのが、久慈彼方が最もこだわった相手・二宮夕飛である

折られた夢と、託された夢と、頂点への執着が、一つの盤上に集まってしまった。

二宮には茅森月の「棋士になって私を待ってて」があり、市川には朔の「お前が棋士になるんや」がある。

どちらの言葉も軽くない。だからこの一局は、どちらが勝っても誰かが泣く。

来週は久慈彼方と朔の対局が描かれるはずだ。

何が朔を折ったのか——それを見届けないことには、市川周鳳という棋士を理解したことにならない。

来週が、待ちきれません!!

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